プルミエアベニュー [グルメ]
じつに3~4年ぶりに会う友人で、クラシック、オーディオ仲間でもないので、ふだんのSNSでの交流もなくて音信不通で、どうしているのかな、と思い、誘ってみた訳です。
かなり太っていましたが、元気そうでなりより。
最初久し振りに会う緊張なのか、話していてどうも別人みたいに感じましたが、3時間後には、あぁやっぱり昔のまんま、という感じに感覚が戻ってきてホッとしました。
レストランは、プルミエアベニューを選びました。
もう我々のオーディオ仲間の中では、結束の場所というか、大切な思い出のレストラン。
ゴローさんが生前こよなく愛し、足繁く通ったお店である。
以前は川崎の高津にあって、ボクがゴローさんに仲間と一緒に招待してもらいお店に来店したのが、この高津時代。その後も何度もいっしょに足を運んだ。
そしてゴローさんご逝去の後、お店のブログである”ぷるぷるのブログ”で小林悟朗さんのご逝去ということで追悼の記事を投稿してくださった。
そしていまは武蔵溝の口に移転して再出発。
毎年ではないけど、IASJ(東京インターナショナルオーディオショウ)のある時期に、オーディオ仲間がみんな一堂に集まって、「ゴローさんを偲ぶ会」というのを、このレストランでやる、というのがみんなの絆を確かめるみたいな感じで執り行われる。
小林家からご遺影をお借りして、いっしょに参加してもらう意味で椅子に置いて、エム5さんの献杯で始まって、みんなで深い話をする。(笑)
今回、このレストランを選んだのは、自分の日記で取り上げてみたくて、その存在をつまびらかにしたい、という感じでしょうか。
高津時代に比べて、武蔵溝の口のほうが店内が明るくなった、というか、かなり洗練されましたね。
じつに久しぶりに行くので、お昼に下見に行きました。(まだ準備中。)
高津時代から、つねに満杯の人気ぶりで、予約必須の感じですね。いつも感心するのは、シェフなどのお店の人たちがスゴイ若くて、これまたとても丁寧で物腰が柔らかいお客に対する接客。なんか自分のような下衆な世界の人間とはちょっと違う感じで恐縮してしまいます。
各地から旬な素材を取り寄せて、できればオーダーメイドのような感じでお客様の好みに合わせてコースをアレンジしてくれる。(もちろん定番のメニューもあります。でも事前に連絡するのが、お店の人にとっていきなりではなくて準備する上でいいと思います。)
出てくるメニューを見て毎回驚かされるのが、料理に対する人一倍の情熱があり、アイデアやセンスがあること。
一品一品に 素材を活かす発想から生まれたオリジナリティがあり、さらに見た目で楽しませる心遣いが食べる前の期待を高め、 そして口にしたときに快い驚きがある! 若いながらフランス料理のツボを見事に押えていると 感心してしまう。
もうジャンル的には”フランス創作料理”ですね。
とにかく見た目が素晴らしく美しいのですよね。
使っている食器はもちろん、その盛り付け含めて、とてもセンスがあってお洒落。
それでいて、もっと驚くのが、お店の雰囲気が、フランス料理にありがちな、”かしこまった”ところがなくて、すごくカジュアルだ、ということ!
来客するお客さんの格好をみたら、一目瞭然。ドレスコードなんてまったくなくて、みんなすごい平装というか、すごいカジュアル。
自分は、そのことを知っていたので、この日もごく普通の格好をしていったのだけれど、友人に知らせていなくて、友人は、お店のHPの美しい創作料理の写真をみて、かしこまったお店と勘違いして、正装してきてくれたのでした。申し訳なかったです。
この日は、クリスマスディナーということで、少しオーダーメイドで工夫をしてもらいました。
では、その素晴らしい創作料理をご紹介。
若いお店の人のホントに流暢な説明で、頭に覚えていられなくて右から左へ行ってしまいそうなのですが(笑)、最初から日記にする予定だったので、メモの用意をして必至にメモりました。かなりあやふやですが、ご了承を。
まず最近解禁になったボジョレヌーボーを堪能。
甘くておいしかったです。
まず前菜が続きます。
かぶとババロア、生うにを添えたもの。
不思議なテイストです。
バジルとオレダノオリーブオイルとパン。
これは美味しかったですね。パンにオリーブオイルをつけて食べるのがこんなに香ばしくて美味しいとは!
ズワイガニと生ハム&野菜のケーキ。
これは高津時代からよく知っていたメニューで、懐かしさいっぱい。このお店の看板メニューですね。見た目が、あまりに美しい!
フォァグラ・キンカン・テリーヌ
自分がぜひフォアグラを、ということでお願いした一品。
友人は、はじめてフォアグラを食べるらしく、これがフォアグラかぁと感動していました。
キントキニンジン・ポタージュ&ボラの白子を添えて。
今回食べた素晴らしい創作料理の数々は、普段あまりいい食生活をしていない自分にとって、食べたことがない不思議な、そして絶品の味ばかりなのですが、こ~れは、特にこの世のものとは思えない素晴らしい味でしたね。
ボタンエビスープ
まろやかな不思議な味。
そしていよいよメインディッシュ。まずお魚。
かんだい、ムール貝、こぶだいのメス。
お魚が少し上品な感じで塩味のアクセントがあってじつに美味しい!
つぎにこれまたメインディッシュのお肉。
宮崎牛とトリュフのソース添え。そしてシャンピオン添えも。
毎度フランス料理を食す度に、このトリュフのソースがもうこの世のものとは思えないくらい、香ばしいと思うおいしさで、この日もこのトリュフのソースをぜひ、ということでお肉にアレンジしてくれたのでした。
そして駿河湾サクラエビの炊き込みゴハン。
これはあのエビの強烈な塩味というか、それがご飯とよく合って美味しかった!
そして最後にデザート。ホンダンショコラ&ムース。
これもいままで食べたことのない味というかこの世のものとは思えなかった。
こうしてみると、素材そのものは、たとえばけっして超高級な素材という訳でもないのだけれど、その発想、アイデアから成るオリジナリティが素晴らしいのですよね。お店の雰囲気もとてもカジュアルで親しみやすくて、こういう若いシェフによる情熱、工夫のある創作料理。
友人はたいそう感動してくれました。
いいおもてなしができたと思います。
今年の年末・年始は、北海道に帰省しないで東京の自宅で過ごすつもりですが、年越しの信州鴨南蛮そば、と正月のおせち料理は、このプルミエアベニューが作るオリジナルのものをオーダーしているのです。
大晦日の日に取りに行きます。
とてもいいクリスマスディナーを過ごせたと思います。
プルミエアベニュー http://r.gnavi.co.jp/a881902/
プリミエアベニューのブログ。「ぷるぷるのブログ」 http://ameblo.jp/a881900/
(2017.10.22 追記)
プルミエアベニューはいったん閉店し、Francias La Porteというお店としてリニューアル・オープンしております。シェフ、スタッフ、そしてお店の場所も全く同じ。要は、プルミエという会社からシェフが独立した、ということらしいです。プリミエアベニューというお店の名前に愛着があった訳ですが、独立ということであれば前向きに捉えましょう。
DG(ドイツ・グラモフォン)のSACD ディスク聴き比べ。 [ディスク・レビュー]
膨大なライブラリーを持つDG(ドイツ・グラモフォン)録音の中でも、とりわけ彼らのSACDを集めてみよう、そして、その5.0サラウンドを聴いてみたい、ということから始まった今回のプロジェクト。
なにせ廃盤もしくは珍盤扱いがほとんであるから中古市場を隈なく探して、ようやく集めてきた。
DGのSACDは、せぜい50枚~100枚あるかどうか、というところで、もうここいらが限界だと思った。
そんな苦労して集めてきたDGのSACDたち。
前回の日記で、このDG SACDを録音、編集、マスタリングしているのが、EMIL BERLINER STUDIOS(エミール・ベルリナー・スタジオ:EBS)であることの紹介をした。今回いろいろ代表的な名盤と言われているディスクを聴いてみて、素晴らしいと思った盤のクレジットを見てみると、やはり大概のトーンマイスターが当スタジオの看板のライナー・マイヤール氏の作品であることもわかった。
トーンマイスターという称号はドイツ専門の呼び方なのかもしれないが、DGのクレジットでは、”トーンマイスター(バランスエンジニア)”と表記されていることが多かった。ホールのステージ上で(マルチ)マイクセッティングにて、そこで収録した音源をマルチトラックで取り込む。それを、まずはその場(ホール)の特設スタジオで臨時でミックスして、出来栄えを確認したうえで(不満であればマイクアレンジやり直して、何回でもトライするのだろう。)、最終的には彼らの本拠地のスタジオで編集して最終ミックスする。
オーケストラ録音のフローはそんな感じなのだと思う。そのマルチトラックを、2chや5.0/5.1chにミックスするときの音の振り分け方、バランス、最終的な音作り、音決めをするのがバランスエンジニアなのだと想像する。一番”きも”の部分ですね。
DGのクレジットでは、EBS録音スタッフは、プロデューサーの他に、トーンマイスターと録音エンジニアがいて、最終的なサラウンドミックス&ステレオミックス、そして編集をしているのが、大体トーンマイスターが兼ねてやっている盤が大半であった。
トーンマイスターというのは、推測であるが資格制度で、教育機関で専門の教育を受けて得られる資格・称号だと自分は理解している。
自分のディスクレビューは、普通と違って、こういうところに着目して、その彼らの音作りを評価して、その盤の魅力を語ってみたい。
パッケージのSACDは、この録音、オーサリング、編集は、96KHz/24bit(以下96/24)などのPCMのハイレゾでやっている場合が圧倒的。ハイレゾブームの現在では、さらに192/36とか、さらにそれ以上とかあるのかもしれないが、現存のSACDは大半が96/24で録音、編集していて、そこから最後にDSDにアップサンプリングしている場合がほとんど。DSDという1bitのパルス変調の波形は編集ができないのがネックで、だからオーケストラ録音では絶対不可欠な”編集”という作業のために、いったんPCMハイレゾで録っているんだと思う。
1999年のSACDフォーマット発表の時、社内では、次なる目標は、DSDオーサリング機器の開発です。収録のマイクのところからDSD帯域の50KHz~100KHzの解像度にして、そして編集機器もDSD波形での編集ができるようにするのです!と高々に宣伝していたのを今でも思い出す。(笑)
DSDが編集できないと知ったのは、あれから十数年以上経った3~4年前にネットで知って、相当ショックだった。あの頃の宣言はなんだったの?宣言してみたものの実際やってみたら、あの波形での編集は難しいということがわかってギブアップした、ということなのだろうか....
あくまで想像の域を脱しないが、そんな経緯があってPCMハイレゾで録って、編集して、最後にDSDに変換してアップサンプリングする、という過程が一般的になったのだと思う。ちなみに2.822という数字は、192/96/48/44.1とでいずれも割り算(devide)しやすい互換のある数値で決めた数字だと記憶している。DSDはマスター処理のフォーマットとして捉えられていて、そこからPCMのこれらのフォーマットにたやすく変換できることを前提に考えられていたのである。
最初からDSDで録音するのは、ストリーミングみたいな編集しない一発録りするようなメディアで盛んですね。
今回試聴したDGのSACDは、SACD草創期のせいなのか、48/24,もしくは96/24で録っているものがほとんで、その大半は、48/24の比率が多かったような気がする。この録る、編集するところで使うサンプリング周波数や量子化ビット数の違いって、結構聴感上の差が大きいことがわかった。
やはり48/24よりも96/24で録ったやつのほうが、その場(ホール)のアンビエンス(雰囲気)を豊富に綿密に捉えて表現できていて解像度が高いのだ。
今風の表現で言うなら、空気感というやつなのかもしれないが、このDG SACDを聴いていても、それがよくわかる、ことが面白かった。
DGのSACDサウンドの印象、とりわけ、5.0/5.1サラウンドの印象は、今風のサラウンドと違っていて、垢抜けないというか(笑)、ホールの空間の捉え方(直接音と響きの対比バランス)が、あまり上手でないような気がした。ずばり言うと「音場感が乏しい。」いまのPENTATONEやBIS,Channel Classicsの高音質レーベルのほうが、音の広がりがあってずっと洗練されている。
結構ダイレクト感が強く、5本のSPからダイレクトに音がやってきてサラウンドを形成しているような、そんな感じがした。でも直接音のテイストは、スゴイ硬派な厚みのあるサウンドで、これぞ、まさに王道の伝統的なDGサウンドという感じである。だからこそ、これにホール空間を捉える”いま”の収録技術が加わると、本当に硬派なすごいサラウンドができるのになぁ、と思うのだ。
ありえない現実かもしれないけれど、ボクもDGのSACD復活論者なのだ!(笑)
それでは、これから素晴らしいと思ったDG SACDのディスクの紹介をしていこう。(なにせ廃盤、珍盤が多いので、HMVだけではなく、アマゾン、タワレコ総動員でございます。(笑))
ベートーヴェン交響曲第5番&第7番
カルロス・クライバー&ウィーンフィル
DG録音、つまりEBSメンバーによる独壇場であったのが、ウイーン楽友協会でのウィーンフィルの録音。この盤はその最たるもの、というか最高傑作かもしれない。ウィーン楽友協会の音響の最大の特徴である、ものすごい響きの豊かさ、響きに囲まれている感覚、それが出音1発ですぐにわかる。芳醇な響きが部屋中に充満する感じで、わぁこれはスゴイ録音だなぁという感じ。ウィーン楽友協会のホール空間がそのまま表現されているような録音なのである。ただその反面、S/Nがあまりよくない、というか、特にN,ノイズフロアが高い感じ。
現代における最新ホールの中って、外との遮音性能が抜群に優れていて、ホールの中は、すごい静謐な感じなのだが、楽友協会は、外の雑音がそのままホール内まで聴こえてくる感じで、いわゆる暗騒音が多いホールなのだが、それがよくわかってしまう感じで、あまりS/Nのいい録音ではないな、という印象であった。
カルロス・クライバーは、その録音、出演回数の少なさから神格化されることの多い指揮者であるが、けっしてそうではないんだよ、という論調で日記に書いてみたい指揮者である。(笑)ベト5は、耳タコ名曲であるが、こうやってあらためて聴いてみると、本当に名曲中の名曲でじつに格好いいことがよくわかる。
1974/1975/1976 ウィーン楽友協会での録音。
EBSによる録音、編集、マスタリング。2003年のSACD
トーンマイスター(バランスエンジニア)ハンス・ペーター・シュウェグマン(5番)
クラウス・シェイヴェ(7番)
録音エンジニア ハンス・ロドルフ・ムラー/ヴォルフ・ディーター・カーワートキー(5番)
ジェヴ・エバーハード/ジョルゲン・ブルグリン(7番)
リミックス クラウス・ハイマン/ウェーナー・マイヤー
サラウンド・ステレオ ミックス アンドリュー・ウェッドマン
96/24 PCM2.0(SACD)
96/24 PCM5.0(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
バッハ ヴァイオリン協奏曲
ヒラリー・ハーン&ロサンジェルス室内楽管弦楽団
DG SACDの中では1番売れているベストセラー、最高傑作の優秀録音。我々のオーディオ仲間のお宅には、必ずあるといっていいオーディオオフ会の定番ソフトでもある。バッハのVn協奏曲のアルバムの近代演奏の録音の中でも1番の優秀録音ではないか。とにかくSPからの出音が、鮮度感が抜群で音圧の高いこと。音に厚みがあって美音(S/Nがいい)でありながら、弦が擦れているという実在感がある。
本当に素晴らしいサウンド。
ヒラリーハーンという奏者は、どうも外見が冷たくクールな感じで食わず嫌いだったのだが、そんな自分の中のイメージを変えたのがシベリウスのコンチェルトの録音だった。そしてこのバッハのコンチェルトも。どうも録音というスタイルで自分に大きな影響を与えてきたアーティストである。
ロスアンジェルス ハーバート・ジッパー・コンサートホール 2002/10の録音。
トーン・マイスター トム・ラザルス
録音エンジニア マーク・ステーダーマン
シェリー・ヘンデリクソン
96/24 PCM2.0(SACD)
96/24 PCM5.1(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
マーラー交響曲第3番
ブーレーズ&ウィーンフィル 独唱:アンネ・ゾフィー・フォン・オッター
ライナー・マイヤール氏の代表的な作品。
やはりウィーン楽友協会でのウィーンフィルでの録音。
やや録音レベルが小さい感じがするが、ボリュームを上げ大音量にすると、その空間が広くダイナミックレンジが広いのがよくわかり、残響感、音場感も申し分ない。でも幾分直接音がしっかりしていてダイレクト感が強い感じだろうか。音の芯、骨格感がしっかりしている感じである。さすがマイヤール氏の作品だけある。やっぱりマラ3で独唱がオッターというのがいいなぁ。
ウィーン楽友協会 2001/2002年の録音 2003年にSACD発売。
EBSによる録音、編集、マスタリング。
トーンマイスター(バランスエンジニア) ライナー・マイヤール
録音エンジニア ウォルフ・ディエーター・クラワトキー
編集 ライナー・マイヤール
サラウンド・ミックス&ステレオ・ミックス ライナー・マイヤール
48/24 PCM2.0(SACD)
48/24 PCM5.0(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
これもウィーン楽友協会でウィーンフィルの録音。
ウィーン楽友協会での録音にもかかわらず、意外や響きが少なく、マッシブな感じで、空間もあまり感じない。結構ダイレクト感が強い。S/Nはいいですね。空間はそんなに感じないけれど、ダイナミックレンジはそれなりに確保されている録音だと思います。アルプス交響曲らしい、スケール感や雄大な感じがよく表現されていて、このソフトも我々のオーディオオフ会では定番ソフトですね。DG録音の中でも今のレーベルのような軟なサウンドではない、いかにもDGらしい硬派サウンドの代表的なソフトで、何回も聴きこんでしまう自分ではお気に入りのソフトでもあります。特に嵐の場面でのグランカッサの鳴り物系の迫力はスゴイものがありますね。
ウィーン楽友協会 2000/10の録音。2003年SACDとして発売。
EBSによる録音、編集、マスタリング。
トーンマイスター(バランスエンジニア) ウーリッヒ・ヴィッテ
録音エンジニア ジョルゲン・ブルグリン
レナード・ラーグマン
編集 ダブマー・ビルウェ
サラウンド・ミックス&ステレオ・ミックス ウーリッヒ・ヴィッテ
48/24 PCM2.0(SACD)
48/24 PCM5.1(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲
アンネ・ソフィー・ムター&ニューヨーク フィルハーモニック
これもDGらしい音色が濃くて、骨格感のあるサウンドですね。
音に厚みがあって、S/Nもいい。ベートーヴェンのコンチェルトは、ヴァイオリンとオケとの語らいが特徴なのであるが、特にオケの部分は、すごい音に厚みがあって深さがあって沈み込むような深さというか空間の広さをすごく感じる。(ボクはこういうサウンドの鳴り方が好き。)骨太な感じで、このソフトは1番DGらしい硬派サウンドの代表的なソフトのようにも思える。自分的には1番といってもいいぐらい好きなソフトですね。これは録音、編集時に96/24で録っているもので、それがよくわかるくらい情報量が多く解像度が高いのがよくわかりますね。
リンカーンセンター アベリー・フィッシャーホール 2002/5の録音。2003年SACDとして発売。EBSによる録音、編集、マスタリング。
トーンマイスター(バランスエンジニア) ウーリッヒ・ヴィッテ
録音エンジニア ウォルフ・ディーター・カーワートキー
レインハード・レッグマン
編集 レインヘルド・シュミッド
マーク・ベッカー
サラウンド・ミックス&ステレオ・ミックス ウーリッヒ・ヴィッテ
96/24 PCM2.0(SACD)
96/24 PCM5.0(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
マーラー交響曲第2番「復活」
ギルバート・キャプラン&ウィーンフィル
ギルバート・キャプランは大好きなマーラーの交響曲第2番「復活」を指揮することを夢見て指揮法を学び、現在では「復活」のみを専門に振る指揮者として有名で、ある意味一風変わった指揮者でもある。
これもウィーン楽友協会でのウィーンフィルでのEBSメンバーによる録音である。やはりこれも響きが豊かで美しい煌びやかな空間が綺麗に録れている。木管の嫋やかな音色がサラリと流れてくる瞬間に、空間の広さが十分感じ取れる。美音、美空間の代表的な録音ですね。ゴローさんは美音という類はオーディオ的にエンタメ性がなくてつまらない、と言っていたが、そのような意見も吹き飛んでしまう優秀録音だと思う。あえて言えば最終章のところで、オルガンが鳴るのがちょっと違和感かなぁ?復活にオルガンというのはいままで経験がありません。
この優秀録音も、ライナー・マイヤール氏の代表作品。最高傑作といってもいいほどの作品だと思う。
ウィーン楽友協会 2002/11,12での録音。
EBSによる録音、編集、マスタリング。
トーンマイスター(バランスエンジニア)ライナー・マイヤール
編集 ライナー・マイヤール
録音エンジニア ウォルフ・ディェータ・カーワートキー
ジョーゲン・ブルグリン
ダグマー・バイウエ
サラウンド・ミックス ライナー・マイヤール
96/24 PCM2.0(SACD)
96/24 PCM5.0(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
マーラー大地の歌
ブーレーズ&ウィーンフィル
これもウィーン楽友協会でのウィーンフィルでのEBSメンバーによる録音。いかにこの組み合わせがEBSメンバーの独壇場であるのかわかるだろう。テノール、ソプラノがきれいに録れている。ホールというよりスタジオでの録音のように空間をあまり感じないのだが、S/Nがよくて、DGらしい厚みのある音は、やっぱり”らしさ”の感じはする。歌ものの録音としては、とてもクオリティが高くて自分好み。途中で出てくるフルートの浮き上がり方というか、その遠近感の出し方、声ものと伴奏のオケとの間にギャップを感じないその自然なつながりは、作為的なものを感じなくてヴィッテさんの腕の見せ所なんだなぁ。
ウィーン楽友協会 1991/10の録音。2002年SACDとして発売。
EBSによる録音、編集、マスタリング。
トーンマイスター(バランスエンジニア) ウーリッヒ・ヴィッテ
録音エンジニア ジャーゲン・ブルグリン
編集 ダブマー・ビーベ
サラウンド・ミックス&ステレオ・ミックス ウーリッヒ・ヴィッテ
44.1/24 PCM2.0(SACD)
44.1/24 PCM5.1(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
オペラ・アリア集
アンナ・ネトレプコ&ウィーンフィル&ウィーン国立歌劇場合唱団 ノセダ指揮
これもウィーン楽友協会でのウィーンフィルでEBSメンバーによる録音。今回はネトレプコのアリア集。いままで通り、響きの豊かさなどは従来通りよく録れているのだが、ソプラノの捉え方が、ちょっとオフマイク気味というか少し距離感がある感じで、ソプラノ+オケとして全体の捉え方がじつに秀逸。ソプラノにはエコーがかかっていて、歌唱ものの録音のリファレンスのやりかたですね。なんかBISっぽいです。(笑)
残念ながら、この盤は現在廃盤で、ぜひ再販してほしいな、と思うくらい素晴らしい優秀録音ですね。
しかしネトレプコの声の張り、声量には本当に圧倒される。
ソプラノの音域としては、もちろん相応の素晴らしい声質なのだけれど、ストレスフリーに突き抜ける高音というより、いくぶんダーク気味な色を感じる声質で、彼女の唯一無二の魅力な声紋って言ってもいいですね。やはり現代の女王ディーヴァと言っていい資質・貫禄があります。
ウィーンフィルのオケが鳴るときの沈み込むような感じの重量感など、そのはっきりわかる空間が録れているのもさすが。
これもライナー・マイヤール氏の作品なのである。
ウィーン楽友協会 2003/3の録音。
EBSによる録音、編集、マスタリング。
トーンマイスター(バランスエンジニア)ライナー・マイヤール
録音エンジニア ウォルフ・ディーエーター・カーワートキー
編集 ダグマー・バィーヴェ
サラウンド・ミックス ライナー・マイヤール
96/24 PCM2.0(SACD)
96/24 PCM5.0(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
シューベルト歌曲集
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター&クラウディオ・アバド&ヨーロッパ室内管弦楽団
DGにしてはめずらしくパリのシティ・デ・ラ・ムジークの大ホールでのセッション録音。2002年5月。これもじつに素晴らしい録音なのに廃盤なのが本当に残念。再販望みたいです。オッターは、やはりいいなぁ。気品のある瑞々しい声がとても美しく録れている優秀録音です。これもちょっとBISっぽいですね。マイクから程よい距離感があるんだけれど、遠すぎず、声の芯がしっかりしてちゃんと明瞭くっきりに聴こえます。これもマイヤール氏の作品。
トーンマイスター(バランスエンジニア) ライナー・マイヤール
録音エンジニア ジュルブルリン ブルグリン
オリバー・ローガーラフォン・ヘイデン
編集 アンドリュー・ウェドマン
サラウンドミックス ハンス・ユーリッヒ・バスティン
EBSメンバーによる録音、編集、マスタリング。
48/24 PCM2.0(SACD)
48/24 PCM5.1(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
ラヴェル ボレロ・マ・メール・ロワ
ブーレーズ&ベルリンフィル
数多のベルリン・イエス・キリスト教会録音の中では、ダントツの超有名盤で優秀録音。オーディオオフ会でも定番中の定番ソフトです。1993年の録音とは思えないS/Nのよさで、まさに美音という類で、全体的に線の細い引き締まった音色。いままで紹介してきたソフトの音色とはちょっと毛色が違う。サラウンド効果も大仰なところがなくて、ほんのりと横方向のステージ感が広がるくらいの上品なサラウンドなのである。名盤生産基地であったベルリン・イエス・キリスト教会の質素な空間で、響き過ぎない上品な感じがよくわかります。
本当に美しい作品。DG SACDであれば、ぜひ持っておきたい1枚!
この教会は、まさにDG録音の原点というか聖地でもある。余談であるが、ポリヒムニアのFBの投稿で、この教会で彼らがセッション録音をやっている写真が投稿されていて、スゴク驚いた。(笑)彼らが、この空間をどのように捉えて作品化するのか、スゴイ楽しみ!それもサラウンドで!
ベルリン・イエス・キリスト教会 1993年セッション録音。
EBSメンバーによる録音、編集、マスタリング。
トーンマイスター(バランスエンジニア) ヘルムヘット・バーク
録音エンジニア ジョブ エバーハート、ウォルフ・ディーター・カーワートキー
編集 イングマー・ハース
ロジャー・ブッケンホフ
サラウンドミックス ヘルムヘット・バーク
マーク・ブッケアー
ワーグナー・オペラアリア集
ブリン・ターフェル&クラウディオ・アバド&ベルリンフィル
ベルリンフィルハーモニーでのセッション録音。
いままでEBSが録ってきた録音は、ウィーン楽友教会でのウィーンフィルの録音が独壇場であることを言及したが、もちろんベルリンフィルハーモニーも彼らの大きなテレトリーだった。四方が反射面だらけの響きの豊かなシューボックスと違って、ワインヤードのアリーナ型は、ステージ上の音を反射するための壁が遠く、どちらかというと音が拡散するスタイルで、演奏スタイルもホールの反射による響きに頼ることのできない直接音主体のダイナミックな奏法が求められる。
やっぱり録音のテイストが違うんだなぁ。聴いていてはっきりわかる。容積の大きいアリーナなので、鳴っている音との対比で、捉えている空間の広さが聴いていてよくわかるんですよ。そして容積が広いと残響時間も長くなるので(教会がそうですね。)、ダイレクト音主体で、それに伴う余韻が漂う感じが....
シューボックスとは、全然違う魅力ですね。先日訪問したパリのフィルハーモニー・ド・パリも、アリーナ型で空間が広くて、この音の余韻の漂う滞空時間の長さが秀逸でした。アリーナ型特有の聴こえ方ですね。
ブリン・ターフェルという歌手は、イギリスのバス・バリトン歌手で、このDG SACDの一連のシリーズの常連スターですね。彼の歌うワーグナーのアリアは、とても魅力的。ワーグナー・ファンとしては堪りません。
ベルリンフィルハーモニー 2000/2001年のセッション録音。
EBSメンバーによる録音、編集、マスタリング。
トーンマイスター(バランスエンジニア) ウーリッヒ・ヴィッテ
録音エンジニア ウォルフ・ディーター・カーワトキー
ジョルゲン・ブルグリン
レイナード・レーグマン
編集 オリバー・クルデ
48/24 PCM2.0(SACD)
48/24 PCM5.1(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
中国の不思議な役人、春の祭典
サロネン&ロサンジェルス・フィルハーモニック
ご存知エム5さん絶賛ソフト!(笑)サラウンドではなくて2chソフトなのだけれど、これがスゴイ!もちろんマイヤール氏の作品だ。これは、やはり大音量、爆音で聴かないとダメですね。1曲目の「はげ山の一夜」からじつはすごかったりする。楽器が特定できないのだけれど、グイグイ掘り下げるように鳴ってくる低音が堪らない快感。そして中国の不思議な役人、まさに目の覚めるような、で、かなりアバンギャルドな旋律がつぎつぎと展開され、そして怒涛の低音、かなりクセになる。グランカッサの迫力ある炸裂が堪りませんね。
これはやっぱり爆音で聴かないとダメだなぁ。
このパントマイムは、内容がかなりグロテスクなので、上演の機会があまりなく、オーケストラ版はそれなりに演奏されるのだが、なかなかお目にかかることのない演目だったりする。
でも自分は、忘れもしない松本のサイトウキネンで金森譲さんの演出でこのパントマイムの実演に接することが出来た。
衝撃だった!!!ちゃんとNHKの録画もしてある。永久保存版です!
ロスアンジェルス CA ウォルトディズニー・コンサートホール 2006/1のセッション録音。
EBSメンバーによる録音、編集、マスタリング。
トーンマイスター(バランスエンジニア) ライナー・マイヤール
録音エンジニア フレッド・ボグラー
サラウンドミックス ライナー・マイヤール
まさに恐怖のオフ会道場破りのソフトとして、このソフトの存在を知らない人はいないだろう。この7トラック目のまさにカオスといってもいいほどのごちゃごちゃした音の塊を、きちんと鳴らせる人はどれくらいいるだろう?史上最強に鳴らすのが難しいソフトと言ってもよい。これをオフ会で持参して他人の家で鳴らそうとする人は、なんと根性の悪い人と思われるので注意しましょう。(笑)
拙宅はサラウンドで鳴らしているので、幾分、ごちゃごちゃした音の塊も幾分分離して聴こえるかなぁと思うのだが、これを普通の2ch再生で聴いたら、本当に団子状態でつぶれてグチャグチャに聴こえるんでしょうね。まさに道場破りのソフトで、我々オーディオファイルでは最も恐れられているソフトであります。これもマイヤール氏の作品なのです!!
それをアンニュイな魅力のグリモーさんが弾いているところがまた.....(笑)
トーンマイスター(バランスエンジニア) ライナー・マイヤール
録音エンジニア ジョルゲン・ブルグリン
編集 マーク・ブッカー
サラウンドミックス ライナー・マイヤール
96/24 PCM2.0(SACD)
96/24 PCM5.0(SACD)
44.1/16 PCM2.0(CD)
以上が、自分がお勧めする幻のDGのSACDです。
こうしてみると、DG録音の全部がEMIL BERLINER STUDIOS(エミール・ベルリナー・スタジオ)で録音、編集、マスタリングされたもので、まさにDG録音は、このEBSとともに歩んだ歴史だということがよくわかった。とくに優秀録音の大半の作品を、ライナー・マイヤール氏とウーリッヒ・ヴィッテ氏が手掛けていたことがわかったのが、改めてこのスタジオをずっと支え続けてきた名トーンマイスターなんだなぁ、という感じでしみじみ。
ベルリンフィルは、彼らの自主制作レーベルであるベルリンフィルレコーディングスで、そしてロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、ポリヒムニアによる録音、編集、マスタリングで、自主制作レーベルのRCO Liveから、そしてウィーンフィルは、このEMIL BERLINER STUIDOSという図式なのかな、ということが俯瞰出来て面白かった。
最後に余談であるが、SACDといえば、じつは自分はSACD草創期のソニー(SME)から出たころのシングルレイヤーのSACDを懸命にコレクションしていた時期があった。これはハイブリッドが出来る前の本当に最初の頃のフォーマットで、背表紙が黒のハードケースカバー仕様で、お値段も普通より高い3675円のバージョンであった。この頃のバージョンをコレクションしている人は、いまはほとんどいないと思うので、もうお宝を持っている感じで、スゴイ自慢だったりするのでした。
もうここまでくると病気ですね。(^^;;
DG(ドイツ・グラモフォン)のSACDとEMIL BERLINER STUDIOS(エミール・ベルリナー・スタジオ) [オーディオ]
クラシック録音のまさに王道というか名門中の名門であるドイツ・グラモフォン(DG)の録音、サウンドについて、きちんと語らないといけないときが、きっと来るはずとずっと思っていた。
やれ、PENTATONEだ、BISだ、Channel Classicsだ、とか最新の高音質レーベルのサウンドを賞讃、評価していても、クラシックファンでいて、オーディオファンであるならば、DG録音をきちんと鳴らせない時点でもう失格なのだろう。
ゆうあんさんが新しい高音質レーベルの音は、ちょっと”盛っている”味付けで、クラシック&オーディオファンの真のリファレンスは、やはりDG録音にある旨のコメントをいただいたが、そのときドキッとさせられた。
そこにエム5さんのDG愛を聞かされて(笑)、ますます自分としては、この大レーベルを意識せざるを得なくなった。
DG録音は、まさに膨大なライブラリーがある訳であって、自分でももう数えきれないくらい所有していて死蔵状態になっているのも、たくさんあったりする。
どうアプローチしようか、といろいろ悩んでいたが、調布のゴロー邸の追悼オフ会に参加した時に、ゴローさんの膨大なラックの中に、まさに今ではお宝といっていいほどのDGのSACDが、たくさんあったのには一同全員驚いた。
これだ!
DGのSACDを集めてみよう!
なにせ一番DSDレコーディングに熱心でなかったのはDG(ドイツグラモフォン)で、そもそもSACDのタイトル数が50程度(あっても100未満)くらい出して、早々にSACDフォーマットから撤退していったレーベルだった。
クラシック録音の王者であるDGのSACDとは、どのようなサウンドなのだろう?
現在の高音質レーベルと比較すると、どのようなテイストの違いがあるのだろう?
特に自分はSACDに対しては、広帯域化による2ch高音質再生というより、マルチチャンネルによるダイナミックレンジの広い再生に興味があって、DGのSACDサラウンドとは?どんな感じ?と興味津々だったわけである。
自分が取り組むならこれしかない、と思った。
そこからDGのSACDを収集する戦いの日々が始まった。なにせ、すでに廃盤、珍盤扱いのものも多く、困難を極めた。ふつうにオンラインで買えるものは全部買う。そして御茶ノ水や新宿、吉祥寺などのディスクユニオン巡り、さらには国内アマゾンの中古マーケットプレイス、さらには海外アマゾン(米、カナダ、フランス、ドイツ、イギリスのサイトをあさった。これが結構手に入るんだなぁ。)にも触手を伸ばした。
そしてもうほぼ限界かなぁというところまで来たと思う。
40枚弱.......これ以上探しても見つからないと思うので、この40枚で評価してみたいと思う。
集めた魅力的なDGのSACDたち.....
これはもともと自分が持っていたものだが、カラヤンは生涯においてベートーヴェン交響曲全集を4回に渡って録音していて、特に手兵ベルリンフィルとは、60年代、70年代、80年代と3回録音している。このうち60年代の録音はSACDになっていて、ベルリン・イエス・キリスト教会での録音だが、これもDG SACDなのである。
DGのSACDの特徴は、下の写真でもわかるように、
ケースの左下に丸い銀色のシールが貼ってある。これはSACD草創期の頃のシールなのだと思う。全部に貼ってある。そして右下に上段にSACDのロゴがあって、中段にSUPER AUDIO CDとあって、一番下段にSURROUNDというロゴがある。これもSACD草創期のロゴのスタイルですね。全部そうなっている。
そして、この40枚のDG SACD全てを録音、ポストプロダクション、そしてマスタリングしたのがEMIL BERLINER STUDIOS(エミール・ベルリナー・スタジオ、以下略称でEBSと使う。)なのである。
DG SACD、そしてDG録音を語るには、まずこのエミール・ベルリナー・スタジオのことを語らないといけない。(以後のスタジオなどの掲載写真は、エミール・ベルリナー・スタジオの公式HPからお借りしました。)
ドイツのエミール・ベルリナー・スタジオ EBSは、元々ハノーヴァにあってドイツ・グラモフォンの技術センターであった。それがポリヒムニアと同じように、2008年に独立して、ベルリンに新しいスタジオを構えた。
場所は、ベルリン市の中央、ポツダム広場の近くである。元々マイスター・ザールという中ホールがあり、映画の制作会社がいくつか入っていたビルに5人の精鋭エンジニアが集まったのだ。
エミール・ベルリナー・スタジオは、このマイスターザールという中ホールがあるビルの一角を占めている。
彼は、1990年から2000年代にDGレーベルでブーレーズ指揮のマーラーやガーディナー指揮のホルスト「惑星」など優秀録音を多々生み出している。彼が生み出してきたDG時代の優秀録音には、いかに数多くのオーディオファイルを驚嘆させてきたことだろう。
ゴローさんとも親交が深かった。小澤さん&ベルリンフィルのフィルハーモニーでの「悲愴」のBD化のトーンマイスター&音声エンジニアにこのマイヤール氏を起用した。なぜ、もっと安いNHK内部のエンジニアではダメなのか?という問いただしにも、苦労して無理に予算を通す荒技で、このマイヤール氏のサウンド作りにかけていた。おかげで、小澤さんの悲愴は、業界でオーケストラコンサートとして、はじめてBlu-rayを使うという偉業でエポックメイキングな出来事になった。
ヒラリー・ハーンやラン・ランの録音を担当してきたトーン・マイスターである。彼はこうあるべきだというサウンドのイメージをしっかり持っていて、その実現には決して妥協しないことで有名。
彼がDGで働いていたころ、その当時マーケットになかった機器を、自分独自の自作で作り上げてしまうというほどの人なのだ。現在は、録音プロデューサー&音声エンジニアとして働く一方で、自分の会社 Direct Out Technologiesという会社を立ち上げ、そこのスタジオの設備を整えることに多くの時間を費やしているようだ。
あと、エヴァート・メンティングという、これまたハノーヴァ時代からのベテラン・エンジニアがいて、メンティングは社長としても、エミール・ベルリナー・スタジオをリードしている。
このベルリンの新しい第1スタジオは、ポリヒムニアのスタジオよりも一回りコンパクトな感じで、24畳くらい天井高さが3m強というサイズ。スタジオの中は、森の中にいる様な静けさで、ベルリンという大都市の中心部であるので、その外からこのスタジオに入った時の落差がスゴイらしい。新しくスタジオを作るにあたって、空調から機材のトランスの唸りにいたるまであらゆるところに気を使ったそうだ。「漆黒のような無音のキャンパスから、美しい録音が生まれる」という信念があるらしいが、でもスタジオ内には適度な響きがあるそうだ。
ただ、この第1スタジオは,ガラスを隔ててピアノのソロや室内楽の演奏が録音できるスタジオフロアーがあるのだ。つまり彼らのスタジオは、単なるポストプロダクションだけではなくて、収録スタジオも兼ねている。この写真にあるピアノはDG時代のグランドピアノで、過去アルゲリッチやら一流音楽家達が弾きまくった逸品だそうである。
第1スタジオのモニタースピーカーはB&W Nautilus 802を5本揃えるサラウンド制作ができるような対応になっている。B&Wは、その後、DそしてDiamondとどんどん新シリーズのSPを世に送ってきているが、こういうEBSに限らず、PENTATONE,BISなどのクラシックレーベルのスタジオのモニターとして使われるSPは、やはり圧倒的にNautilus、もしくはMatrix時代のものなのだ。
”モニターする”という最大の役割を果たすには、現代の最新のSPはやはり色が付きすぎなのだろう。
マイヤール氏の録音は、ポリヒムニアの自然で押しつけがましさのない録音と少し異なり、良い意味で華やかさがある。自然の中の空気感の中ではっとするような美しさがある、とでも言おうか。
さらにマイヤール氏は、クラシック録音の要であるメインマイクの指向性や周波数特性を帯域ごとに細かく分割して可変するデジタル処理のプログラムを開発したそうで、たとえばシンプルなピアノ・ソロを2本のメインマイクで捉えた音源を使ってデモするのだが、たった二つのマイクで収録した音源を、後処理によって、あたかもマイクの位置を動かしたかのように、音色、距離感、残響感を自在に可変して聴かせるなどのパフォーマンスができたりする。(ゴローさんとエム5さんは訪問時聴いているはずです!)
まさしくおそるべく技術集団とも言えよう。
彼らのもうひとつの第2スタジオは、2chステレオ専用の編集・ミキシング・マスタリングのスタジオとなっている。
モニタースピーカーは、ハノーヴァ時代から変わらぬB&W マトリックス801。プロフェッショナルは一度決めた「音の物差し」はなかなか変えられないものだ。
もうひとつはアナログテープのリマスターやLPのカッティングに対応したアナログを重視するスタジオになっている。
思うに、彼らは、名だたる指揮者や演奏家と一緒にプレイバックを聴きながら、「よし、この音で行こう!」と納得させるサウンドを出すことを常に求められている。そんな尋常ではない説得力がある。
我々のようなオーディオファンの再生音とは全然違う。
「う~ん、この音量なのか、このバランスなのか、こういう風な遠近感なのか......」
こういう名だたるスタジオ、名トーンマイスターのもとで、その再生音を聴いてみたい、きっと自分のオーディオの糧になること、間違いないと思う。彼らのセンスというのを盗んでみたい。”盗む”という行為は成長するうえで、とても大切なことで避けて通れないものなのだと思っている。
前置きが長くなったが、このエミール・ベルリナー・スタジオのスタッフたちが、いままでの膨大なるDG録音を作ってきたのだ。
少なくとも、私が今回集めたDG SACDは、すべてエミール・ベルリナー・スタジオでの編集、マスタリングであった。
日記が長くなるので、続きは、後編ということで、二部構成にしたい。
ここで事前に簡潔に要約すると、DGのSACDサラウンドというのは、SACDの草創期の録音であるから、コンサートホールでのサラウンドのマイクアレンジなどのノウハウなど、まだまだ未熟な点も多く、そこに起因すると思うのだが、サラウンドとしての音場感が、現在の高音質レーベルと比較して、乏しい感じがして、ホール空間での直接音と対響きのバランスなどの再現が垢抜けないというか洗練されていない。そういう空間表現という言葉があてはまるほどの再現になっていない。
いまの高音質レーベルは、部屋中にふわっと拡がっていく、自分を取り囲まれているような感覚に陥るようなサラウンド感というのが秀逸なのだが、DGのSACDサラウンドにはそれはあまり感じない。彼らはもっとダイレクト感あふれるサラウンドで、5本のSPから各々ダイレクトに音が出てきてサラウンドが形成されるような、そんな感じのサラウンドに思える。
ホール空間、その場でのアンビエンスをどう表現する?その空間表現をどのように作るかをマイクアレンジの時から考えてやる、という次元ではないような気がする。
やっぱり当時のサラウンドの作り方は、いまとやり方、考え方が違うのかな?と思ったりする。
う~ん、いまは進化しているんだなぁ。
5本のスピーカーからダイレクト音でサラウンドを形成する、というのも、これはこれで魅力的で、特にPENTATONEは基本は質感の柔らかいサウンド、BISはワンポイント的にマイクからある程度、距離感があるように聴こえる空間表現の作り方が卓越なのだが、DGは、それらのサウンドとは根底的に違う、もっと音の厚みというか、ソリッド(硬質)で骨格感のある硬派なサウンドが根底にあることは間違いないと思えた。それは聴いていてよくわかる。
長年のDG録音に聴けるようなサウンドの厚みは、やはりこのエミール・ベルリナー・スタジオの作り出す伝統のサウンド・マジックの賜物なんだろうな。
だから尚更、この硬派な厚みのあるサウンドを活かしつつ、現在におけるホール空間を表現できるようなマイクセッティング技術が加わると本当に鬼に金棒!だと思うのだ。
だから”いま”のDGが作るSACDサラウンドを聴いてみたい!
現実性は乏しいにしろ、ボクもDGのSACD復活論者の仲間入りをさせてほしいのです!(笑)
二部構成の次回(各ディスクの評価)に述べますが、特にウィーン楽友協会でのウィーンフィルの録音は、昔からDG(エミール・ベルリナー・スタジオ)の録音の独壇場で、じつに圧倒されるスゴイ録音ばかりでした。