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東京・春・音楽祭 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 演奏会形式上演 [国内クラシックコンサート・レビュー]

思うに、東京春祭のワーグナー・シリーズの水準って素晴らしく高いものだと思う。去年のタンホイザーが初体験だったが、じつに素晴らしかったし、今年のマイスタージンガーにしても然りだ。

両演目とも、ベルリン・フィルハーモニーで、ワーグナー解釈の権威のヤノスフキが振るベルリン放送響の演奏会形式を聴いたが、文句なし両演目とも、東京春祭のほうが断トツで素晴らしかった。何よりも公演が終わった時に放心状態になってしまうくらいの劇的なドラマを感じる。

私もそうだが、日本人のクラシック愛好家に中に介在するヨーロッパのオケに対する敬愛、偏重主義みたいなものをぶち壊してしまう感がある。N響、東京オペラシンガーズ、万歳!である。日本人、日本の企画でもここまでやれるのだ!と見直すと同時に誇らしく思う。

マイスタージンガーは、2年前のベルリン旅行のときに徹底的に勉強したオペラだ。隅々まで知り尽くしている。今回もほとんど予習せず、前日にPENTATONEのヤノフスキ盤を全幕聴いたのと、ベルリン・ドイツ・オペラのオペラ形式を観た程度だ。(それでもすごいか?(笑))

重くて神仰的なストーリーの多いワーグナー作品の中では、珍しく喜劇作品の範疇で、気軽に楽しめる作品。ワーグナー・オペラを観てみたい人にとっては、マイスタージンガーはいわゆるワーグナー初心者向け、誰でも楽しめる作品だと思う。なによりも超有名な前奏曲をはじめ、劇中を綴る音楽がじつに秀逸だ。

今回は、あのクラウス・フロリアン・フォークトがヴァルター役を演じるということで話題だった。フォークトにヴァルター役はまさにぴったり。2008年のバイロイト祭で同役でデビューしている。

この公演に行った人の大半はフォークトが目当てだったのは間違いない。もちろんそういう私もそうだ。

東京文化会館大ホール 私の座席(1階6列28番)
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フォークトを間近で観たかったので、最前列の席を取った。見事目的達成!歌っている姿も美声も超至近距離で楽しめた。(笑)コンサートホールの音響の原理や私の好みからすると、全体の音のバランスを俯瞰できて、ホール全体の響きを味わいたいのなら、後方の上階席がベストだ。後方のほうが、左右の壁からの反射音や、天井からの反射音などのホールの響きを十分に堪能できる。さらに上階席だと天井に近いので、尚更響きを近くで堪能できる。その代り音像は犠牲になる。1階席では天井からも遠いし、響きは感じづらい。でもオペラのような声ものだと、やはり階下席、つまり1階席のほうが声をダイレクトに聴けるし、楽しめると最近思うようになった。

ほぼ最前列だったので、オケが発生する音を聴いていて指向性を感じるのでは、とも思ったが、幸いなことにそういう感じはしなかった。

いよいよN響による前奏曲。
出来不出来のバラつきで不評の多いN響だけに、出だし、うまくいってくれよ、という感じでドキドキしたが、これがじつに素晴らしかった。 弦に潤い感があって、とくに低弦が素晴らしい。あの超有名な旋律を華麗に奏でる。最前列で聴いているにも関わらず、音場感が広く感じられ、ステージ上方にサウンドステージがぽっかり浮いているような感じすらした。

出だしから最高に気持ちよくさせてくれる。この演奏の安定さ加減から、今夜のコンサートは素晴らしいものになる、と感じざるを得なかった。ところが、この前奏曲の後のコラールの合唱の部分、これはいかんだろう!むかっ(怒り)なんと舞台裏で歌っていた。ここはやはり、きちんとステージ上で歌っているのを聴きたかった。前奏曲から、このコラールの部分に切り替わるところが最高にしびれる、ところなのだ。

そういう訳で、いよいよ始まりなのだが、ここで歌い手達の印象を述べてみよう。

ザックス役のアラン・ヘルド
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おそらく私がいままで観てきたマイスタージンガーのザックス役の中でもっとも素晴らしい声質。この楽劇では大きくザックス派とヴァルター派に別れると思うのだが、絶対ザックス派の自分にとっては、このザックスの声質というのがとても気になっていた。なぜならヴァルター役がフォークトだから。(笑)フォークトに負けないだけの存在感、そしてザックスという男の渋さを醸し出してくれるようなキャラなのか、どうか。これが心配だった。でもいらぬ心配だったようで、素晴らしい声質、声量だった。バス・バリトンの低音の魅力溢れる特徴ある歌声で自分のザックスのイメージにピッタリだった。本当に良かった。敢えて苦言を言わせてもらうならば、頭髪がないことか。(笑)外見で、もうちょっと若々しいイメージがほしい。(苦笑)2枚目のヴァルターに対して、渋くて男らしい格好よさを持っているのが、私のザックス像なのだ。

ヴァルター役のクラウス・フロリアン・フォークト 
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もう今更説明の必要はないだろう。いまもっとも輝いているテノール。神様は、人を選んで、まさにこの人の声は神様からの授かりものなのかもしれない。発声に余裕があって簡単にすぅっとよく通る声で、しかもその甘い美声がホール一杯に広がっていくさまに、この世のものとは思えない快感を覚える。特にこの楽劇の最高潮の場面でもあるアリア「朝はバラ色にかがやき」。エファ獲得のために懇身をこめて歌う歌合戦の最高潮の場面。何を隠そう、今回の最大の目的、フォークトが歌うこのアリアを聴きたかった!筆舌では語りきれないほど素晴らしい快感だった!女性ファンにとっては堪らんだろうなぁ。(笑)

ベックメッサー役のアドリアン・エレート 
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4日の公演に先に行かれた方のたくさんの日記を読ませていただくと、みんなこのエレートを絶賛していた。ほぼ全員だ。
だからとても楽しみにしていた。そして彼の第1声を聴いたときに、まず感じたのは、正直に言わせてもらうと、声質、声量ともパッとしない感じで、来るものがない。この人のどこがいいのだろう?という感じだった。劇中ずっと聴いていてもその印象は変わらず、歌手としての力量もそれほどのもの、とは思えない感じだった。ところが途中から気付いたことがある。この楽劇の中で唯一の悪役を一手に引き受けて、その悪役ぶりを演ずるその演技力にその個性を感じるようになった。いかにも嫌な奴なのだ。(笑)その悪役ぶりも歌いながら顔の表情なども豊かな演技が素晴らしい。これは素晴らしい個性派の歌い手だと思えるようになった。案の定、カーテンコールではフォークトに続く2番目の大人気での喝采であった。
この楽劇で主役達が映えるのも、こういう悪役が素晴らしいからであって、観客もそのことをよくわかっていた。

エファ役のアンナ・ガブラー
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申し訳ないが、今回で1番の残念賞だった。もともと代役のピンチヒッターのようだが、この人の声質、声量はいただけなかった。まずあきらかな声量不足。声が通る感じとはほど遠く、声を張り上げるとようやく通る感じなのだが、そのときは耳に突き刺さるような感じで聴感上よろしくない。(笑)この楽劇でエファはとても大切な役柄なだけに、とても不満であった。なんとこのお方、ザルツブルク音楽祭のマイスタージンガーでもエファ役で歌うのだそうな。たらーっ(汗)あぁぁぁ~なんだかなぁ。

ボークナー役のギュンター・グロイスベック
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この人の声質、声量は文句なし、素晴らしかった。自分が抱いているボークナーの声のイメージにぴったりで、とても太くて美しい声。声量も十分だ。若い歌手だけに、これからの領主や王様の役に引っ張りだこになるだろう。


この楽劇、いろいろな魅力的なアリアがたくさんあるのだが、どれも素晴らしくひとつひとつ取り上げていくと大変な長文になってしまうので、やめておくが、思ったのは、やはり演奏会形式は、歌い手達に演技の負担がない分、歌うことに専念できる。またオーケストラもピットに閉じ込められて音響が悪いというのと違って、今回はステージ上にいるので、とても音が素晴らしい。歌い手、オケ、そして合唱団が一体となって素晴らしい音を奏でる。

音マニアにとっては堪らない感じの素晴らしさだった。オペラ形式は、歌、演技、衣装、舞台演出などたくさんの評価項目があって、それらの総合芸術だと思う。なので音響は多少犠牲にしてもトータルとして楽しむのがオペラの楽しみ方なのだと思っている。

今回の演奏会形式は、字幕が後ろのスクリーンに映し出されるシステムで重唱などもわかりやすいように工夫された字幕だ。演奏会形式だけど、その字幕を追っているだけで本物のオペラ形式を観ているような満足感があったし、なんといっても歌い手達の歌、合唱がドラマティックだ。第三幕の五重唱は自分の中では、かなり感動して涙ぐんだ場面。

敢えて苦言を言わせてもらえば、スクリーンの映像がセピア色なのに字幕が白字だと見えずらい。背景はもっと寒色系の色にして白字を浮かび上がらせるようにしないと。あれじゃ後方席の上階の人は見えなかったじゃないかなぁ。

あと字幕でエファ”ちゃん”。これも超違和感。(笑)オペラの字幕で”ちゃん”呼ばわりはあまり聞いた事がない。エファの呼び捨てでいいだろう、と思った。

フォークトが歌う「朝はバラ色にかがやき」は、ザックスと練習で歌っていたほうが発声が大きく素晴らしかった。肝心の本番のときは、なんか一種独特の緊張感、雰囲気があってフォークトも緊張しているような感じがした。そして本番を歌っているときに息継ぎのところで失敗したことを私は見逃さなかった。(笑)あの場面はやはり特別な雰囲気だね。

第三幕の後半、ヨハネ祭以降はまさに怒涛の素晴らしさ。そして最高潮のエンディング。そしてカーテンコールが終わっても、頭が真っ白で放心状態が続いてた。

たぶん自分の鑑賞人生の中でもまさしく世界最高レベルの「マイスタージンガー」だった。

東京春祭のワーグナー・シリーズというのは自分にとって鬼門だと思う。(笑)ここでやる演目が必ずその後の海外音楽鑑賞旅行でも鑑賞することになっていて、東京春祭があまりに素晴らしかったので、それと聴き劣りする感じでがっかりするのだ。(笑)

去年のタンホイザーがそうだった。今年はマイスタージンガー。今年の夏のザルツブルク音楽祭でこのオペラ形式を観る。

たぶん、そう、たぶん、これだけすごいマイスタージンガーを聴いちゃうと、本番ではがっかりするんじゃないかなぁ。(笑)
第一、フォークトを勝るヴァルター役がいるとは思えないからだ。(苦笑)

向かって右端がザックス役のアラン・ヘルド、2番目がヴァルター役のフォークト
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東京・春・音楽祭2013 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」演奏会形式上演
2013/4/7 15:00~
東京文化会館 大ホール 

ハンス・ザックス:アラン・ヘルド
ポークナー:ギュンター・グロイスベック
フォーゲルゲザング:木下紀章
ナハティガル:山下浩司
ベックメッサー:アドリアン・エレート
コートナー:甲斐栄次郎
ツォルン:大槻孝志
アイスリンガー:土崎 譲
モーザー:片寄純也
オルテル:大井哲也
シュヴァルツ:畠山 茂
フォルツ:狩野賢一
ヴァルター:クラウス・フロリアン・フォークト 
ダフィト:ヨルグ・シュナイダー
エファ:アンナ・ガブラー
マグダレーネ:ステラ・グリゴリアン
夜警:ギュンター・グロイスベック

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ


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コメント 2

michelangelo

ノンノン様

はじめまして、こんにちは。マイスタージンガーを検索しておりましたら、貴ブログに辿り着きました。臨場感たっぷりの素晴らしいご感想に、感動致しました。

海外でのオペラ鑑賞との比較、なかなか拝読できないので大変興味深く読ませて頂きました。日本に居ながらにして鑑賞出来たこと、私自身もう感謝の気持ちでいっぱいです。

第3幕の五重唱は、私も息を呑みました。素晴らしかったです。初日(3階席)で聴いた時より、2回目(1階席)での方が堪能でき、やはり指向性のある声楽については(グルベローヴァ氏は特例だとしても)最前列から15列くらいまでが限界かなと感じました。ノンノン様は最高のお席で聴かれたのですね。羨ましいです。

「朝はバラ色にかがやき」は、同感です。しかし、ノンノン様がご鑑賞なさった日の方が、フォークト氏の表情や演技は光っており、高音については初日よりもバッチリ決めていました。初日は、オペラ歌手の皆様やや緊張感が高めでした。但し、エレート氏は初日の方が音程が安定しており、ご本人ではないので分かりませんが少々お疲れの気がしました。ことヘルド氏については、明らかに2日目の方が遥かに良かったです。初日も巧いながらも、こまめに水分補給をなさっていましたから。

それにしましても、フォークト氏もたった42歳43歳で頂点に登りつめ、人間として本当に逞しいなと感動しました。私は面倒くさがり屋なのでサイン会や出待ちはパスする派ですが、今回は珍しく様子を伺いに足を運びました。お一人お一人、丁寧にサインなさる氏でありながら、余りに殺到した為サインは十数名で打ち切り。素晴らしかったのは、「(サインが出来ずに)ごめんね」と申し訳無さそうに謝られていた事。お人柄を感じた瞬間でした。

長々と、大変失礼致しました。
by michelangelo (2013-04-13 16:56) 

ノンノン

michelangeloさん
コメントありがとうございます。

michelangeloさんのブログも拝見して、今回の公演の日記を読ませていただきました。格調高い文章で素晴らしいですね。2日間とも行かれたとのこと羨ましいです。さっそく貴ブログをお気に入りに登録させていただきました。フォークトは本当に素晴らしかったですね。

2日間のそれぞれの歌い手のコンディションの違いも刻銘に感想をいただき恐縮です。概して私が行った7日の公演のほうがよかったみたいですね。またフォークトが来日するのは、いつになるのでしょうか?とても待ち遠しいですね。私もフォークトの大ファンです。
by ノンノン (2013-04-14 02:01) 

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