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体験!バイロイト祝祭劇場 Nr.3 [海外音楽鑑賞旅行]

オペラハウスの音響学を考えるときに、単にステージ上の歌手の声が、客席に綺麗に聴こえるだとか、ピットのオーケストラの音が客席に豊潤に聴こえるだとか、いわゆる単に、対聴衆、対観客席という我々の目線だけで評価してはダメなのである。

オペラというのは、歌手とオーケストラとのブレンド&調和がとても大事なファクターで、歌手がオーケストラとうまく調和して歌うためには、透明でバランスの取れたオーケストラの音が歌手に聴こえないといけない。

これが実現すれば、歌手は自分の声量を適切に調節することができる。

一方、ピット内のオーケストラ奏者は他のパートの音が聴こえる必要があるし、また良好なアンサンブルを保つため、演奏者には歌手の声が聴こえる必要がある。さらに視覚的条件として、歌手と演奏者から指揮者が容易に見えることが当然のことなのである。

オーケストラ奏者と歌手にとって、お互いの音が聴こえることは、お互いに見えることよりも重要なことなのである。

我々聴衆に音を送り届ける前に、まず、歌手の声はピットに、そしてオーケストラの音を舞台に返す、という前提があること。

こういうキャッチボールが内々的に必要なのも、やはりオペラハウスの音響学の難しさなのかもしれない。

単にステージ上の音を観客席に隈なく送り届ける仕組みだけに執心すればいいコンサートホールよりも、ずっと難易度が難しいところなのだと思う。

オペラハウスのピットの形状には、つぎの大きく二つのタイプに大別される。

①開放型ピット

ごく一般のオペラハウスのピットは、みんなこのタイプ。ステージの前方にオケのエリアがあり、ある程度の深さはあるものの、観客席からは、オケの姿は見えるし、ステージ上の歌手からも視認性がいい。敷居で囲まれているとはいえ、オケのサウンドはピットから上空のほうへ伝わり、ステージ、観客席に拡がっていく。まさに開放型である。

②沈み込んだ閉鎖型ピット

これは、まさにバイロイト祝祭劇場のピットのことを言っていて、ある意味、開放型ピットのアンチテーゼとも言える。いま、これから体験するのは、こちらのピットのことで、自分はバイロイト祝祭劇場を語るときは、このピットの特殊性がとても、このオペラハウスをユニークな存在にしているのではないか、と思うほどなのだ。

バイロイト祝祭劇場のピットは、ピットの半分くらいが、ステージ舞台の真下に埋め込まれた感じの状態になっていて、残りの半分のエリアがステージの外側に出ているとはいえ、その残りのエリアの上部は天蓋によってほぼ全面が覆われている。つまりフタが締められているのだ。そしてステージとその天蓋との間にスリットが入っていて、そのスリットからオケの音が絞り出されてくる仕組みなのだ。オーディオファン、オーディオマニアからするとどうなの?これって。(笑)


ワーグナーのオペラの場合、少なくとも彼の晩年の作品については、「見えない」オーケストラによる「神秘的」な音の創造が、作曲者の劇的な構想における重要な要素となっていて、この要件によってワーグナーは、沈み込んだ天蓋に覆われたピットを考案したのである。

自分がバイロイトを経験するとなったときに一番体験してみたかったのは、こういうピットスタイルでのオケのサウンドがどう聴こえるのか、ということが最大の関心事だった。他人の聴感レビューはあまり耳を傾けないふだんの自分にとって、ここは、自分の耳で直に確認してみたかった。

まず、前回のNr.2の日記で記載したように、ここのピットの写真を自分のデジカメで絶対撮影したかった自分は、苦心の末成功した。

それが、この写真である。

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自分の一生の宝物である。バイロイトに行った!という自分の証でもある。

世界中のコンサートホール&オペラハウスを探訪する者にとって、やはり他人の写真を拝借するのはいやなものだ。(たとえ、それがプロの写真家の撮影したものでも。。。)自分のカメラで撮影することで、初めて、そのホールへの征服感というのが達成される想いなのだ。

よく見るとオケの団員達の服装は、みんな私服である。(笑)やはり観客から見えない、さらに夏のシーズンということもあって、みんな私服なのだと思う。

この写真を見ると、いままでの説明が納得いくように、スリットが入っていて、そこからオケのサウンドがでてくる、というのが理解できるであろう。

それじゃ、一部がステージ舞台の下のほうに埋め込まれていて、残りのエリアが外に出ていて、そこは天蓋に覆われている、というのは、この写真だけでは、ちょっとまだ理解しずらいところがあって、もう少し解説にトライしてみたい。

ここからは、バイロイト音楽祭のFB公式ページの写真をお借りしたいと思います。

この写真が、ステージ側から観客席の方向に向かって、スリットを通して、ピットを撮影したものである。

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真ん中に指揮台の椅子があって、その前に、プルト・譜面台と団員の座る椅子が並んでいるのが分かる。つまり、オペラ指揮者は、この方向を向いて指揮していて、やはりスリットの中から、ステージ上を覗き込んで、オペラ歌手の動きを観ながら指揮しているのが納得いく感じだ。

やっぱりオペラの指揮は、オケと歌手との調和で、それを誘っているのが指揮者の仕事なんです。これはバイロイトでも変わらないポリシー。

次の写真が、その全く反対で、観客席からステージの方向に向かって、スリットの中を覗いて撮影した写真である。

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これを見ると、指揮者のいる床から、階段状になっていて、どんどん下の方向に深く下がっているのがわかる。

つまりふつうのオーケストラの配置で考えると、一番前に弦楽器群(弦5部)、そして真ん中に木管楽器群、そして奥に金管楽器、打楽器群となると、指揮者の手前の弦楽器奏者が、一番高いところに居て、木管、金管、打楽器となっていく順番で、階段状で下に深く潜り込んでいく感じなのである。

古い写真で申し訳ないが、バイロイト・ピットで演奏しているオケは、まさに、こんな感じで演奏しているのである。(写真のクレジットを見ると、なんと指揮者がワーグナーの長男のジークフリート・ワーグナー氏で、バイロイト祝祭管弦楽団の演奏風景のようである。)


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よくバイロイト・サウンドは、弦楽器はとてもパワフルに聴こえるのだけれど、金管群が遠く感じるとか、というレビューをよく読んだことがあって、それを読んだとき、このピットスタイルで演奏しているなら、それも当然だよな、と思うところがあった。



自分は渡欧前に、イメージしていたサウンドは、ステージ上の歌手の声は直接音、オーケストラは間接音を聴いている感じというものだった。間接音なので、直接音に比べると、あちこちで反射した後で、音のエネルギー感がかなり減衰している感じで、明瞭さに欠けるというイメージだった。

そしてなによりも、間接音であるならば、歌手の声、動きに対して、時間的、位相的にディレイ(遅れ)があって、観客席から観ていて、同期していないんではないか、と考えたことだった。

でも実際聴いてみた印象は、自分の理論はあれこれ考え過ぎの、空回りのところがあって、観客席でオペラを鑑賞しているというシチュエーションをからすると、なんら違和感はない、素晴らしいものだった。(かなり安堵した。)

ちょっと肩すかしを喰らった感じでもある。

まず、ステージ上の歌手の直接音。これは非常によくホール内を通る声で、よく伸びていた。

最上階席にいても、かなり明瞭に聴こえたので、声の通りは非常にいいホールだと思う。

そしてオケのサウンドも、とてもこういう構造のピット、スリットから絞り出されている音とは思えない極めて通常のサウンドだったように思えた。

なぜか、をここで理論的に説明するのは、ちょっと不可能。たとえば、こんなピットなら、すぐ思い出すのは、籠った感じの音に聴こえるとか、というイメージがつきまとうが、そうでないのだ。本当に、本当にごく普通の音。

まぁ、ある意味、ホール内を音が廻るぐらいか、というとさすがにそうでもなく、ステージ周りでのみ音が鳴っているという感覚は確かにある。でも、このピット構造なら、それは当たり前ではないだろうか?

ホールの響き自体も、極めてニュートラル(中庸)に近いレベルだけど、ほんのりとライブ気味寄りかな、というレベルと感じた。音質自体は比較的柔らかいウォーム系の音ですね。

でも自分が一番慄いたのは、ピットのオケが見えない状態で、ステージのどこから音が鳴っているのかわからない状態、観客席から見えない状態で、伴奏のオケが鳴っていることの、何とも言えない不気味さ。

ステージで歌手たちが歌っているときに、鳴っている伴奏が、どこから聴こえているのか、わからない、演奏している場面が見えない、なんとも言えない不気味さ、というのを感じて、これが、バイロイトの醍醐味、そしてワーグナーが目指していたところではないのかな、と思ったことだった。

素晴らしい体験だった!

以上3部に分けての大特集の体験記であったが、いかがであろうか?
バイロイト祝祭劇場のミステリアスな部分、特殊性が伝われば幸いである。

死ぬ前に、もう一回くらいバイロイト詣をしよう、と心から思っている。


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もちろんこっこ

昨年の訪問を懐かしく思っていたところに、ノンノンさんの渾身かつ詳細かつ明快なレポートを拝読できたことを、本当に嬉しく思います。やはりバイロイトは素晴らしい経験ですね。わたしは敬虔なる?ワグネリアンのため、内部写真は撮りませんでしたが、ノンノンさんのここのブログにて見ることができて幸せです。
柱で舞台が見えないところがやはりあるのですね…。音響については、座席による違いがやはりあるでしょうか…。指揮者にもよるでしょうか…?
クッション持ち込み不可の噂は聞いていまして、それだけは、去年でよかった〜と思ってしまいました。ワグナーさま、寝ませんから椅子だけなんとかしてください、と申し上げたいです。
これからも応募は続けていきたいです^ ^
by もちろんこっこ (2016-08-26 22:13) 

ノンノン

こっこさん、

ワタシクメも詣してまりました。偶然の幸運によるものでしたが。
でも祝祭劇場が目の前に現れたときは、もう信じられないくらい、興奮したものです。これから日記に書きますが、私が見た演目では、バイロイトの演出について、いろいろ考えさせられたことがありました。もちろんオペラだけではなく、バイロイト市街散策も楽しんでまりました。小さい街ながら、ワーグナーファンにとっては、楽しい街で、何日滞在しても足りない位深いものがあると思いました。これから日記にしていきますので、楽しみにしていてください!
by ノンノン (2016-08-27 01:55) 

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