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DG SACDのシューベルト歌曲集 [ディスク・レビュー]

先日日記にしたDG SACD特集で、その作品の大半が、2人のトーンマイスターによって作られていたことをあらためて発見し、しっかりと書きとめた。

現に取り上げた作品のクレジットを見た場合、トーンマイスターそして、編集、ミキシングとして名を連ねていたのは大半がこの2人だった。

1990~2000年代のドイツ・グラモフォンの技術センターだったハノーヴァーのエミール・ベルリナー・スタジオに 2人のエース、トーンマイスターがいて、 それが、ライナー・マイヤール氏とウルリッヒ・ヴィッテ氏。

まさにDGの黄金期の作品は、この2人によって作られてきたといっていい。

ヴィッテ氏は、サウンド的にはギュンター・ヘルマンスの後継者といった存在で、いかにもDGという王道を行く、密度感があって中間色のグラディエーションが濃厚、それでいて肌触りの自然なオーケストラ録音をものにしていた。

一方でマイヤール氏は、DGに新しい風をもたらした。

彼の代表作は ブーレーズ指揮ウィーンフィルのマーラー3番やガーディナー指揮のホルスト「惑星」(これは先日の日記の後に、ついに最近ようやく入手できました。)などで、とても瑞々しく色彩的に鮮やかで かつダイナミックな録音を身上としていた。

先日の日記で取り上げた作品も大半がこの2人の作品で、特にマイヤール氏の作品が非常に多かった。

その一連を聴いて、マイヤール氏は大編成のオーケストラをさばく仕事人というイメージをこれまで持っていたが、そんな作品の中で、歌曲集というちょっと一風彼らしくないというか、大技というよりも、高貴な品位で漂いながら、熱いパッションもどんどん伝わってくる、そんな作品に出会った。

DG SACDの日記を書いてから、このディスクに知り合って、すごいヘビロテになってしまい、まさに虜になってしまい毎日聴いている。ちょっと嵌っていてうれしい気分なので日記にしてみたくなった。


歌曲王シューベルトの歌曲「魔王」。

シューベルト「魔王」は、高熱にうなされたときにみる悪夢のような内容で お父さんと幼い子供、そして魔王という3人のキャラクターを 一人で歌い演じ分けるという趣向である。激しい嵐が 木々を叩きつけるような短調の激しい曲調で進んでゆく。

でもその中で「魔王」の歌うところだけが長調で夢見るように美しいのが驚きで心惹かれるのだ。

なんか全体のバランス、曲調として、すごく両極端なところがあるのだけれど、すごく面白い。


この「魔王」をオーケストラ伴奏に編曲した録音がある。

幻想交響曲で知られるベルリオーズが編曲したものとドイツ後期ロマン派のマックス・レーガーが編曲したものと2種類ある。 それぞれ個性があって実に面白い。  


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シューベルト歌曲集
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター/トーマス・クアストフ
アバド/ヨーロッパ室内管弦楽団

http://goo.gl/4mUb7w



今回偶然にもDG SACD収集の旅で発見できたこのディスクでは、2枚組になっていて、オーケストラが劇的に鳴って派手なベルリオーズ編曲を メゾ・ソプラノのアンネ・ゾフィー・フォン・オッターが、そして重厚なレーガー編曲を バス・バリトンのトーマス・クアストフが歌っている。

今回発見したDG SACDのこのディスクは、この両ヴァージョンを素晴らしい歌手2人で歌い分けているという、とてつもなく貴重な作品であることがわかったのだ。アバド/ヨーロッパ室内管弦楽団によるオーケストラ伴奏である。


録音も本当に素晴らしい。
オッターの声なんて、彼女らしい瑞々しい気品のあって張りのある歌声(さらに若い頃だし。(笑))が、じつに綺麗に録れていて、素晴らしい録音だと思う。

いま自分が集めてきたDG SACDの中で、このディスク、ヘビロテ・ディスクとして毎日聴いているのだ。

残念ながら現在廃盤なのだが、上記のリンク先では、中古品で10000円、そして新品であれば30000円くらいのプレミアが付いているが、中古マーケットプレイスで売っているようだ。これだけの高値を払っても、この2バージョン編曲の「魔王」をDG SACDで聴けるなら、自分はお安いと思います。(悪魔のささやき)

人生で500曲あまりの歌曲を作曲した歌曲王シューベルトの作品の中でも、この「魔王」は自分が数聴いた作品の中でもとりわけお気に入りであったりする。


最近の録音では、PENTATONEにて、実力派テノール歌手、クリスティアン・エルスナーがシューベルトの歌曲集を録音して、この「魔王」を録音している。彼が歌うのはレーガー編曲。というかこのアルバムに収録してあるシューベルト歌曲集は、ほとんどがレーガー編曲のオーケストラ伴奏である。ヤノフスキ&ベルリン放送響が伴奏をつとめている。 

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シューベルト歌曲集~レーガー、ヴェーベルン編曲による管弦楽伴奏版 
エルスナー、ヤノフスキ&ベルリン放送響

http://goo.gl/xFn9LT

こちらはトーンマイスターはジャン・マリー・ヘーセン氏の作品なのだが、さすが最新のサラウンドだけあって、じつに洗練されていて、柔らかい質感、解像度が高く細やかで、音が濃いというか情報量が豊富で、本当に最新の録音技術という感じですね。

こちらも素晴らしい録音です。

シューベルトの歌曲をこれだけのクオリティの高い録音で聴けるのだから、こちらも絶対持っておくべき1枚だと思います。

いやぁ、やっぱり自分は歌曲というジャンルが本当に好きだなぁ、とつくづく......


Channel Classicsの新譜:古楽の世界への誘い。 [ディスク・レビュー]

1年のうちで最も忙しいこの時期をなんとか乗り越えられそうだ。その合間を縫っての休日のオーディオタイム。

正月に1度聴いていたが、オランダの高音質レーベル Channel Classicsの新譜を3枚、今日じっくり聴きこんでみた。

正月にも感じていたが、3枚ともじつに素晴らしい優秀録音。いわゆるガツン系ではなくて、癒し系室内楽の様相で、疲れ切った頭と体を十二分に癒してくれた。

ジャレット・サックス率いるこのレーベルも順調のようで、新譜の回転率が速い印象を受ける。
レーベルのサウンドというのは、およそイメージが決まっているものだが、この3枚は、各々でその印象が違っていて、じつに興味深かった。同じレーベル、スタッフの作品とは思えなかった。 

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メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲第1番、第2番 
ハムレット・ピアノ・トリオ

http://goo.gl/4ZW6eE

2011年に結成された、ピアノ:パオロ・ジャコメッティ、ヴァイオリン(アムステルダム・シンフォニエッタの音楽監督!):カンディダ・トンプソン、チェロ:クセニア・ヤンコヴィチによるアンサンブル 「ハムレット・ピアノ・トリオ」による演奏。

メンデルスゾーン時代のサウンドを再現するべく、エドウィン・ベウンク・コレクションのエラール・ピアノとガット弦を使用している(東京エムプラス情報 on HMV)とのことで、ピリオド・アプローチ。


オランダは、まさに古楽王国で、Channel Classicsというレーベルも過去からずっとピリオド楽器による古楽演奏の録音を多く取り入れてきている。(レイチェル・ポジャーなんか代表格。彼らのひとつのレーベル・カラーですね。)

またエラール・ピアノを取り入れることは、ピアノの達人でもあったメンデルスゾーンへのオマージュの意味合いもあるのだろうか。

今回の作品もその王道のアプローチの一環なのだと思えた。

メンデルスゾーンは初期ロマン派の作曲家で、明るい旋律の曲が圧倒的に多いイメージがあるが、このピアノ三重奏曲は、短調で書かれていることもあって、明るいながらもどこか影がある、その両面が垣間見えるバランス感覚が絶妙。

ピアノ三重奏曲、四重奏曲、そして五重奏曲と名曲を書き綴った室内楽の王、シューマンを持ってして、「ベートーヴェン以来、もっとも偉大なピアノ三重奏曲」と言わしめた、このメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲。

すべての役者がそろった。

聴いてみて、じつに素晴らしい作品、演奏で、そして録音でもあった。
エラール・ピアノの音色は、表現が悪くて申し訳ないが、モダンピアノと比較して、ヌケ感が悪い、”こもり”気味の音色に聴こえたことは確かだが、でもこの音色でないと表現できない世界が、そこにあることが感じ取れた。

逆にこれがモダンピアノであったなら、華やか過ぎて、このディスクに収められている世界の表現、味は出せなかっただろう。

自分は古楽の世界、よさは、あまりよくわかっていない人なのだが、ピリオド楽器を使わないと表現できない当時の演奏形態の醸し出す雰囲気の価値観は間違いなくあると思う。それが古楽を理解できるかどうかの分かれ道ですね。

そのように肯定的に思えたのもChannel Classicsの録音技術の素晴らしさによるところも大きい。

自分が普段思うこのレーベルのサウンドの特徴は、各楽器のエネルギー感が大きくて、前へ前へ主張するような音の出方をすること。

で、空間もはっきり認識できて、この双方を両立するって、結構録る側の人からすると難しいのではないかなぁと思う。

クレジットには、録音も編集もすべてジャレット・サックス1人になっている。本当に1人でやっているのか、はたまた、共同でやっているのだけれど、クレジットは自分1人だけというワンマン体制なのか(笑)不明だが、彼じゃないと作れないサウンドですね。

ヴァイオリンはリアから、ピアノとチェロはフロントから、というチャンネル配分で、心地よい立体感、包まれ感があって素晴らしい。

いい録音ですね。

録音セッションは、2014年にオランダのヒルヴェルサムのMCOスタジオで行われている。このスタジオはオランダでは超有名なスタジオで、自分もこのスタジオでの録音をたくさん持っているが、ぜひ中を見てみたいと思っていたら、冊子の中にその模様があった。

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とてもシンプルですね。


クレジットでもうひとつ興味深かったのは、Channel Classicsのマスタリング・スタジオのスピーカーが、Grimm Audioのものを使っていたこと。

つい最近も、アムステルダム・コンセルトヘボウの屋根裏部屋のポリヒムニアの編集ルームも、B&W N805を使っていたのを、このGrimm Audioに変えている。いまヨーロッパのクラシック・レーベルでは、このブランドがトレンドなのでしょうか? 

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ドヴィエンヌ フルート四重奏曲集、ファゴット四重奏曲集 
ムジカ・レアーレ(ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団員)

http://goo.gl/XEySCB


18世紀フランスで活躍したフルート奏者、作曲家のフランソワ・ドヴィエンヌの木管(フルート、ファゴット)をフィーチャリングした四重奏曲。

このレーベルでは定期的に、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のメンバーによる室内楽作品を録音しており、今回も「ムジカ・レアーレ」というRCOメンバーによる室内楽楽団による作品。

これも素晴らしかった。

ドヴィエンヌという作曲家の作品は、あまり聴いたことがないのだが、数多くの管楽器作品を残しているようで、今回聴いた印象は、誰もが親しみやすい非常に万人受けする優しい旋律を書く人で、これが木管の嫋やかな音色とよく合って、木管好きの自分には、堪らない魅力な作品である。

録音は、さきほどの作品とは違っていて、楽器そのものが遠くに感じる、全体を俯瞰する感じで、なんだか、かなりBISっぽい。(笑)

同じレーベル、スタッフとは思えないテイストで、こんなに違うんだなぁと感じいることが多かった。この作品を録るなら確かにこのような感じがいいですね。

その取り扱う作品に応じて、どのような録音スタイルがいいのか、柔軟に変えられる、そういうところが優秀でいいですね。 

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細川俊夫:ヴェネツィアの歌う庭、ヴィヴァルディ:協奏曲集~海の嵐、夜、ごしきひわ、他 
シュヴァルツァー(リコーダー)、オランダ・バロック

http://goo.gl/gQJPIW


世界での活躍が著しい日本の現代音楽作曲家、細川俊夫さんの作品を、ヴィヴァルディの作品と交互に聴くというコンセプトの作品。細川さんの作品をこのレーベルで聴くとは、夢にも思いませんでした。(笑)

オランダ古楽界の若き精鋭集団オランダ・バロック(元オランダ・バロック協会)による演奏。オランダ・バロックは、このレーベルでは、ソリストと共演する形で、アルバムを作るというのが多いですね。

今回の作品は、世界最高のリコーダー奏者の一人、イェレミアス・シュヴァルツァーとの共演。

このシュヴァルツァーの委嘱により作曲された細川さんの「ヴェネツィアの歌う庭」は、ヴィヴァルディの4つのリコーダー協奏曲と交互に演奏するために作られた5つの小品で、日本でも2014年に演奏されているそうである。(東京エムプラス情報 on HMV)

これが聴いてびっくり!

作品の素晴らしさは、言うまでもないが、特に録音の素晴らしさに驚いてしまった。このレーベルで聴いてきた作品の中ではトップクラスに入る出来で(というか自分好みというまでですが。)、特に細川さんの曲のときでは、静謐な広い空間の中で、平皿に盛った水面に水滴がポタリと落ちるときに感じるような生生しい音表現には鳥肌が立ってしまった。

武満さんのディスクでもよく感じることなのですが、現代音楽というジャンルは、音楽として聴くには難しい面もありますが、オーディオ的に美味しい音の世界というか、隙間、空間を感じる広いキャンパスの中で、スコーンと抜けるような急峻な立上がり、立下りのある音の連続で、鋭利というか、なんかカミソリのような感じがして、ゾクゾクする感じが堪りませんね。

そういう面で、自分にはとても美味しい世界。

とにかくびっくりしました。

古楽には、苦手意識があった自分ではありますが、この3枚を聴いて、より身近なものに感じたことは確かです。

仕事で超多忙な日々を送っていた、つかの間の休日、いい過ごし方ができました。


ウィーン楽友協会の音響の秘密。 [コンサートホール&オペラハウス]

元旦の昨日、ウィーンフィルのニュー・イヤー・コンサートを鑑賞した。
毎年お決まりの儀式で、ややマンネリというか新鮮味がないことも確か。

でも年末年始でマンションに誰もいないという電源事情の良さからなのか、じつに素晴らしいサウンドで鳴って驚いた。自分の経験から、TVの映像機器を通した音は、どうしても本場のホールで聴いたときの音と比べて、信じられないくらい劣化するというか、あの感動を蘇らせることは不可能。

でも、それを差し引いたとしても、じつに素晴らしかった。

今年はサントリーホールが開幕30周年記念ということで、華々しいコンサート、催しごとが計画されている。サントリーと提携関係にあるウィーンも必然と関係してきて、今年は結構ウィーン色が強い年なのでは、と勝手に推測している。秋にはウィーンフィルが来日してくれて、そこで小澤さんが振るという嬉しいサプライズもある。

自分も今年はウィーンに行く予定であったが、いろいろ事情があって、どうするか悩んでいるところである。やっぱり物事にはタイミングというものがあって、旬な時に行くのが鮮度があっていいですね。

日本の楽団さんやソリストの演奏家の方々も今年はウィーン楽友協会で演奏されることも多いようである。そこで、この正月休みのあり余る時間を利用して、このホールについて、いままで自分が文献を読んでいろいろ勉強してきた内容、国内SNSでオーディオ仲間と議論しつくしてきた内容を整理してまとめてみたい、と思い、それを自分からのオマージュ、そして自分としてのふんぎりという形で日記にしてみたいと思ったのである。

まさに理論武装の頭でっかち状態(笑)で、実際自分の耳で聴いたときは、またそれプラスアルファということで印象が追加されるのだろう。

(ウィーンフィルのFB公式ページから拝借しております。)

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ウィーン楽友協会(ムジークフェライン)に関しては、建築音響学(建物内で音の伝搬について取り扱う学問)の中では、長らく世界最高の音響と称されていて、それはレオ・L・ベネラクという音響学者が著した書籍にそのからくり理論が書いてある。ベネラク氏の著書は、コンサートホール&オペラハウスの音響学を学んでいく上では、いわゆるバイブルの本で、そこを志す人であるならば、誰もが知っている、そして読んでいる書籍なのだ。

ウィーン楽友協会は、いわゆるシューボックスという形状スタイルで、直方体の形状で、ステージ上の発音体が360度無指向に発する音を、ステージ左右側方の壁、そしてステージ背面の壁、そして天井、床などですぐに反射して、客席に音を返すようにできている。(初期反射音、1次反射)

さらに直方体なので、両側の壁、天井、床などがそれぞれ平行面で存在するので、反射を何回も繰り返し、響きが非常に豊かに聴こえる。(2次,3次などの高次反射)

さらにこのホールは木部むき出しの椅子もその反射に一役買っていて、まさに響きに囲まれている感覚に陥るのは、そういう構造そのものに理由がある。シューボックスの音響は音が濃い、というのはそういうところが1番の大きな要因ですね。

家庭用のオーディオルーム(専用リスニングルーム)は、やはりこのシューボックスのような直方体が基本。そういった意味で、オーディオルームの室内音響理論の原点にあるのが、このシューボックスのコンサートホールなのだと思う。

でも直方体ならではの問題点、フラッタエコー(泣き竜現象)、定在波の問題などもいろいろあって、一長一短ですね。

ウィーン楽友協会は、サイズ的に縦長(横幅たったの19m)のホールで、容積的には1680人の収容人数で狭い部類に入る。ステージ上からの直接音に対して、壁からの反射音に時間差が小さいことは、このホールの横幅の狭さが要因だと思われる。直接音に対して、反射音の時間差が大きいと(つまり分離しているというか、時間的に十分すぎるくらい音が遅れてくると)、いわゆるエコーという感じで、返って、人の耳には煩わしく聴こえてしまう。あと反射音のエネルギー自体も観客席に届くまでに減衰してしまいますね。

人間の耳に快感で聴こえるのは、直接音と反射音の時間差が小さいほうがいいのである。(でも、これも、そのそれぞれのホールで聴くときの聴感バランス次第で感じることなので一義的にそうだ!とは言えないと自分は思いますが....)

シューボックスの欠点は、観客収容人数の少なさですね。縦長の直方体ですから、大人数を収容できないし、特に昔のホールでは、後方に行くにつれて傾斜をつけていないので、後方席の人は前の人がじゃまで、ステージが見えにくいと思います。

現在のホール事情で、大ホールとしてシューボックス型というのは、もうあり得ないのではないでしょうか?(室内楽ホールとしてなら、シューボックスはありです。)

いまの時代は大人数を収容出来て、ステージと観客全員が一体感を得られるワインヤード/アリーナ型が主流だと思います。(観客と一体感を得れらるのが、ワインヤードの一番のメリットですね。)

反面、ワインヤードは反射面の壁が遠いので、反射という恩恵を得るのが難しくて(あと観客が音を吸ってしまう。)、直接音主体で、音が薄くなる傾向で、音響的にデメリットがあります。それを「反響板」という存在、そしてホールの形状の工夫で補っているのだと思います。

ベルリンフィルハーモニーやサントリーホールのような昔のワインヤードのホールは、反響板は、ステージの上空にしか存在しません。でも最近のアリーナ型のホールは(最近行ったパリのフィルハーモニー)、ホールの観客席全体の上空を円周上にぐるっと反響板が取り巻いています。なので、ステージ近辺だけでなく、観客席全体に音が行くように工夫されているのです。

日本のミューザ川崎もそうですね。

天井の中心にある反響板を、やはりドーナッツ状に同様の反響板が円周上に取り巻いている。(ステージ前方だけではなく、ホールの客席全体をカバーするように。)そしてらせん状に見えた客席下部にある白い反響板もよく見ると、その下に位置する客席に音を返すようになっているのだと思う。

ステージを取り巻いている反響板も同様。とにかく、あの広いキャンパスの中で、つねにステージ上の音、そしてそれがホール空間を漂うときに、それをいかに客席にその音を返すか、という工夫が随所にされているのが、あのホールの音響の特徴なのだと、思います。(あくまで自分の想像の域です。)

アリーナ型は、ロックのコンサートのように観客との一体感を大切にしつつ、音響面でのデメリットをこのように補っていって、素晴らしい音響を作り出す、というソリューションなのだと思います。

大昔のホール形式であるシューボックスとは、なにからなにまで考え方が違いますね。

ウィーン楽友協会に話を戻しましょう。

このホールのもうひとつの大きな特徴は、平行面の壁、および天井に施されている音の拡散を狙った凹凸。側方の壁であれば、女性像の彫刻。天井であれば、優麗壮美な天井画の数々。

これらは音の拡散、滑らかさを作り出しています。

ヨーロッパのホールの特徴は、この華麗な彫刻が一番の特徴だと思う。
大昔の建設当時に、音の拡散なんて発想があったかどうかはわからないが、このような神秘的な彫刻はヨーロッパならではで、ヨーロッパであれば、どこの国のホールでも共通に見受けることが出来る。(キリスト教などの宗教に関連するところがありますかね。)これがじつは結果として煌びやかな音響を生み出しているなんて偶然は、やはり奇跡的なミステリーというか、自分がヨーロッパのホールに憧れている一番のミステリーだったりする。

現在のホールでは、さすがにこのようなヨーロッパ調の彫刻を施すことはできないので、武骨な形デザインではあるけれど、意識的に壁面に凹凸を作っているホールを結構見受ける。こういう凹凸を意識的に作ることは、ホールの内装美デザインとのトレードオフになるので、難しい選択ですね。

そして響きの質。

これは反射させる壁質によるところが大きいと思います。
楽友協会の壁は漆喰。(家庭用オーディオルームの室内音響理論もピンキリでいろいろありますが、自分がこれっ!と思っているものは、壁の材質に漆喰を使っています。)響きが広帯域に均一で、どこかでピークを持つなどの強調される帯域がないことが特徴。高域は、その可聴帯域外の高域に向かって、ブロードに自然に減衰していく。これがオーディオ的には音の粒子が細かく、滑らかな印象を与えるのだと思います。漆喰のザラッとした風合いが,抑え気味に音の艶を調節して滑らかさを出すと言われているようです。

あと、これはレオ・L・ベネラク氏の文献に書かれていて、なるほどと思ったのは、この楽友協会のホールのみに存在すると思われるホール上部に装着されている採光窓の存在。

「低音が豊かで,ヌケ感が良く,空気の塊がホールの中を弾むようである。」

低音に関しては,上部の採光窓がヌケ感に寄与している、という見解を示している研究者は他におらず、このベネラク氏特有の理論だそうです。 低音は堅固な壁面で覆われているとこもり気味になるのだが,窓などで弱い面があるとそこから低音の圧力が逃げて行きヌケ感が改善される。 楽友協会で、低音に関し量感とヌケ感を両立させているところも大きな特徴であると言えます。

(よく防音でガチガチに固めてしまうオーディオルームより、和室などのある程度音が外に抜ける構造のほうが音が抜群にいい、と言われているのにも共通していると思います。)

あと、エージング(経年変化)も絶対に避けては通れないファクターですね。
ヴァイオリンのストラド(ストラディバリウス)などの名楽器の音色が、現在、懸命になってCG CADを使ったりしてまるっきり同じく模倣して作ったとしても、決して同じ音色を出せないのが、このエージングによるものです。ヴァイオリンの中の胴体の部分でこの音色を決めているところのパーツがあって、そこも含めて、いわゆる17〇〇年製とかいう何百年という経年を辿っている訳で、そうすることで熟するというか、発酵するというか、それが原因で信じられない恍惚な音色が出るのだと思います。

これはコンサートホールにも同じことが言えて、ホールを作っている材質などが何百年という経年変化で、熟していき、そこで発する、反射される音は、絶対近代建設で発せられる音では永遠にマネのできない異次元の世界なのだと思います。

これは楽友協会の音響の秘密の中で一番大きな要素かもしれません。

そして、これはオーディオ仲間が実際ムジークフェラインを体験した時に、言っていた感想で、大変参考になった意見があります。

「じつは1番の”きも”は体育館のようにドカドカ鳴る木の床だったりする!」

観客席の床から階段、さらにステージの上までも全部木の床。つまり床振動で全体を鳴らすようにするため、ステージ上でオケが音を出した瞬間、音圧が上がった時に、床が木でホール全体を通して連なっているのでどっと盛大に鳴り、つまり音が化けるように出来ている。(床振動って大切で固い床ではダメなんですね。オーディオルームの床造りと同じです。)
いわゆる”ハコ鳴り”というやつでハコ(ホール)全体が鳴っているように感じる。

「ホールは楽器です。」という名文句はここから来ているのだと思う。

このホール全体が楽器のようにいっせいに共鳴して鳴るように聴こえる現象はムジークフェライン特有なのかもしれません。

この意見が一番自分には的を得た、このホールの魅力をグサッと刺した感想だったように思える。


レオ・L・ベネラク氏によるウィーン楽友協会の音響の秘訣として、つぎの

・比較的小さな寸法であること。
・不規則な内部の表面。

であることを挙げている。

反面、このホールの欠点と言えるところは、

・響きが豊か過ぎて、直接音の音像が埋没気味というか、細かい楽器のテクニックや音色が、その響きの中に埋没して聴こえないこと。音符の数や楽器の数が多くなっていくと、美しいハーモニーの中に個々の音は埋没してしまう、ということ。

・そしてホールの容積が小さいので、トゥッティなどのいっせいの大音量のときに、音が飽和してしまう、ということ。


コンサートホールの音響特性、響きは、そこのレジデンスオーケストラが1番良く分かっていて、自分たちが実際弾いてみたときに、どのように響いて聴こえるか、などを自分が演奏しながら直に感じ取れる。

そういう意味演奏者が一番そのホールの響きを理解できていて(いくら理論づめで能書きを垂れてもダメな訳であって、直に耳で聴いた印象が1番ということです!)、遠征で行ったオケは、そのホールに合わせて、急いでベストな演奏方法を模索するし、レジデンスオーケストラであれば自分のホームの音響を知り尽くしているので、どう弾けば最高のオーケストラ・サウンドが醸し出されるのか、わかっていて、それに応じた演奏方法などを身に着けていると思うのである。

ここまで頭でっかちで理論武装しているより、実際行って聴けよ!(笑)ということでもありますが、昨晩のウィーンフィルのニューイヤーコンサートのTVから出てくる音があまりに素晴らしかったので、この日記を初年度1発目の日記として取り上げようと思ったのです。

放映もサラウンドで放映されているのがいいですね。(というか当然です。)

我々が左右ふたつの耳で聴いている日常の現実音はサラウンドなのです。2CHじゃない、様々な方向、距離から音が聞こえてくる。ところが、その気になって注意して耳をすまさなければサラウンドしてるという感覚がない。ものすごく自然。それが理想なのだと思います。


2016年 謹賀新年 [雑感]

あけましておめでとうございます。

昨年は、拙稿にお付き合いいただき、ありがとうございました。

このブログを開設したのが、2012年末で、それから3年経ち、頻繁に投稿することはさすがに無理ですが、なんとか滞ることなく続けてこれたと思います。

当初は、海外音楽鑑賞旅行で撮影してきた現地の情報を、旅行会社のスタッフの方々にシェアしたい、という目的で始めたのですが、それが段々テリトリーが広がってきて、自分の趣味に関するものなど幅広いテーマを投稿するようになりました。(内容もマニアックで病気とも思われる投稿も多くなってきて、引かれることも多いと思い(苦笑)、申し訳ないと思っております。)

年末年始は、帰省せずに東京におりました。

大晦日の昨晩は、人生ではじめて外で過ごすという経験で、サントリーホールでのウィーン・フォルクスオーパーのジルベスターコンサートを体験してきました。年越しのカウントダウンを家の外で過ごすというのはエキサイティングでした。

ウィーンのオペラッタを上手に時間内に収まるように、そしてわかりやすいように、「ショー」として作り上げていたのは感心しました。

十分楽しめましたし、一生の思い出ですね。

今年は、まだ大きな指針を決めておりませんが、例年と変わらないと思います。
クラシックコンサート、オペラ通い、オーディオ、そしてグルメ、そのようなところくらいしか取り柄のない自分ですので、今年も趣味人として、全うしていきたいと思っております。

(もちろん生活の基本軸になる仕事は別軸で頑張ることはもちろんです。)

でも、長いスパンの人生と同じで、なにが起こるかわかりませんね。

当ブログ、本年もよろしくご愛読のほどをお願い申し上げます。

昨年末に訪れた創作フレンチのプリミエアベニューさんに造っていただいた特製お節です。

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