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エディタ・グルベローヴァ [オペラ歌手]

オペラに開眼したのが遅かったので、エディタ・グルベローヴァの全盛期はもちろんこと、彼女の生の声を聴いたことがなかった。

2012年のウィーン国立歌劇場の来日公演「アンナ・ボレーナ」を最後に日本での引退宣言をしてしまい、自分としては、今後は、ヨーロッパにこちらから聴きに行く、というスタンスでない限り、もう縁のない歌手になってしまったという悲しい想いだった。

自分の中で一生悔いの残る、なんとも言えない気持。

そのことが、逆にグルベローヴァに対する猛烈な憧憬の念を、さらにひき立てることになってしまい、より一層遠い夢の世界の人のように感じてしまった。

40年以上もオペラ界でトップを走り続け、現在69歳で、カール・ベーム、ヘルベルト・フォン・カラヤン、カルロス・クライバー、そしてリッカルド・ムーティなど蒼々たるメンバーとの共演を誇り、「コロラトゥーラの女王」とか、「ベルカントの女王」の異名をとり、その圧倒的な歌唱力は、まさに世界最高のソプラノ。

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彼女に対する想いと、そのディスコグラフィーはほとんど聴き込み完全制覇して、日記にしたのが2013年。そんなグルベローヴァがなんと今年、奇跡の来日公演をおこなうという。

オペラ、オペラ・アリア、そしてリート(歌曲)・リサイタルと、オペラ歌手として考えられるすべてのパターンを網羅した3公演で、さらに東京だけでなく、日本縦断。まさにグルベローヴァという歌手のすべてを日本の方々に知ってほしいという企画のようにも思えた。

このような粋な計らいをプランニングしてくれ、実現の域まで導いてくれた招聘プロモーター(今回3公演で別々のエージェンシーが担当のようだった。)には、 本当に感謝し尽せないほど感謝している。本当にありがとうございました。

彼女の声を一言で表現するなら、”クリスタル”という感じだろうか。

超高音域につけ抜けるその透明感は、まさに驚異的な美しさがある。そして彼女の代名詞である、一つの音節に対して、複数の音(装飾音)が充てられる形、高音域で自由自在にクレシェンド・デクレシェンドして、速いフレーズの中に、軽快に音階を上下するコロラトゥーラと呼ばれる歌唱法。

そしてアジリタ・・・軽快、機敏を意味するイタリア語で、オペラでは細かい音符で書かれた早いパッセージ(装飾音)のこと。

コロラトゥーラというのは、ドイツ系のテクニックで、アジリタというのは、イタリア系のテクニックという使い分けをされている考えの方もいらっしゃるようだが、自分はどちらも本質的には変わらないものと考えるし、グルベローヴァの唱法を例えるなら、この2つの表現が一番シックリくる。


オーディオで聴く限り、この人の声、このフレーズを聴くと、まさしく天からの授かりものという感がある。

なにせ、じかに聴いたことがないので、彼女に関する逸話がどんどん一人歩き、自分の中で神話化することもあった。

本番のコンサートの直前では、自分の声のコンディションを維持するために、娘との会話でも筆談を使う徹底したプロ意識。

また、声楽、つまりオペラなどの歌手の声は指向性がある。つまり音の伝わる方向の角度が狭くて、歌手の向いている方向の座席に座っている人たちと、その方向から外れている座席に座っている人では、その声の聴こえ方が違う。だからオペラものは、結構座席選びが重要。 でもグルベローヴァだけは例外で、この人の声はどこの席に座っていても同じに聴こえる、全方位の無指向性だという。まぁそれが可能なだけの歌唱力、声量な訳で、ますます彼女に対する憧憬の念が増していった。


今回の3公演は、以下のような布陣。

オペラ~ ノルマ(ベッリーニ)@Bunkamuraオーチャードホール
オペラ・アリア~オペラ名曲を歌う~2つの狂乱の場@東京オペラシティ
リート&オペラアリア・リサイタル@川口リリア・メインホール

オペラとオペラ・アリアでは、プラハ国立歌劇場を携えてのコンサートであった。

この3公演を体験して、感じたグルベローヴァの印象を統括的に述べてみる。

3公演を通じて感じたことは、彼女はすごいスロースターターだなぁ、ということ。(笑)

オペラ歌手や合唱団などの声もののコンサートは、自分が経験した中では80~90%の確率でこの定説は間違いなく当て嵌まる。ほとんどがそうだった。

最初のときは、喉が充分に暖まっていないこともあり、聴いている聴衆があれ?本当に大丈夫?と心配するほど、かなり不安定なものなのだが、中盤から終盤にかけて、エンジンがかかってきて、もう最高に感動するくらいの歌唱力で圧倒するエンディング。

特に、グルベローヴァはその傾向にあって、かなりのスロースターター。3公演ともそうだった。エンジンがかかりだすまで、結構時間がかかるという印象だった。もう御年70歳ということもあり、そういう部分もあるかな、と感じたし、なかなか全盛期のようにはいかないのだろうと思う。

オペラの「ノルマ」のときは、もう最初は絶不調の極みで、耳を疑った。
でも中盤から終盤にかけて、喉が暖まってくると、まさに感動の頂点とも思える様な熱唱ぶりで、前半と後半では別人のようだった。

生で聴いたグルベローヴァの声の印象は、いまどきの全盛期の歌手たちと比較すると、声の線が細くて、非常に繊細で、デリケートな声質だな、と感じた。圧倒的な声量でホールを圧するという馬力型のタイプの歌手ではなく、線の細い透き通るような美声で、でもツボに入った時の熱唱は、まさにホールを圧すると言ってもいいほどの聴衆への説得力があり、比較的緩急のある表現力をもった歌手だと感じた。

そして、印象的だったのは、選曲にもよるのかもしれないが、彼女の歌い方は、非常に難しい、テクのいる唱法だな、と感じたこと。なんかすごい歌うのが難しそうに感じるのだ。彼女の声が、いまいち不安定に感じるのも、その歌い方に起因していて、あの難しい声の回し方で、安定して歌うことって相当技術のいることなのでは?と思うのだ。

自分がいままでの聴いてきたオペラ歌手のソプラノは、もっと聴いていてイージーに歌っているように感じるし、安定感もある。でもグルベローヴァの歌い方は、声がデリケートな繊細な声質である上に、コロラトゥーラのような超絶技巧の唱法を伴って歌うので、本当にだれもが歌える訳ではない、普通のオペラ歌手では歌えない、コロラトゥーラ歌手だけが歌える技巧の難しい歌い方と感じてしまう。

だから余計不安定要素も目立ってしまう。。。そんな感じがするのだ。
そのような技巧的な歌い方をしながら、ツボに入った時の熱唱のアリアの部分では、まさにホールを圧するという感覚があるので、その相乗効果で聴衆はいっきに興奮のるつぼと化す。そんな感じの印象だった。彼女のコンサート全般を通して。


あと、もうひとつ驚異的だったのは、そのピッチ(音高)&キーの高さであろうか?

ピッチ&キーの高さが普通のオペラ歌手のソプラノより遥かに上域で、突き抜ける高音という感じがして、ちょっと自分がいままで聴いてきたオペラ歌手のソプラノとは異質な世界を感じた。コロラトゥーラの技法もさることながら、このような基本的な声域の高さが、ちょっと普通のオペラ歌手と違うので、いままで聴いたことのない脅威な声質だと感じた。

ちょっとこういうタイプの声質&歌い方をするソプラノ歌手は、聴いたことがないなぁという感じ。

オーディオなどのCDで聴いている分には、確かにすごい超絶技巧の歌い方であることはわかるのだけれど、でも実際生で聴いた感動は、その超絶技巧・表現力がより一層デフォルメされている、と思えるぐらい鮮烈に聴こえる。

臨場感、迫力、発声の張り出し感など、その一瞬の感動の大きさは、やはり この点、生演奏には絶対かなわないと思ったところでもあった。


もちろんいいところばかりではない。自分は全盛期の彼女を知らないので、いまとの比較はできないが、どうしても高域の部分は、苦しそうな歌い方をしていたし、歌っている最中も、つねに不安定な部分が見え隠れするのも、全盛期だったら、ばっちり安定していたんだろうな、という想いを抱きながら聴いていたことも確かだ。

でもこれが御年70歳の歌手のパフォーマンスと思えるだろうか?信じられない位の若々しさで溢れ出ていたし、引退なんてまだまだしないでほしいし、いまでも十二分の一流のパフォーマンスができていると思う。




なによりも、最高に自分が感動、印象に残ったのは、カーテンコールなどでの彼女のステージ上での立ち振る舞い。

その振る舞いそのもの、手の指先の表情に至るまで、じつに往年のスーパースターらしい貫禄があって、まさに優雅で、凛とした立居姿・立振舞いに、長年オペラ界で最前線を走ってきたスーパースターの経験の積み重ねが自分の意識なしに、そういう所作、振る舞いに自然と現れているものなのだと思えた。

自分は、この最後のカーテンコールでの彼女の凛とした立居姿に、相当参ってしまった。

グルベローヴァに抱いていた積年の想いは成就した。
感無量としか言いようがない。

繰り返しになるが、今回のこの一連の公演を実現してくれた招聘プロモーターさんたちには、 本当に感謝の限りです。

じつは、非公式ではあるけれど、来年も「ランメルモールのルチア」で日本に来てくれるようなのです。

あっちなみにですが、一番最後の昨晩の埼玉県川口でのリート・リサイタルでは、アンコールの最後に、日本語で、「さくら・さくら」を歌ってくれる大サービス!もう観客席は、大歓声で、大いに盛り上がりました。

サービス精神旺盛で感動的なコンサートを本当にありがとう!


Bunkamuraオーチャードホールでのノルマ

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この上の写真はFBの「チェコへいこう!」さんの公式ページから拝借しています。

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東京オペラシティでのオペラ名曲を歌う。(前半と後半でドレス衣装替え!)

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川口リリア・メインホールでのリート&オペラアリア・リサイタル

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2016/11/6 ベッリーニ「ノルマ」
      Bunkamuraオーチャードホール

指揮:ペーター・ヴァレントヴィチ
      管弦楽:プラハ国立歌劇場

      ノルマ:エディタ・グルベローヴァ
      アダルジーザ:ズザナ・スヴェダ
      ポリオーネ:ゾラン・トドロヴィッチ 他


2016/11/9 エディタ・グルベローヴァ オペラ名曲を歌う~2つの狂乱の場~
      東京オペラシティ

      指揮:ペーター・ヴァレントヴィチ
      管弦楽:プラハ国立歌劇場

      前半
ロッシーニ 「セビリアの理髪師」序曲
      ドニゼッティ「シャモニーのリンダ」第1幕からアリア「私の心の光」
      ドニゼッティ「ドン・バスクァーレ」序曲
      ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」第2部 第2幕から~狂乱の場~
            (「あの方の優しいお声が」~アリア「苦い涙をこぼして下さい。」)
      ドニゼッティ「ロベルト・デヴリュー」序曲
      ドニゼッティ「ロベルト・デヴリュー」第1幕から
             (公爵夫人、熱心な嘆願を~」~アリア「彼の愛が私を幸せに
                                      してくれた」)


      後半
      ベッリーニ「ノルマ」序曲
      ベッリーニ「清教徒」第2幕から~狂乱の場~
           (「ここであなたの優しいお声が」~アリア「いらっしゃい、愛しい方」)
      マスネ  「タイス」から間奏曲”タイスの瞑想曲”
      ベッリーニ「異国の女」第2幕から
           (私は祭壇に・・・慈悲深い天よ」~アリア「ああ、儀式が始まり
                                 
ます。」)

      アンコール
      プッチーニ「トゥーランドット」(「お聞きください、王子様)
      J.シュトラウス「こうもり」(「無垢な田舎娘を演じる時間」)

2016/11/12 エディタ・グルベローヴァ ソプラノ・リサイタル
      川口リリア・メインホール

      ピアノ:ペーター・ヴィレントヴィッチ

      P.チャイコフスキー (6つの歌 Op.6)より、
                第5曲「なぜ?」
                (6つの歌 Op.16)より
                第1曲「子守歌」

      リムスキー=コルサコフ (春にOp.43)より
                   第3番「清くかぐわしいあなたの立派な花環」
                   第2番「高嶺に吹く風もなく」

      A.ドボルザーク (ジプシーの歌 Op.55)より
              第1番「私の歌が鳴り響く、愛の賛歌」
              第2番「さぁ聞けよ私のトライアングル」
              第3番「森はひっそりと静まりかえり」
              第4番「わが母の教えたまいし歌」
              第5番「弦の調子を合わせて」
              第6番「大きなゆったりした軽い亜麻の服を着て」
              第7番「鷹の翼はタトラの峰高く」

      ~休憩

      G.シャルパンティエ 歌劇「ルィーズ」より
                ”その日から”
      G.プッチーニ 歌劇「つばめ」より
               ”ドレッタの夢の歌”
      E.ディラクァ 牧歌
      A.アリャビエフ 歌曲「夜鳴うぐいす」
      J.シュトラウスⅡ 歌劇「こうもり」よりアデーレのアリア
               ”侯爵様、あなたのようなお方は”

      ~アンコール
      スメタナ キス
      ピアノソロ:ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番&その他の曲などの即興アレンジ
      ワーグナー タンホイザーより
      さくら






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