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バイロイト音楽祭 「トリスタンとイゾルデ」 [海外音楽鑑賞旅行]

ワーグナーの楽劇の中でも、「トリスタンとイゾルデ」はとても大好きな演目で、拙宅オーディオオフ会でも有名な第1幕への前奏曲は、よくおかけするのだ。もちろんPENTATONEのヤノフスキ&ベルリン放送響であることは言うまでもない。

この第1幕への前奏曲、そして第3幕の終結部(イゾルデの愛と死)は、ワーグナーのオペラでは、示導動機といって、この前奏曲の部分に使われた動機(モティーフ)がオペラ全体の中で何回も登場してくる。(ワーグナーの手法)

とても情感的で、美しい旋律で、この楽劇のテーマである「官能的な愛」が、とても色濃く表現されている。なにか、大きな「うねり」のようなものを感じて、大河のごとく壮大な美しさを感じる。ワーグナー音楽の代表格とも言えるドラマティックな展開なのである。

オペラ自体は、劇としては意外や動きは少なくて、延々とトリスタンとイゾルデとの熱烈な愛をお互い語り合う、愛し合うというところが多い、ある意味、ちょっと重たい部分もあるのだが、ワーグナーが「最高」としただけの作品の完成度はあると思う。

愛聴盤のPENTATONE ヤノフスキ盤では、トリスタンにシュテファン・グールド、そしてイゾルデにニーナ・ステンメというキャストで、この盤をずっと聴いてきた自分にとっては最高の当たり役というか、これが自分のリファレンスにもなっている。

今回のバイロイトでも、トリスタンは同じシュテファン・グールドで、これが楽しみで仕方がなかった。

「トリスタンとイゾルデ」は、バイロイトだけではなく、東京二期会やMETでも上演されるようで、なにか今年のひとつのキーになっている演目なのかな、と感じていて、注目の演目なのだと思うようになってきた。

東京二期会の公演もさっそくチケット購入して、観劇に行く予定である。


今回のバイロイトの「トリスタンとイゾルデ」は、バイロイト音楽祭の総監督のカタリーナ・ワーグナーさんが演出を担当、そして指揮が、クリスティアン・ティーレマン。ティーレマンは同音楽祭の音楽監督でもあって、鉄壁の両コンビで挑む。

カタリーナさんの演出家としての腕前は、どのようなものなのか?去年も披露されている演出だが、自分は敢えて情報集めはしないで頭を白紙で臨んだ。


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写真提供:Bayreuther Festspiele


第1幕。とても幾何学的&無機質なデザインな鉄筋で出来た格子状の階段&通路オブジェ。

やっぱりバイロイトの演出だなぁ、という第1印象。とても抽象的で、どういう意味があるのか観客に考えさせる舞台装置。なんでも、このセットは18世紀、イタリアの建築家で版画家としても活躍したジョヴァンニ・バティスタ・ピラネージの名作「(幻想の)牢獄」をモティーフに考案されたものなのだそうだ。

歌手たちは、この階段&通路を動きながら、ある場面になると、その心理表現に同期して、この階段&通路が縦方向にスライドしたりして、観ている側をスリリングな気持ちに陥れる。

本当に不思議な空間、そして演出効果だ。


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写真提供:Bayreuther Festspiele

トリスタンとイゾルデが「愛の薬」を飲み合う場面では、なぜか2人は薬を飲まずに捨て、薬に頼らなくても、お互い深い愛に満ちているかの如く、抱き合い、愛を確かめ合う。

ここも、原作とは一味違うスパイスを加えたカタリーナさんの演出効果なのだろうか?


じつは、この場面に限らず、数多くの部分で、原作とは違う解釈、登場人物のキャラクター設定などの妙を加えているのだが、それが決して破綻した内容ではなく、許容範囲でいい方向に作用しているように思えた。



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写真提供:Bayreuther Festspiele



第2幕のトリスタンとイゾルデの密会の場面、そして瀕死の重傷を負ったトリスタンが、イゾルデの幻影に想いを寄せ語り掛ける部分の第3幕とも、非常に簡素な舞台装置で、特に第3幕は、装置はいっさいなかった。闇の中で、写真のような投影技術をうまく使った光の三角錐の投射イメージの中に、イゾルデの幻影を映し出し、そこにトリスタンが語り掛ける。

バイロイト祝祭劇場は、ものすごい古い劇場なのだけれど、舞台装置や照明などのIT化は、近代的というか確実に進んでいて、いまの時代に合っている印象を受ける。特に第3幕での闇の中での、この光の投射効果は、とても美しくて印象的だった。

全3幕とも正直照明は、ほとんどないと言ってよく、闇の中で、そこに少ない光を巧みに使って効果を出していたようなそんな照明演出だった、ように思う。

イゾルデがかけつけると同時に絶命するトリスタン。
最大のヤマ場である「愛の死」をイゾルデが歌う。


抽象的で奇抜な演出が多いバイロイト演出の中では、演出、舞台装置、照明ともに、とてもシンプルな構成で、ある意味普通のオペラっぽいところが、とても自然でよかった。でも第1幕のようなバイロイトらしい、ちょっとした山椒のピリッと効いた仕掛けもあって、単に平凡で終わらないところが、自分にはカッコよい感じがして素晴らしい演出だと思った。

素直に感動できました。

カタリーナさんの狙いも深いところは、もちろん、もっとあるのだろうが、才能あると思います。(笑)(前回の演出のマイスタージンガーでは散々なブーイングだったようですが。。。)

バイロイトの聴衆は、かなり乱暴というか、はっきりと意思表示する、と思った。終演後の最初の歓声がブーだった。(笑)そして、その後、割れんばかりの大歓声、ブラボーと足踏み鳴らし。

ヨーロッパのオペラ聴衆は、いいものはいい、悪いものは悪いとはっきり意思表示する、と聴いてはいたが、オペラ鑑賞歴の浅い自分は、ブーを初めて聞いた。

どういう意味でのブーだったのかは、不明だが、その後の大歓声を聞くと、やや意味不明でもある。やっぱり品行方正の日本のオペラファンの聴衆とは、かなり温度感が違うと感じたところである。



歌手陣。 

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シュテファン・グールド(トリスタン)
写真提供:Bayreuther Festspiele

トリスタンのシュテファン・グールド。同役では自分のリファレンスであることを言ったが、本番の生を観てもやはりよかった。バイロイトで、自分の本懐を遂げられたと感じた。小柄ながら、いわゆる馬力型のヘンデルテノールなのかも。この人の実演は、近年では、東京・春・音楽祭でのN響ワーグナーの「タンホイザー」演奏会形式でも聴いた。ワーグナー歌手としては、もう脂が乗りきった人ですね。カーテンコールでは、出場歌手の中でダントツの大歓声、ブラボーを集めていました。 

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ペトラ・ランク(イゾルデ)
写真提供:Bayreuther Festspiele

ある意味、泣かせる官能的な旋律である「愛と死」は、このイゾルデが担わないといけない、この楽劇では本当に決め処の役。十分その大役を演じ切り、歌い切ったと思った。声質も声量も十分。安定した歌唱力。ただ、煩い自分にとって(笑)、敢えて言えばもう一息、この楽劇で大切な「うねり」の感覚、ぐぅ~っと腹の底からホール内を圧するような馬力、粘着力というか”濃さ”みたいなものがもう少し欲しい感じがした。ニーナ・ステンメはヴィブラートが強い歌手ですが、その点が、イゾルデに関しては、自分を満足させてくれる歌手なのでした。


そしてティーレマン。 

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およそ4時間の長丁場、見事にオケをドライブしてコントロール下において、素晴らしいサウンドを醸し出していた。同音楽祭の音楽監督ということもあって、ワーグナー解釈の第1人者でもある、その実力を見事に発揮していたと思う。ティーレマンという指揮者は、よく独自解釈&独特のテンポ感、うねり感を持つ人で、それが聴いている人にとっては違和感を感じる場合が多いという話もよく遭遇するのだが、今宵に関しては、まったくそういうことを感じなかった。まさに王道のトリスタンとイゾルデだった。

カーテンコールに現れたときは、もう大変であった。歌手たちを遥かに凌ぐ大歓声、ブラボー、足踏み鳴らしでホールが揺れた。

バイロイトの聴衆はよくわかっていた。

ティーレマンが、ピットに入っていたオケを全員ステージにあげてのカーテンコール。
オケメンバーは、全員私服です。(笑)

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バイロイト音楽祭2016 「トリスタンとイゾルデ」

2016/8/13 16:00~ バイロイト祝祭劇場


指揮:クリスティアン・ティーレマン
演出:カテリーナ・ワーグナー
舞台:フランク・フィリップ・シュロスマン
   マティアス・リパート
衣装:トーマス・カイザー
演劇構成:ダニエル・ウェーバー
照明:ラインハルト・トラウプ
合唱指揮:エーベルハルト・フリードリッヒ

トリスタン:シュテファン・グールド
マルケ王:ゲオルグ・ツェッペンフェルト
イゾルデ:ペトラ・ランク
クルヴェナール:イアイン・ペイターソン
メロート:ライムント・ノルテ
ブランゲーネ:クリスタ・マイヤー
羊飼い:タンゼル・アクゼイベック
舵取り:カイ・スティーファーマン
牧童:タンゼル・アクゼイベック



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コメント 4

michelangelo

ノンノン様

夜分遅くに失礼致します。貴重なレポートを掲載して下さり、ありがとうございます。

私は初めて公式写真を見た時、ピラネージと言うよりエッシャーを連想しましたが、見れば見る程「カタリーナ・アイデア」が見事に伝わってくる素敵な演出だと感じます。それでも、客席からの見え方と写真やテレビからの印象とは違いますでしょうか。ブーイングの理由は、何となく想像が出来るのですが、自分の目と耳で鑑賞していないので語る資格はないと思っています。ただ、ノンノン様に御伝え出来るインタビューがありますので、下記にドイツ語訳からの英語訳を添えさせて頂きます。

長きに渡りクリスティアン・ティーレマン氏と楽しそうにトークなさるAxel Brüggemann氏は「That is a whole different Thielemann」「You have probably withheld all those spots where I waited for the "Thielemann sound"」と少し淋しがられています。質問に対するティーレマン氏の答えは、「The idea came from her (Katharina Wagner), and I conduct to make it happen. I am not the kind to conduct against the staging」と仰る通り、カタリーナ嬢に合わせた(共感した)のでしょうか。

聴覚の他に視覚が加わると、コンサート・マスターに合わせた解釈を優先させているのか、ソリストをサポートするフレージングに急きょ変更しているのか客席から分かりますが、耳だけの録音情報となると本当に分かり難いです。ペトラ・ラング氏は、ペース配分を大事にされる慎重派でいらっしゃるのか、「ワルキューレ(ジークリンデ)」では幕毎に差はありました。一方、均一な歌唱を冒頭から末尾まで綻び一切なく紡がれて万雷の拍手を受けたのは、ブリュンヒルデ役のニーナ・シュテンメ氏でした。

ノンノン様、サントリーホール「ラインの黄金」も如何でしょうか?(笑)
by michelangelo (2016-08-29 00:00) 

ノンノン

michelangeloさん

コメントありがとうございます。
なるほどね。ティーレマンにとっては、カタリーナさん&ステージに合わせたということで、本来の彼の節ではなかったということですね。
非常にノーマルな演奏だと思いましたので、納得のいくところです。

第1幕のすごい建築オブジェは、実物を見ても、写真で見ても、湧き上がってくる感情は同じものではないか、と思います。私が写真を見たときに、あのステージのことをくっきりと容易にトレースできましたから。

サントリーホールのワルキューレもぜひ行きたいところですが、今回の旅行は予想外の出費ですので、おとなしくしておこうと思います。(笑)
by ノンノン (2016-08-29 14:31) 

michelangelo

ノンノン様

もちろん、100%搾りたて「カタリーナ版トリスタンとイゾルデ」と言うわけではなく、2人でバッチリ事前に打ち合わせを行い、火入れ(ティーレマン氏サウンドに浸す)処理をしてから出荷(本番)となり、ノンノン様がレポートなさっている通りの結果「マエストロへの万雷の拍手」なのだと思われます。

ノンノン様が敬愛なさるカラヤン氏の弟子であるティーレマン氏は、インタビューでカラヤン氏について、感謝の言葉を述べ思い出を語ったり、エリエッテ夫人や御嬢様との御仕事を大事にされていたり。指揮者としての解釈は違っていても、ストイックな精神は師匠譲りでしょうか。

ちなみに・・・サントリーホールでの「トリスタンとイゾルデ(前奏曲と愛の死)」は、日本人仕様の「草食系」にしておられました(笑)
by michelangelo (2016-08-30 17:29) 

ノンノン

michelangeloさん、

もちろん、そうです。カタリーナさんとティーレマンの共同作業の賜物であることは、間違いありません。

現在、この音楽祭で、総監督そして音楽監督という両タッグである訳ですから、これからも、この濃厚な共同作業は続いていくのでしょうね。
by ノンノン (2016-08-31 08:37) 

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