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スクリャービン讃 [ディスク・レビュー]

BISレーベルの録音を聴くたびにいつも思うのは、その空間表現の美しさ。他の高音質マイナーレーベルは、どちらかというと空間を確保することも大切にしているけど、特に音自体のエネルギー感というか鮮度感が高くて前に出てくるような録音が多い。

BISは、それに反して録音レベルはすごい低くくて、透明感というかクリスタルな感じな印象で、空間の構成の中に組み込まれ、溶け込んでいて、立体的な聴こえ方をする録音が多い。要は、ダイナミックレンジが広い録音と言ってしまえばそれまでなのだが。(あくまでマルチチャンネルで聴いている感想です。) 

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スクリャービン:ピアノ協奏曲、メトネル:ピアノ協奏曲第3番 スドビン、リットン&ベルゲン・フィル 



今回のBISのスクリャービンのピアノ協奏曲の新譜を聴いたときに、そのあまりに色彩感豊かで、美しい空間表現にため息が出てしまった。

ピアノの音色は締めに締め上げたという感じの線の細さでクリスタル。鍵盤のタッチの音、弦を叩くハンマーのフェルトの音がカキンと聴こえてきそうなくらいかなりソリッドなテイスト。粒立ちが煌びやかで、でも単にコロコロ転がすだけではダメで、1音1音に質量感というかタメ、沈み込みがある。(これはゴローさんが私に教えてくれたピアノのオーディオ再生の極意です。)

オケの音も弦の音色も厚みがあって、全体的にピタッと揃っている同時性、そして木管の艶やかさなど申し分ない。

それらが一体になって、空間を形成して部屋を埋め尽くす「さま」は圧巻である。

ここまで私が絶賛するのも珍しい。(笑)

拙宅の「なんちゃってサラウンド」システムでもここまで素晴らしい空間表現を提示してくれるのだから、これぞBIS録音の代表格と思ってしまうほどだ。

思うに、こういう空間表現の優れた録音というのは、やはり収録現場でのマイクのセッティング、そして録音エンジニアのリミックス作業に依存するところが大きいのではないか、と思う。

BISをはじめ、他の高音質マイナーレーベル、いやメジャーレーベルも、やっぱりクラシックの本拠地のヨーロッパのレーベルのこういうオケを収録する技術はたいしたもの、毎度のことながら、よくきちんと綺麗に録れていると本当に感心する。

我々オーディオファイルは、そのような作り手側が苦労して作った空間情報が入ったディスクの情報を万遍なく一滴も漏れなくSPから出し尽くしてやって(これが大変なのです。(^^;;)、さらにSPの位置調整、ルームアコースティックで、完全を期するということをやっているに過ぎない。

今回のBISの録音を聴いて、そんなことをしみじみと思った次第。

そんな素晴らしい録音をもとに聴くスクリャービンのピアノ協奏曲。

スクリャービンはロシアのピアニスト出身の作曲家で、たくさんのピアノ作品をはじめ、管弦楽など数多の作品を残している。いままでスクリャービンの曲は、ピアノ作品が多いこともあるが、いろいろな演奏家で聴いてきているのだが、やはり根底にロシアのロマンティシズムな旋律が流れていて、音色のパレットがすごく多彩で、聴いていてすごく優雅な気持ちにさせてくれる曲ばかり。

そういう意味で、同じロシア出身で、ピアニストでありながら偉大な作曲家であったラフマニノフに非常に似ている。

唯一違うのは、ラフマニノフは13度(鍵盤の離れる距離のことです。)以上届く巨人の手のひらの持ち主だったのに対し、スクリャービンは10度届くか届かないかの小さな手で、途中右手首を故障するアクシデントに見舞われ、左手だけでアクロバティックな柔軟な動きを体得したことで非常に敏捷なテクニックを持っていた「左手のコサック」と言われたピアニストだった。

このスクリャービンのピアノ協奏曲は、ピアノの煌びやかな旋律がすごいロマンティックで、そこにオケが合奏すると大河のような雄大なスケールの印象を受ける。実に美しくて魅力的。まさにこの曲だけでも巨匠の筆至という感がある。

今回のこの新譜では、カップリングとしてスクリャービンの兄弟弟子メトネルのピアノ協奏曲第3番が含まれている。この曲もスクリャービンに決して負けていない美しい旋律が散りばめられた作品で力強いダイナミックな曲だ。

かなり聴きごたえがある。

演奏するのが若手の俊英、エフゲニー・スドビン。

過去に何度も言っているが、やはり自分は若い演奏家で、新しい演奏、そして最新の録音技術による新しい録音が好き。クラシックの楽しみ方、価値観は人それぞれで正しいなどという基準はないが、自分は将来性を期待する、なにか見通しが広くなるような、そんな感じを受けるのが好きなのかもしれない。

オーディオオフ会でかける優秀録音のソフトがまたひとつ増えそうだ。


ピアソラ・タンゴなどのアルゼンチンものが面白い! [ディスク・レビュー]

拙宅オフ会の難しさは、招待するゲストの嗜好に応じて、かける音楽のジャンルをいろいろ考えないといけないこと。

ゲストは普段自分が聴いている音楽を基準に聴くわけだから、音がいいかなどの判断基準など、やっぱり自分のテリトリーじゃないと判断するのは難しいだろう。

なんせ、ウチはクラ専門で普段クラシックしかかけていないのに、こういうときに、いきなりジャズとかJ-POPSをかけても鳴るわけはない。(笑)そんなにオーディオは甘いものではない。

tackさんに指摘された低域の量感、解像度不足も、やはり目指す音楽性の違いというか、ジャズ特有の太い音像に、分厚いけだるく色っぽく唄う低音は、やはりSPの種類やクラシック専用にチューニングしているセッティングからは難しいものがあると思った。

オーディオオフ会って難しい。

そんな中で、3人目のお客さんのムサシさんをお迎えするときに、ぜひ披露してみたいディスクがあった。

CHANNEL CLASSICSの新譜をあさっているときに、非常に惹かれるディスクがあって、ピアソラ、タンゴなどのアルゼンチンもの。 

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ピアソラ:ブエノスアイレスの四季、ゴリホフ:ラスト・ラウンド、ヒナステラ:
弦楽オーケストラのための協奏曲 アムステルダム・シンフォニエッタ


自分は、結構このタンゴ、そしてさらにその発展形のピアソラのアルゼンチンものの音楽が大好きで、南米アルゼンチン独特の民族色の強い旋律が非常に自分に嵌るというか、聴いていてツボにくる、というか自然と体でリズムをとってしまう心地よさを感じてしまう。

ムード音楽的演奏から、マランドのように歯切れの良いリズムを重視したアルゼンチンスタイルなど様々なスタイルがあるのだが、共通するのは、やはり夕暮れどきが似合って、激しいリズムの後にくるゆったりとしたメロウな旋律が漂うようなムードがとてつもなく堪らない。

特に自分はピアソラが好き。アルゼンチンタンゴの世界に、クラシック(バッハのバロックも!)やジャズなどの音楽を融合させたアストル・ピアソラという人によって創作されたジャンルの音楽なのだが、タンゴ特有の強いビートの上にセンチメンタルなメロディを自由に展開させるという独自の音楽形態を作り出して、単に踊るためのタンゴの世界から一皮もふたかわもむけた素晴らしい音楽の世界を作り出した人だ。

ピアソラの音楽は、リベルタンゴやブエノスアイレスの四季など、絶対みなさんなら聴いたことがあるはず、というくらいの超有名曲ぞろい。

そんな世界をSACDのサラウンド音源でぜひ聴いてみたいと思い、触手が伸びたディスクなのだ。

今回のこのCHANNEL CLASSICSの新譜は、23人による演奏を基本形態とするオランダの常設弦楽オーケストラである「アルゼンチン・シンフォニエッタ」によるピアソラの演奏で、タンゴの世界のバンドネオンやアコーディオンの世界とは違って、弦楽器だけで、演奏するピアソラがたまらなく素敵だ。

特に、ブエノスアイレスの四季は、ヴァイオリン6本、ヴィオラ3本、チェロ2本、コントラバス1本という少数精鋭のアンサンブルで実現されていて、どちらかというと低弦中心という構成なのだが、聴いてみると、じつに低弦ぶりぶりという迫力で、こんなぶりぶりの音色で、ピアソラの激しいリズムとメロウな旋律が奏でられるのは、かなりイケテル感じだ。聴いていてじつにカッコイイ!

録音もダイナミックレンジが広いし、それぞれの弦楽器の弦の音色も立っていて混濁することがなく、分離されていてじつに明晰で、いい録音だと思う。

じつは、このブエノスアイレスの四季がメインなのだが、この後の5トラック目からのヒナステラ:弦楽オーケストラのための協奏曲という曲が、音楽と言うよりは、オーディオ的にじつにオイシイ音なのだ。現代音楽のような感じなのだが、大音量で高音から低音まで一気に上がったり下がったりする音の急激の変化のダイナミズムが迫力があって、これはオフ会向きの曲だなぁ、と思った。もちろん本番ではムサシさんにお聴かせした。

「アルゼンチン音楽をサラウンドで聴く」、というには持って来いの素晴らしいソフトだと思います。

このソフト以外に同じピアソラ・タンゴなどのアルゼンチン音楽のソフトとして、もう2点ほど補足で紹介。

こちらもCHANNEL CLASSICSの録音なのだが、こちらのブエノスアイレスの四季はコントラバス奏者とヴァイオリン奏者によるデュオで、録音を聴く限り、録音レベルもすごく高くて、鮮度感も高くて、先述の録音よりいいと思うくらいだ。 

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ピアソラ:ブエノスアイレスの四季、ロータ:ディヴェルティメント・コンチェルタンテ、
ファリャ:7つのスペイン民謡 ストーティン(コントラバス).



こちらはBISの録音なのだが、内容はその名の通りのタンゴ尽くしで、バンドネオンの神ピアソラの「リベルタンゴ」「ブエノスアイレスの四季」をはじめ、ガルデルの「帰郷」、ファン・カルロス・コビアンの「私の隠れ家」など充実の選曲。

前紹介2作品が、どちらかというと弦楽器主体の構成なのだが、こちらは、まさにバンドネオン主体の、まさにタンゴの世界という印象だ。 

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「タンゴフォリア」 クリスチャン・リンドベルイ、イェンス・リンドベルイ、ペンティネン.


いずれにせよ、アルゼンチンものが面白い!

武満徹 「秋庭歌一具」 伶楽舎 [ディスク・レビュー]

去年は父のご逝去のおかげで、年に4回も北海道に帰省してしまったので、年末年始は東京で1人で過ごした。幸いにも年末年始に、オーディオの友人が3人も拙宅を訪問してくれて、オーディオオフ会を楽しんだ。北海道に帰省しても、普段実家ではやることもなく、暇こいていることを考えると、こうやって趣味のオーディオで友人と緊張溢れる毎日を過ごせたことを考えると、充実していた年末年始だったといえるだろう。

その拙宅オフ会で、大切なのは、オフ会でかけるソフト選び。

常日頃、自分がこれは優秀録音だと思うソフトに出会える、そういう日頃の努力がこういうときに実を結ぶ。

SACDのサラウンド音源は、普段購入していて聴いているので、これは比較的に簡単に決まってしまう。

問題は、2.0chソフトだ。

サラウンド音源を聴いていて、その後に、2.0chソフトを聴くと、そのあまりの情報量がガクっと落ちてしまうのが悲惨で、普段2.0chソフトを聴こう、買おう、再生しようとしないでいたのが、こういうときに困ったりするものだ。

一応オフ会のマナーというか、しきたりとしては、オープニングは2.0chソフトでずっと再生していき、その後にサラウンド音源を再生するという順番が多い。

だから今回のオフ会も、冒頭にかける2.0chソフトで優秀録音なものを探すのに、時間の制約もあって苦労した。

その中で偶然というか、自分の持っている中で、ずっと前から2.0ソフトとしては自分的には非常にいい録音だと思っていたのが、これ。




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武満徹 『秋庭歌一具』伶楽舎 

(すみません、これはハイブリッドでないので、通常のCDプレーヤーでは再生できないようです。
 通常のCD盤もあります。)

 
武満さんの曲は、和楽器の導入などによって、いわゆる聴いていて、バキバキ感というか、ゾクっと来るような恐怖感を聴いている者に与えるような、そんな雰囲気を出すように再生するのがオーディオ的なツボ。

武満さんの曲は音色の数が少ない割に、音の立ち上がりなどが急峻で、非常に鋭利な感覚が特徴。

録音レベルがかなり小さいので、相当ボリュームを上げる必要があるのだが、特に和太鼓のスコーンと鳴る音が拙宅のマンション環境で響くらしく年末から今日にかけて、なんとこのソフトをかけるだけで、4回も大家さんから注意を受けてしまった!(赤信号(>_<))

このソフトの驚きなのは、2.0ソフトの割に、再生される空間がすごい広いことだ。

和太鼓のスコーンとなる音から、他の和楽器のボロンという音色などが、両スピーカーの周りの空間のいろいろなところからポッポッと現れて、聴こえてくるのがじつに不思議。このような音の出方をするソフトを聴いたのははじめて。こういう音を出方をするということは、じつに空間がよく録音されていて、再生空間においても、その空間が十二分に再生できているからだと思う。(自慢?(笑))

音(音像)がじつにピンと立っていて、すごく尖っていて、オーディオファンの心をつかむような優秀録音だ。音像定位の確認にもいいソフトかも。

やはり自分は、2.0ch再生においても空間を感じれるような立体的に音が鳴る録音が好きだ。

オンマイクな平面的なサウンドにあまり魅力を感じない。

BISの新譜:ヴェネチアのクリスマス [ディスク・レビュー]

BISレーベルは、1973年、ロベルト・フォン・バールによってスウェーデンのアケルスベルガに設立されたクラシック音楽中心のレコードレーベル。とくに北欧系の作曲家や演奏家の発掘や紹介に力を入れている。

日本では、キングレコード傘下のキングインターナショナルがライセンス契約を行い、輸入~販売代理をしている。

PENTATONEと並んで、私にとって双璧をなす高音質指向型レーベルである。

優秀録音であるソフトは、オーディオにとってガソリンみたいなもので、どんなに高級オーディオ機器を揃えても、かけるソフトが良くないとその真価を発揮しない。

膨大なライブラリーの中から優秀録音を探し出す、というのは、豊かなオーディオライフを過ごす上でも必要不可欠な才能だろう。オーディオオフ会などで、仲間同士、自分の自慢のディスクを情報交換するのは、とてもいいことだと思う。やっぱりオーディオマニアって、録音のいいソフトを発見すると、お宝みたいに嬉しくなってしまうもの。そういう情報って限りなく有難いし嬉しい。

毎月発売される新譜の中で優秀録音に巡り合うのは、なかなか難しい。結構外れもあって、お財布事情が限られている一般人にとっては大変だと実感している。

そんな中で、今回このBISレーベルからの新譜のこのディスク。
このレーベルを聴き始めて、ここ2~3年の中で最も素晴らしい録音だと思えるような1枚に出会えた!その最初の出音を聴いたときの衝撃は、うわっこれは美しい!という感じ。

『ヴェネチアのクリスマス~ヴィヴァルディ、ハッセ、ペロッティ、トレッリ』 アルテ・デイ・スオナトーリ 

 
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BISの録音に対するいままでの自分の印象は、全体的に録音レベルが小さいが、ダイナミックレンジが広いが故であり、オフマイク録音による空間の捉え方がうまく、見事な空間表現を提示してくれる、というそんなイメージであった。

ところが今回の作品は、録音レベルが非常に大きくて、音が張り出してくる感覚。鮮度感も抜群なのだが、
Channel Classicsのソフトのような人工的なところがなくて、透明感があり抜群に美しい。澄んでいる空気感がある。

SPからの出音がふっとステージが浮かび上がるように部屋中に広がる感覚で、まさに優秀録音の代表的な音の出方なのだ。

いままでのBISの録音とはまったく違うテイストなので、正直面食らった。

もちろんダイナミックレンジも広くて、なんかこう奥行感も十分で、広い空間の中で鳴っている立体感が感じられてじつに秀逸。バロック音楽なのであるが(エム5さんの今日の日記で、苦手とあってショック。(笑))、ピリオドの弦楽器のノンビブラートな響きでも残像感がすごい長くて綺麗だし、ソプラノの声なんて実音の芯がしっかりしていて、それに対する響きも、長いとはいえ時間差遅れも程よく人間の耳に1番心地よいと感じる直接音と響きとのバランスではないか、と思えるくらいだ。

やはりサウンド全体に透明感がある、それでいて張り出してくるような音圧の大きさ、そしてステージ感というのが1番の特徴のように思える。

この作品では、弦を指や烏の羽ではじいて演奏する擦弦楽器プサルテリーの演奏がされていて、この楽器は14世紀から15世紀に愛用されており、机や膝の上に置いたり首から紐でつるしたりと奏法など多種多用で、とても興味深い。おそらくこれがその音色なんだろうと思える箇所があるが、じつに美しく録れている。

今回のこのアルバムは、1993年設立のポーランドのピリオド楽器団体「アルテ・デイ・スオナトーリ」による演奏で、ヴィヴァルディと同時代に生きたハッセ、ペロッティ、トレッリのいずれもイタリアの作曲家による作品集を集めたコンセプチュアルな作品。

『ヴェネチアのクリスマス』というタイトルがついていて、煌びやかな作品ばかりが集められ、本当に聴いていて癒されるというか素晴らしい作品だ。

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ソプラノのルビー・ヒューズ

いままでのBIS作品の中で、1番インパクトのある録音と言ったが、いや、ひょっとすると今年聴いた中で、という表現の方がいいかもしれない。

ぜひエム5さんに聴いてもらいたい作品である。(笑)

今回の録音スタッフは、プロデューサーにハンス・キプファー、音声エンジニアにインゴ・パトリーが担当している。ハンス・キプファーという人は、それこそ、自分がずっとBISを聴いてきたアルバムの大半は、この人がクレジットされている。
BISのサウンド作りのキーマンなのだと思う。

以下の記述は、BISのクラシック録音についての技術を記載しているサイト(synthax
Japanのサイトで、BISが録音・編集機材であるMADIやRMEという商品を納入していることから、そのBISクラシック録音について紹介があったもの)が出典で、著作権の2次使用になるが、もう少し要約してかいつまんで書いてみる。

BISファンにとっては、大変興味深い。特に念願であったBISのマスタリング編集スタジオの写真が掲載されていた。これはもうお宝もの!!




スウェーデンのレーベル「BIS」は現在世界中の国々を飛び回ってレコーディングを行っている。今日では500kgもの機材を飛行機に載せ、シンガポール、サンパウロ、英国の田舎町の教会、神戸の学生チャペル、ラハティの木製シベリウスホールなどを飛び廻っている。

BIS は様々な顔を持つレーベル。名高い古楽のレーベル(Emma Kirkby、Dan Laurin、Bach Collegium Japan、London Baroqueなど)であると同時に、ライブコンテンポラリーミュージックのレーベル(Kalevi Aho Sally Beamish、James MacMillanなど)、また優秀なスカンジナビア音楽レーベルでもある。

BISは2003年までに5チャンネルサラウンドのレコーディングを数点しかリリースしていなかったのであるが、CEOであるロベルト・フォン・バールは、BISが今後音楽業界での重要な地位を維持していくためには、この新しいフォーマットを採用していくことが不可欠であることに気がつきSACD5.0chフォーマットを採用をスタートさせた。

年間60タイトル以上(ほとんどがオーケストラを含む)のCDやSACDを、フルタイムのトーンマスター/プロデューサー6名とパートタイム6名のスタッフだけで作っている。(過去には年間90のレコーディングを行ったこともあるらしい!)BISは他の会社とは違って、マルチトラックレコーディングに頼ることは許されない。どのようなクラシック音楽であっても現場でミックスを作れることが必要で、オーケストラでは2名、室内楽では1名のプロフェッショナルで実現させる必要があるらしい。

BISにとって最も重要なのは、クオリティーの面でも手に入れられる最高のプロフェッショナル機材を使用して、32~40本のマイクを完全にリミックスすること。それは、新しい5チャンネルフォーマットの音質を向上させるだけでなく、一般的なステレオCDにおいて最も自然なサウンドを収録するためにも重要であった。編集されたマルチトラックをアーカイブすることが、今後の新しいフォーマットにおいてリミックスできることにも繋がるからだ。

BISは2004年にコンピュータベースの録音システムを導入に踏み切った。

MADIフォーマットというものであるが、モバイルレコーディングを行うには当時のMADI機材は価格が高く、大きく重すぎるという問題点があった。そこで、この問題を解決したRMEのハードウェアとSequoia/Samplitudeソフトウェアを組み合わせることで理想的なレコーディング/編集システムを構築したのだ。

各オーケストラのレコーディングは音楽教育を受けたトーンマイスター(プロデューサー、エンジニア)の2名が行うが、現場においてできる限りのミキシング作業を行いたいというのがBISの意向だそうだ。よって通常は2台の内の1台のコンピューターにポストフェーダー録音を行い、このバージョンをポスプロとする。これによって、編集後に5チャンネルミックスとステレオミックスを制作と両バージョンのダイナミック調節することができ、作業時間を大幅に短縮できることになる。

そして、この写真がスウェーデンのアケルスベルガにあるBISレーベルのマスタリング編集スタジオ:Studio3
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おそらくB&W N802を5本。SPの下に台座のようなもので高さを稼いでいるのがわかる。他のヨーロッパのレーベルのサラウンドルームもみんなこのようにしていますよね。天井のあの形は、音響上意図的なものなのでしょうか?
いやぁ大のBISファンとしては、もう大感動!

原文のサイトはこちら。(synthax Japan)

http://www.synthax.jp/usr_bis.html

Channel Classicsの新譜:人の声~ブラームス ミサ曲&モテット集 [ディスク・レビュー]

Channel Classicsはオランダのレーベルでジャレッド・サックスというもとはフレンチホルン奏者だった人が創設したレーベル。

いろいろ趣味でやっていた録音を本職にしてしまったということらしい。1990年から始めたレーベルで結構歴史があって、いまでは多数の国のアーティストと仕事をしている。

2000年ころからSACDをリリースしていて、いまはすっかり高音質指向型レーベルというイメージが定着したようだ。

看板アーティストにイヴァン・フィッシャー&ブタペスト祝祭管弦楽団と、女性ヴァイオリン奏者のレイチェル・ポジャーがいる。クラシックが専門であるが、タンゴやブラジル音楽を始め、結構守備範囲が広い。

自分の印象は、鮮度感というかエネルギー感溢れるサウンドで、聴いたら一発でわかる、という特徴的なサウンド。

でもじつは結構当たり外れがあって、お財布に限界がある一般人の自分にとっては、その新譜の選び方が難しいと感じるレーベルでもある。

最近もイヴァン・フィッシャー&ブタペスト祝管のブルックナーを購入したのだが、低音がスカスカで、ブルックナーで低域が入っていないのは、聴いていてかなりツラいものがあった。(苦笑)ヴァント盤を再生して、あぁぁ〜やっぱり低音が入っている〜と安心する始末。

でも逆に楽曲の良さや録音のよいものも多く、完成度の高い作品も多いので、本当に難しいレーベルなのだ、自分にとって。

その中で、思い切って新譜4枚を購入。
今回テーマに取り上げる新譜はとりわけ素晴らしかった。

ダイクストラ&スウェーデン放送合唱団によるブラームスのカノン・ミサとモテット集。 

 
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モテットというのは自分にとってあまり馴染みのない音楽だったのであるが、ライプツィヒの旅行でバッハのモテットを猛勉強して、その芸術性がわかるようになった。

ブラームスのミサ曲&モテット集ということで、バッハの明るい階調の曲とは、ちょっと趣が違って、もう少しモノトーン気味でレクイエムを少し明るくしたようなイメージ。

じつは、購入当時、マルチチャンネル機器が故障でドッグ入りしていたので、2chで聴いていたのであるが、最初の印象はパッとしなかった。でも故障から帰ってきてマルチチャンネルで聴いてみると、前方のステージ感がぐっと広がって、ア・カペラによる人の声だけで周囲を包囲されるその感覚は、じつに素晴らしくて目(耳?)からウロコが落ちる感じであった。

モノトーン調の旋律もじつに美しいと思えるようになった。

そうやって何回も聴きこんで大好きなディスクになっていった。

自分はオペラ歌手などの声楽が大好きなので、1人の歌手からの発声も酔えるのだが、でもこういうア・カペラのような合唱団による何重にも重なり合った声のハーモニーもじつに美しくて心が洗われるようだ。人の声による音の厚みだったり色合いがじつに耳触りがイイ。

澄み切った空気のなかにナチュラルな音像が浮かぶ良い録音だと思う。

人の声で紡がれる音楽って素敵だと思う。

やっぱりア・カペラってサラウンドで聴くと尚一層効果抜群だなぁ、と感じる。
(でもこれはサラウンドに比べてガクッと落ちてしまう自分の2ch再生能力にも問題がありますが。(^^;;
2ch再生をしっかりされているお宅ではきちんとその素晴らしさは体験できる、と思います。)

今回の役者たちは、オランダの合唱界の若き巨匠ピーター・ダイクストラと、北欧のスウェーデン放送合唱団。

彼らをオーディオで聴くのは、じつは初めてで、前作が「ノルディック・サウンズ2」という北欧プログラムだそうで、これもぜひ聴いてみたくなった。今回が、そこからのブラームスというドイツ・ロマン派へのイメチェンだが、前作を聴いていないけれど、じつに守備範囲が広い素晴らしい合唱団のように思える。

録音スタッフは、プロデューサー&録音エンジニアはジャレッド・サックス、そして編集・マスタリングもこの人がやっている。

ジャレッド・サックスは既述のようにこのレーベルの創始者で、フィリップスのOBで諏訪内晶子さんのデビュー録音からフィリップス・レーベルでリリースされたアルバムをずっと担当してきたオランダ人のプロデューサーであるハイン・デッカーという人とずっとコンビを組んで、このChannel Classicsレーベルで、イヴァン・フィッシャー&ブタペスト祝管のシリーズ
録音をいっしょにやってきた人だ。(ゴローさん情報です。(^^;;)

そこで、今回は、すべてジャレッド1人での制作ということで、その録音の素晴らしさ、称賛である。

他の録音のクレジットを全部確認した訳ではないけれど、たぶんほとんどのアルバムはジャレッドが関わっているのだろう!

Channel Classicsレーベルのマスタリング編集ルームの写真は観たことがないのだが、クレジットによると、

SPは、B&W 803Dを5本。そしてPWR AMPがCLASSE 5200!

くぅぅぅ〜、やはりこのレーベルもB&WとCLASSEの王道の組み合わせかぁぁ〜(笑)
クラシックの分野で、ヨーロッパのレーベルで使用されるオーディオ機器と
しては、このコンビがひとつのモニターというかリファレンスになっていますね。

なにはともあれ、これは声楽好き、合唱好きな方には、ぜひお勧めのディスクです!

ECMレコードのクラシック録音 [ディスク・レビュー]

ECMレコードというのは、元々ジャズの録音をメインとしたレーベルで、SACDもやっていないことから、自分にとっては縁遠いイメージを持っていたのだが、じつはECMもクラシック録音をやっていて、それを2枚ほど聴いてみたら、それがあまりに優秀録音で驚いてしまった。

2chとは思えないほどのダイナミックレンジの広さ、音質的にソリッドで鋭利な寒色系な音色で、とても美音極まる。

このレーベルはユニバーサル・ミュージックの傘下にあるようで、ミュンヘンに拠点を持つ。

ジャズ録音がメインなのだが、1984年にECM New Seriesと称して、現代音楽、バロック音楽などの録音も始めるようになった。このジャンルが、彼らのECMレーベルのクラシック録音ということのようだ。

このレーベルの音作りのコンセプトとして「沈黙の次に美しい音」という表現を彼らはしている。わずかにリバーブのかかった音作りをしているそうで(これが聴く人によって賛否両論らしい。)、このレーベル独特の空気感を生み出している。

確かに聴いてみると、コンセプトの表現はうまく表現されているな、と感じるところで、特に現代音楽のタイトルを聴くと、静謐の中で鋭利な音が鳴り響く感じは、まさに尖っている感じで、すごく美しい。

ECMの特徴にその美しいジャケットデザインもある。これもどこか寒色系なシルエットで、じつにお洒落だ。試にHMVサイトのECMレーベルのところを検索してみて、彼らの一連の作品のジャケットを眺めてほしい。どれも統一のコンセプトのシルエットであることがわかるだろう。

レーベル全体が統一感をもって企画されているため、レーベル自体が固定ファンを獲得している。日本ではあまり著名とはいえないアーティストが多く所属していて、キース・ジャレットはこのレーベル随一の人気を誇るアーティストである。クラシック部門では有名どころと言えばアンドラーシュ・シフが所属している。

このように調べてみると、このECMというレーベル、じつに普通のレーベルとは少し違う、こだわりのあるポリシーを持っていて、ジャケット、そしてサウンドともにじつにカッコいい。自分の心の琴線に触れるレーベルと直感した。

ECMにクラシック録音があると知った以上、少しこのレーベルの作品を集めてみたく (いままでキースジャレットのジャズアルバム以外ほとんど持っていなかった。)、今日聴いた2作品の他、さらに5タイトルほど注文してしまった。(笑)

さっそく今日聴いた2作品を紹介してみよう。
 
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室内楽と歌曲集 バティアシヴィリ、フェルナー、エイドリアン・ブレンデル、フレストン、他 



現代イギリス音楽界を牽引する作曲家の一人、ハリソン・バートウィッスルの80歳を記念しての、室内楽と歌曲の録音。

今年の5月に発売された最新作。
まさに現代音楽そのものの作品。Vnにリサ・バティアシュヴィリ、チェロにアルフレード・ブレンデルの息子のエイドリアン・ブレンデルが参加している。

これを聴いたとき、まさに現代音楽なのだが、2chとは思えないほど空間が広くて、音圧も大きい。

この作品が、ECMのクラシック録音の初体験だったので、聴いた途端、これはイイ!と思わず私の心を鷲掴み状態。(笑)

音楽的には、かなり危険というか理解不能領域なのだが、音を聴いているだけで、もうスゴイ快感なのだ。オーディオ仲間のみなさんであれば、この心境、きっと理解いただけるであろう。(笑)

後述に紹介するディスクよりもこちらのほうがインパクトが強い。
ピアノなんて、なんかこうタメがあるというか、沈み込みが秀逸というか、じつに美しい。

響きの空間に漂う余韻も美しい。たぶんリバーブがかかっているようにも思うし、音色・響きが綺麗で空間が広く感じるのはこのリバーブ効果なのかもしれないが、自分的には違和感はないし、聴く分には心地よい。

2chでここまで空間表現が優れている、というのはある意味驚きだった。

これで私はいっぺんにECM録音のファンになってしまった。


 
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室内楽作品集~シューマン:6つのカノン風小品、3つのロマンス、ホリガー:ロマンセンドレス、他 ホリガー、ルージンガー、ケルニャック


こちらも今年の6月に発売された最新作だ。
オーボエの名手であると同時に、作曲家で指揮者でもあるハインツ・ホリガーがオーボエを吹いて、気の合う仲間と演奏した室内楽アルバム。

こちらは音だけでなく音楽自体も、じつに聴きやすい旋律でいい曲が集まっている。

普通の音楽ファンの方であれば、こちらのほうがいいだろう。

ホリガーのオーボエの音色がちょっと自分的感覚ではプラスティック的というかカチカチな感じがして、生演奏で聴くオーボエってもっと柔らかい音色だよなぁ、というのはある。真の音色なのかわからないが、加工し過ぎではないか、という感じもする。

でもピアノは相変わらず美しい。やっぱりこちらも2chとは思えない空間の広さが魅力的。音楽的にも録音的にもトータル的にバランスの取れた録音だと思う。(でも中に挿入されている現代音楽のパートはすごいインパクトなのです。(笑)なんか現代音楽の方が録音の凄さがよくわかりますね。)

普段サラウンドばかり聴いていると、その情報量の多さに耳が慣れてしまい、2ch再生を聴くとその落差にがっかりしてしまう。だから普段から2chソフトをあまり買わないようになってしまうし、2chソフトで優秀録音を探すのが不得手になってしまう。

でも世の中2chソフトの方が圧倒的だし、そういう意味で、今回のECM録音の発見は最高にうれしい。

2chでこれだけダイナミックレンジの広い録音というのはなかなかお目にかかったことがなく、今後2chソフトを聴く楽しみが増えたと思える。なんせうちの貧弱な2ch再生システムでこれだけ鳴るんですから。(笑)

普通のレーベルと違って、斜に構えているというか、こだわり抜いた感じのあるスタンスがとても魅力的で、自分好みのレーベルだと思う。


PENTATONEの新譜:ユリア・フィッシャーの復活! [ディスク・レビュー]

ここまで来るとPENTATONEの回し者というか、PENTATONEの私設応援団長(笑)という趣だが、これからも遠慮なくいかせてもらう。

最近、このレーベルのニュー看板娘のアラベラ・美歩・シュタインバッハーばかり取り上げてプッシュしているが、元祖・看板娘は間違いなくこのユリア・フィッシャー。

2008年にDECCAに移籍していて、でもPENTATONEからもアルバムを出すという二束のわらじ。

以前日記にも取り上げたが、DECCAの録音スタッフは、ユリアの魅力、音色をうまくプロデュースできていないように感じる。DECCAでの彼女の録音は、どうも地味系に感じて、なんとなく弛緩的、セールス的基盤が安定しているメジャーレーベルの大きな器の中に埋もれているような感覚があって、PENTATONE時代の張りつめたエネルギー感溢れる尖った感覚というのが影を潜めているような感じを受ける。

レーベルが変わるだけで、つまり彼女のプロデュース次第でこんなにイメージが変わってしまうのは恐ろしい。PENTATONE時代の彼女のイメージでDECCAの録音を聴くと、かなりがっかりするのではないだろうか?

DECCAでの彼女のセールスは素晴らしいものがあるみたいだが、録音を聴く限り、あくまで自分的には張りつめた緊張感というのをあまり感じなくて自分の好みではない。

そんな彼女の久しぶりのPENTATONEでの復活! 
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ヴァイオリンとピアノのための作品全集 ユリア・フィッシャー、ヘルムヘン(2SACD) 


正直うれしい。

シューベルトの作品。2枚組のSACD。
録音は2009年というから、要は最近彼女が録ったものというよりは、過去に録ってあったものを、録音編集スタッフによって蘇らせて世に送った作品というのが正しいのかもしれない。

そういう意味では真の復活ではないのかもしれない。

録音場所は、定番のオランダ、ファルテルモント。

シューベルトのヴァイオリンとピアノの作品なのだが、改めて聴くとなんと素敵な旋律の散りばめられた作品集なのだろう、と思う。中にはよく聴いたことのある有名な曲もあって作品の完成度としては非常に高いと思う。とても癒される。

室内楽ならではの彼女のきめ細やかなフレージングのニュアンスなどそのテクニックも相変わらず秀逸だ。

プロデューサーにジョブ・マールセ、バランス・エンジニアにジャン・マリー・ゲーセンとあるから、アラベラのアルバムと全く同じ。編集がセバスチャン・ステインという人で、アラベラのときはエルド・グロードなので、ここが違うぐらい。

やっぱり不思議で、音空間の佇まい、音色など、似ている。ユリアの録音と言えば、あのモーツァルトのVn協奏曲集のように、超ド派手で部屋中に音が回るようなスゴイ音空間のイメージが強いので、それと比べると、今回の作品はヴァイオリンとピアノだけの作品ということもあり、静寂の中の美しい調べの数々という風情で、彼女のこういう世界観もいいな、と感じる。

ピアノのパートナーは、このレーベルで長きに渡り共演しているマーティン・ヘルムヘン。抜群のコンビネーション・掛け合いで素晴らしい。じつはこのディスクを聴いて思うのは、ピアノの音色が綺麗だな、と思うこと。

ユリアのVnの音色は、過去の作品に比べると、ずいぶんと落ち着いた、乾燥質に聴こえるけれど(たぶん編集・味付けの違いだろうか。)、でも音色の潤い感というか響きの豊潤さ、そしてその色艶感は、やはりアラベラの音色より、ライブな響きに聴こえる。

ユリアもアラベラも録音編集スタッフがほぼ変わらないので、ヴァイオリンの楽器の違いかもしれない。クレジットはないのだが、彼女の楽器は、いまの現代ヴァイオリン製作者フィリップ・アウグスティンの2011製と思われる。

ユリアと言えば、ご存じのようにヴァイオリンだけでなく、ピアノも万能の才女。じつはこのアルバムで、最後の作品でピアノの披露している。じつに秀逸な録音で、ユリアの久しぶりの新譜を聴けてうれしかった。

今度は、真の意味で新しく録音にチャレンジした作品を期待したい。

PENTATONEレーベルは、その名前の通り ペンタ→5 トーン→音ということで5chサラウンド録音をレーベルのアイデンティティとしている。(自分はここにこだわりがある。)

また小さい会社ながら ちゃんと独立のレーベルとして世界的にみとめられ着実にレパートリーを拡充していることは、じつに素晴らしいこと。聴いたところによると、この13年にリリースしたディスクを彼らは一つたりとも廃盤にしていない。

彼らの毎年の年間リリース計画を見ると、アーティストの特性や営業めども考えながら、実に巧みにこれまでリリースした楽曲とだぶらないように構成されていて舌をまく。そして常に新鮮な新しい若い演奏家をどんどん起用していきレーベルの看板に添えていくその姿勢。

これからも自分は、このレーベルにはこだわっていきたい、と思う。


イザベル・ファウストのシングルレイヤーSACDを聴く。 [ディスク・レビュー]

音楽ファンやオーディオマニアの中でも評価の高い演奏家であるイザベル・ ファウスト。
そしてシングルレイヤーSACD。


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世の中の流れからずいぶんと遅れている(笑)自分にとって、いまようやく両方とも初体験となった。でもイザベル・ファウストの生演奏はじつはすでに経験済み。今年の6月に東京芸術劇場で彼女のVnソナタを聴いた。

大変失礼な表現ではあるが、その感想は正直がっかりだった。(したがって日記も書かなかった。)

VnとPfだけのソナタに芸劇は広すぎの感があり、自分が座った座席からは絶対音量が足りなく、かなり欲求不満。その中でも、Vnの音量がPfに遥かに負けている感じでバランスが悪かったような覚えがある。またVnの音色も、どちらかというと寒色系でドライな音色に聴こえた。

なによりもがっかりだったのは、その演奏する姿勢の悪さであった。前かがみの感じで、抑揚によっては、その体をよじったりする感じなのだが、正直美しくない。観ていて映えるVn演奏家というのは、背筋がピンとしていて、そのボーイングなどの立ち振る舞い、弾く姿は美しく絵になるものだ。

そんな感じで、これが噂のイザベル・ファウストかぁ?という感じでショックで立ち直れなかったのを覚えている。

でも彼女のアルバムは、巷では非常に高い評価を得ていて、すぐに完売という状態が続いて、相変わらずの超人気ぶり。そこで自分もチャレンジしてみた。

じつはただのCDではなく、限定販売ですぐに完売・廃盤になったシングルレイヤーSACDのほうを購入してみた。自分にとって、シングルレイヤーSACDというのも初体験なのである。

こちらである。


 
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J.S.バッハ :
無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ BWV 1001-1006 (全曲)(2SACD)


私が購入した時は、中古のマーケットプレイスだったと思うが、そのときでも1万円以上はした記憶がある。現在は、もちろんマーケットプレイスのみの扱い(でも新品)なんと4万円弱にも跳ね上がっている。

シングルレイヤーSACDはハイブリッドSACDよりも音が抜群にいい、ということだが、なにぶんにもその価格帯の高さに引いてしまう、ところがある。やはり普及価格帯ディスクとは言えず、高音質路線の限定販売のみ、という扱いが多いだろう、今後も。

さっそくそのシングルレイヤーSACDというのを初体験する。

トレイに載せて聴こえてくるそのサウンドは、確かに音数が多くて解像度が高いことがすぐにわかった。聴き比べをしていないので、比較してどうのこうのでなくて、絶対的にそう思っただけである。

解像度の高さは、たとえばVnの音色の漂う空気感や音色の消え行くさまが非常によくわかり、音の粒子の細やかさみたいなディテールまでよく聴こえる感じがするからである。

ベルリンのテレデックス・スタジオでのセッション録音なのであるが、とてもスタジオでの録音とは思えないくらい、空間の広さが認識できて、ライブな響きなので驚く。その広い空間を活かした圧倒的な空間表現力、そしてヴァイオリンの音色自体が少し柔らかい質感で、どこかしら木質感を想像する音色で、空間たっぷりに響く。この音色は結構独特な感じがして、あまり他のヴァイオリニストでは聴かない。

その音色を奏でている彼女の名器は、ストラデヴァリウスの「スリーピング・ビューティ」(1704年製)。

テレデックス・スタジオ・ベルリンは、もうこれはベルリンの中では、1位を競うくらい有名な録音スタジオだし、冊子の中に、そのスタジオ風景の写真が掲載されていたので、興味深く拝見した。


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かなり広い。とてもスタジオとは思えないくらい。これくらいの広さがあるなら、録音を聴いたときの空間の広さも確かに再現できるだろうな、と感じた。

今回のこのシングルレイヤーSACDは、じつは日本でのマスタリングなのである。

マスター収録は、ハルモニア・ムンディなのだが、角田郁雄さんが、このレーベルでのCDでの優秀録音、名盤をSACD化する、という企画を提案してきていて、キングインターナショナルから要望に応じて、ちょうどファウストがバッハの無伴奏Vnソナタ&パルティータ全曲を日本で公演した年(2011年銀座王子ホール:この公演で彼女の日本での知名度が一気に上がった。)でもあって、ファウストのこのCDを聴いて、ぜひこれをSACD化したい、と思ったのだそうである。

この角田さんとキング関口台スタジオのマスタリングエンジニア、安藤明さんの協力を得て、このマスタリングは行われたのである。テレデックス・スタジオ・ベルリンから送られてきたデジタルマスターには、一切イコライジングを行わず、ピュアなDSDトランスファーを行っている。

dCS社のD/AコンバーターdCS954とA/DコンバーターdCS904を直結してDSD変換が行われている。

いま現在は、この日本でマスタリングされたシングルレイヤーSACDは廃盤になっているようだ。

まぁ私としても、このディスクを聴いて、シングルレイヤーSACDの音質の良さというのを自分の耳で確認できたし、この盤が優秀録音である、ことも理解できる。(Vnの音色が太くて柔らかい質感であることに少し違和感はあるが。)

そしてファウストの演奏のほうであるが、外観のイメージ通りでいかにも求道者的な端正な演奏に驚く。

いわゆる脳を刺激するような高音ヴィブラート、G線の唸りといったようなヴァイオリンの官能的要素を主張するような演奏とはちょっと趣が違っていて、どこかしらもっと抑制の効いた、どこか冷たいというか、寒色系の演奏という印象を抱く。
そのような中にも正確無比な精緻な弓さばき、指使いなどが感じ取れる。

そういう意味で、自分が芸劇で最初に聴いた彼女の音色のトーンと同じものを今回も感じた。

でもはっきり言えることは、芸劇で聴いた彼女に対する失望に比べて、今回のシングルレイヤーSACDを聴いたときの彼女への印象は、恐ろしく改善された。巷での彼女への高評価もあながちウソではない、というか理解できるような気がした。

惜しむらくは、もう1回、彼女の生演奏を聴いて(今度はホールの容積などももっと好条件下で。)、イメージ挽回というか、もう1度リベンジさせてほしい、と思うことである。



ガランチャの魅力 [ディスク・レビュー]

オペラ歌手のCDというのは、自分が出演しているオペラ全曲か、あるいは歌曲集という2通りがパターンなのだろう、と思う。歌曲集もシューベルトやR.シュトラウスものがスタンダード。

自分はオペラを観に行くのは、なかなか敷居が高くて、やっぱり観劇自体にすごい体力がいること、これが大きな理由でもある。演目の筋書きの予習や、聴きどころのアリアの予習、BD/DVDなどの映像素材での予習、そして音楽CDでも。仕事で忙しい毎日を送っていると、これだけの準備をするのは正直厳しい。

だから必然と、ヨーロッパ旅行のときと松本のサイトウキネンのときに、必ずオペラを入れるので、年間にオペラを観るなんて、このときぐらいしかないのかもしれない。

オペラというのは、演出、舞台芸術、衣装、そして歌手たちの声質、声量、そして演技などいろいろな評価パラメータがあってそれの総合芸術で評価、成り立っているものだと思っている。でも自分は、その中でもオペラ歌手の歌声がすごく好きだ。他の評価パラメータを後回しにして、まず好きな歌手の声に酔っている、ところがある。(笑)

だから、配役で仮装して歌っている姿よりも、現代衣装の素の姿で歌っているリサイタルのほうが好きなのだ。

最近では、東京オペラシティでのバルバラ・フリットリのリサイタルがすごくよかった。

なので、必然的に、オペラ歌手のCDもオペラの有名アリアのみを抜粋したものや、歌曲集などを専門に聴いている。
オペラ全曲は、通常のオペラだと全幕の長い期間の中で、音楽的に山谷があるのが普通なので、有名なアリアに辿りつくまで、その谷の部分をずっと聴いているのはツライのだ。

そこでガランチャ。


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偶然FBの彼女のページが自分のタイムラインに流れてきて知った新譜。

彼女はDG専属なので、いつも高音質マイナーレーベルばかり聴いている自分にとって、DGの王道たるメジャーレーベルの音も久しぶりに聴いてみたい、と思い、ついポチッてしまった。ジャケットも洗練されていて、素晴らしそうだ。

そのアルバムコンセプト自体が、じつに素晴らしいのだ!

タイトルが、「Meditation(メディテーション)」。つまり直和訳すると「瞑想、黙想」 
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『メディテーション』 ガランチャ、チチョン&ドイツ放送フィル、ラトヴィア放送合唱団


アヴェ・マリアやサンクトゥスなど宗教的なナンバー中心に歌い上げたじつに心やすらぐアルバム。

特にマスカーニのオペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』の教会の場面なども取り上げられていて、まさにオペラ歌手ならではの好企画。この曲がじつに美しい。その他のナンバーもクリスマス向けの美しい作品がずらっと並ぶ。

自分にとって、オペラ歌手に期待するアルバムというのは、まさにこのようなコンセプトのもの!

その歌手の声が十分に楽しめて、親しみやすい旋律の曲が散りばめられているこのセンスの良さ。なんと聴きやすい、心やすらぐアルバムなのだろう、と思う。

録音もいい。王道たるDG録音。声ものの録音にありがちな、ややエコーをかける化粧も薄らかけているように思える。

オペラハウスでは、舞台上の歌手に弱い「エコー」が返ることが望ましい、と考えられている。つまりオペラハウスでは、ソロの歌手は自分の声で「ホールを満たしている」ように聴こえることを特に望んでおり、そのために適度な音の返りを必要としているからだ。

今回の録音は、ザールブリュッケン放送スタジオということであるから、このエコー処理も人工的な処理なのだろう。
でもじつにこのエコー効果が、じつに聴いていて気持ちイイ。

いままで聴いてきたガランチャのメゾの声音域とは少しオクターブ上の超高音域に挑戦しているようにも聴こえる。ガランチャの声は耳触りのいいクセのない真っ当な美声だと思うし、そんな声の魅力が十分に引き出されている珠玉の作品集なのではないだろうか?

自分もそんなにガランチャばかりを追ってきた訳ではないけれど、正統派美人だし、大好きな歌手である。ラトヴィア出身で、今回のアルバムもラトヴィア出身の作曲家によるアレンジがあったり、ラトヴィア放送合唱団のサポートもあったりで、全面的に彼女色を打ち出している。

ガランチャと言えば、自分にとっては、ビゼーのカルメンかなぁ、と思う。この演目では、2010年あたりに、彼女は数多くの劇場で出演しているが、自分はメトロポリタン歌劇場のものをNHKで放映されたのを録画して観たのだが、じつに当たり役、という感じであった。

あと2010年にドゥダメルが指揮するベルリンフィルのジルベスターコンサートのときも彼女が出演していて、黒のドレスがシックで決まっていて、じつに美人だなぁ、と思いながら、その美声を堪能した記憶がある。そのときもカルメンをメインで歌っていたよなぁ。

とにかくオペラ歌手がこういうコンセプチャルなアルバムを作ってくれるのが、自分にとって最高にうれしい。

最近のダウンロード&携帯音楽プレーヤー時代の世にあって、自分は、「やっぱり音楽はスピーカーから聴こうよ!」という考えの人なのだが、今回のアルバムでは不詳にもiPodに入れて、朝夕の通勤時間帯にも聴いている。

それだけ聴いていてじつに美しいアルバムなのだ。


PENTATONEの新譜:児玉麻里のベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集 [ディスク・レビュー]

2003年からスタートした児玉麻里さんのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は、mixiに入会する前、つまりPENTATONEというレーベルを全く意識していなかった頃から、その存在は知っていた。自分は1990年後半にオーディオを始めて、1999年にSACDのフォーマットが世に出たときに、ハードは世の中に出回るのだけれど、それに呼応するだけのソフトが十分に出回っていない、というそんな印象の時代であった。

ゴローさんから聴いた話なのだが、SACDフォーマット公表前に、ソニーの人がフラグシップ初代機のSCD-1を持ってゴロー調布邸に伺ったそうなのだが、その音を聴いて、思わず「さっさと帰ってください。」という感じだったそうだ。(苦笑)

そのとき、そのハードを活かすだけの十分なSACDソフト、しかも録音する側のSACDなんて手さぐりの時代であるから優秀録音のレベルまでのスキルがまだ蓄積されていなかったのが原因じゃないかなぁ、と分析されておられた。私にそう言われて後日、「にわとりが先か、たまごが先か」という日記を書かれて、そのことに触れられていらっしゃったことを覚えている。

当時はDSD信号処理でダイレクト録音などと唄っていたが、やはり世界中の放送スタジオ&収録現場にはCDのオーサリング機器が圧倒的に普及しつつあって、それを新規に全部DSDオーサリングに置き換えるなんて、現実無理な話だったのだ。ソニー&Philips陣営もそのことはわかっていて、SACDは最初からCDを置き換えるつもりはなくて、高音質路線のみ、という戦略だった。

当時の私は、かなりがっかりした覚えがある。当時はDVDが凄い勢いだったので、SACDよりもDVD-Audioのほうに喰われてしまうのではないか、とも心配していた。でも予想外にDVD-Audioは敗退。いろいろ原因が言われているが、私は、やはり、ずばりDVD陣営があまりにも映像寄りの立ち位置であることが、いにしえのオーディオファンの反発を食らったのではないか、と思っている。語弊があるかもしれないが、いまはどうか分からないが、その当時はオーディオ畑と映像畑というのは、肌合いが違っていて、ひとつの壁があるように思えた。

私がソニーに在籍していたときの社内もそのような感じだった。私は映像畑だったのだが、同じ社内にいてもオーディオの組織は遠い世界に感じた。

世の中のマーケット層にしてもそうだ。映像商品をターゲットにするファン層と高級オーディオのファン層とは肌合いが違う。まぁいまのご時世はダウンロード、ハイレゾ路線で、またそれはそれで違った層が出来ているのだが、やっぱり映像とオーディオは違う。

オーディオは古くからの固定層が間違いなくある。

で、結局、いまのパッケージとしてのSACDは、オーサリングのときに、全部96/24 PCMで処理をして、それからDSDにアップサンプリングをするのが通常のやりかたのようだ。ハイレゾで、どんどんサンプリングレートが上がっていって心臓に悪い鮮度の高い音が、至極当たり前になっていくと、「パッケージとしてのSACD」の存在意義ってなんだろう?と考えてしまう。

自分は、それは、やはりマルチチャンネル5.1CHサラウンド(クラシックは5.0CHですが)だろう、と思う。

現在のネット回線の太さでは、まだマルチチャンネルを送れるほどの余裕はないし(でも時間の問題かもしれないけれど。)、これがパッケージのお皿としてのSACDの唯一のアドバンテージなのかなぁ、と思ったりする。

ずいぶんと回りくどい前置きが長くなったが、児玉麻里さんは、そんなSACDの草創期から、マルチチャンネルでの録音にチャレンジされておられたのだ。当時はSACDソフトがあまりなかったので、ぜひSACDソフトを購入したいと思って、HMVのネットで調べると、児玉さんのこのベートーヴェンのピアノソナタがかなりシリーズ化されて出されているのが異常に目立っていて、それが凄く鮮明に覚えているのだ。

ピアノの録音をサラウンドで録るという発想が、いまでも少ないのに、この草創期の頃から、それにチャレンジされていたことにいまこのときに考えると、じつにパイオニア的な挑戦だったと、と思うのだ。

そんな児玉さんとPENTATONEの長い、まさに2003年からスタートして去年の2013年に及ぶ11年の歳月を経て、その力作は完結。それらの作品を、BOX商品として発売することもPENTATONEにとっては初めての試みなのだ。

先だってのスウェーデンのBISによる鈴木雅明&BCJによるバッハ・カンタータ全集にも代表されるように、ひとつのツィクルスを何年もかけて完成させる、という考え方は、日本のレーベルの場当たり的なリリース計画と違って先を見据えた指針、視野には、日本の経営陣層にはない素晴らしいものがある。こういう息の長いビジネスプランを立てること自体、現在のレーベル事情では難しいことではないか?まさにPENTATONEだから出来た、とも言える作品なのだと思う。

その児玉さんの努力と涙の結晶は、こんな素敵な外観の商品としてプレスされている。

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BOXの中は紙ジャケだが、そのジャケット写真は、全部現在のお姿で、撮り直している。
ファッショナブルな衣装に身を包み、その背景との構図のセンスの良さに、じつに素敵感がある。

全部で9枚。さっそく1枚1枚聴いてみる。

じつは美話の骨を折るようで、申し訳ないのだが、自分のサラウンドのオーディオシステムにとって、児玉さんの録音はどうも苦手意識があった。それは強奏時に音が割れる感覚というか歪っぽい感じになってしまうのだ。ボリュームのコントロールで微妙に調整したりして回避していたのだが、どうも根本的な解決になっていないようで、困っていた。自分のシステムはピアノは結構自信がある分野で、他のピアノ作品では滅多にこんなことはないのだが、なぜか児玉さんの作品を再生するとそのようになってしまうので、どうも苦手意識があった。

だから今回BOXとして発売されると聴いて、そのシリーズが完結されることは嬉しかったのだけれど、こういう苦手意識があったので、買うかどうか迷っていたこともあったのだ。

でも聴いた限り、そのような現象は起きなかった。まぁ敢えて言えば若干そのように聴こえるときもあるのだけれど、単品で聴いていたときのようなレベルよりもずっと症状が小さく、自分的にはかなり安堵というか最高に嬉しかった。

じつに素晴らしいサウンドと演奏の一言に尽きる。

PENTATONEの児玉さんの作品の特徴は、ピアノの音色の階調、つまりコントラストがすごく明るく感じることだ。キラキラしている、というか聴覚的に眩しい感じがする。オーディオでピアノの音色を明るいコントラストで再生するのは難しい、と感じている。

いままで1度だけ、CDで録音された曲をオーディオで聴く場合と、コンサート会場で生演奏を聴いて比較する機会があった。小山実稚恵さんのヴォカリーズである。このCDをオーディオで聴いて、それを実際、録音された場所である軽井沢大賀ホールで、生演奏で小山さんの演奏を聴いたことがある。生演奏のほうが、はるかに明るい階調であった。

自分のスキルの足りなさもあるのだけれど、オーディオでこれだけ明るいコントラストを表現するのは難しいな、と思ったものだ。

児玉さんの作品は、そんな困難をものの見事にブレークスルーする感じで実に爽快だ。

全作品ともオランダのドープスヘジンデ教会とファルテルモントの2か所で録音されている。
教会録音にありがちな空間が広くて遠くで鳴っているような感じもするけれど、その割には結構マイクに近いような音にも聴こえる。

録音スタッフのクレジットを確認してみると、11年という長い期間なので、入れ替わりもあるが、一貫して最初から最後まで担当していたのが、ジャン・マリー・ゲーセン。バランス・エンジニアと録音エンジニアの両方を担当していることが多かった。そしてもう1人、ずっと一貫して担当していたのが、録音プロデューサーのウィリヘルム・ウェルヘッグ。この2人が、この音づくりのキーマンなのだ、と思う。それからジョブ・マルセ。彼もエクゼクティブ・プロデューサーとしてずっと担当していたようだ。後期になってから、エルド・グロードが編集担当として加わっている。


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左の写真が、左から右に向かって、ウィリヘルム・ウェルヘッグ、児玉麻里、ジャン・マリー・ゲーセン、マイケル・ブレンデス。そして右の写真が、ウィリヘルム・ウェルヘッグ氏と児玉麻里さんの打ち合わせ中。

ベタかもしれないけれど、やはり三大ソナタは素晴らしい。特に1番大好きな「悲愴」はそのあまりの美しさに涙した。
父が亡くなったときに聴いたので、この切ない旋律がその悲しさを助長する感じで、胸が苦しかった。

ケンプ、アルフレッド・ブレンデル、アシュケナージ......ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は、それこそ、もう覚えていないほど、全集を買って聴いて来ているけれど、そのどの作品よりも間違いなく今回の児玉さんの作品が1番素晴らしい。

やっぱり自分は新しい録音が好きだ。

新しい録音のほうが、古い録音に入っている情報を遥かに超えるダイナミック・レンジの広さ、情報量、そして高い解像度、表現力があって、古い録音の時代には捉えれなかった「音のさま」というものがある。


PENTATONEの新譜:アラベラ・美歩・シュタインバッハーのフランク&シュトラウスのソナタ [ディスク・レビュー]

いつまでも悲しんで落ち込んでもいられない。そんな状態から救ってくれるのは、やはり音楽。アラベラ・美歩・シュタインバッハーと言えば、いまやPENTATONEが絶賛売出し中の看板娘。ユリア・フィッシャーがDECCAに移籍してから、彼女の後を継ぎ、このレーベルを引っ張っていっている期待の若手のホープなのだ。

彼女は、幼少のときに、ユリア・フィッシャーやリサ・バティアシヴィリなどの才能を開花させたミュンヘン音楽大学の名教授、アナ・チュマチェンコの門下生となり、その後、イヴリー・ギトリスからも大きな影響を受けたというドイツのヴァイオリニスト。

まさに容姿端麗の美女で、実力も備わるという才色兼備のホープ。いまの自分の嗜好からすると、大御所や巨匠と呼ばれる演奏家よりもこういう将来有望な若手音楽家の演奏のほうがすごく魅力を感じるし、そういう演奏家を看板に添える高音質マイナーレーベルという図式が相変わらず好きなのかもしれない。(笑)

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じつは彼女は、ミュンヘンでドイツ人の父親と日本人の母親との間に生まれたソリストで、日本側プロモーターがミドルネーム「美歩」を付した「アラベラ・美歩・シュタインバッハー」を用いているのは興行的な効果を狙ったものと思われる。実際、CDジャケットやライナー、そして公式サイトにおいてはそのミドルネームは一切記載されていない。

デビューは、じつはORFEOのレーベルで、そこでかなりのライブラリーを出しており、そこからPENTATONEに移籍している。

楽器は1716年製ストラディヴァリウス「Booth」という名器で日本音楽財団からの貸与品。これは、なんとユリア・フィッシャーがPENTATONE時代に愛用していた楽器なのだ。そしてシュタインバッハーもPENTATONEへ移籍してきた訳で、まさにPENTATONEの一時代を築いてきたユリアの後任のレールを歩むにふさわしい偶然が重なっている訳だ。

今回の新譜も、もちろんこの「Booth」を使っての演奏。 
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R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ、フランク:ヴァイオリン・ソナタ シュタインバッハー、クーレック

フランクのソナタと言えば、おそらくその旋律を聴けば、誰もが「あぁ、この曲!」という感じで知っている名曲中の名曲。
このフランクのソナタは、おそらくVnソナタとしては最高峰の一つに数えられる名曲だと思う。

冒頭から流れてくるその優雅で美しい旋律に思わず心を持っていかれる。

ビロードのような甘い旋律、心をぐっとえぐるような堀の深い端正な音楽表現、ヴァイオリンとピアノのその絶妙の絡み合いは、濃淡のくっきりした水墨画を見ているような鋭利な感覚を思い起こさせてくれる。

とにかく美しい。

新譜を聴くとき、大体その第一音を聴いた瞬間に、すべての印象が決まってしまう、自分の場合。
その最初の出音がダメなものは、ずっと聴いていても、リカバーすることはまずない。逆に最初が衝撃的であまりに素晴らしいと、ずっとその印象が持続するのである。経験則である。

この新譜の第一音を聴いたとき、あぁぁ、これはPENTATONEの音だなぁというのがよくわかる。もう数えきれないほどこのレーベルの音を聴いてきている自分にとって、決して裏切られることのない至極正統なこのレーベルの音であった。

音圧が大きくて、広い空間を感じることができて、少し遠いところで鳴っているような感覚もあって、そして全体的に柔らかい質感。弦に色艶があって高域へ伸びているさま、そしてピアノの粒立ちのよい音色が空間の中を残像感たっぷりと漂うその余韻の美しさ.......

いい録音だと思う。そして音だけでなくて、フランクそしてR.シュトラウスのソナタの旋律もじつに万人に受け入れられる美しい調べなのだ。

すかさず録音スタッフのクレジットを見ると、録音プロデューサーにジョブ・マルセ、バランス・エンジニアにジャン・マリー・ゲーセン、そして編集にエルド・グロード。やっぱり.....黄金タッグだ。

シュタインバッハーは、ピアノのクーレックを従えて、今年の12月に来日してトッパンホールでリサイタルをやる。
今回の新譜の演目をお披露目するのだ。

もちろん行くに決まっていて、チケット取得済みで、楽しみにしている。

ここ最近、ご存じのように自分の人生にとって節目となる大きな試練があった。落ち込むまいと思いながらも、自然とふさぎ込みがちになる日々を過ごしていたが、やはり音楽が自分を救ってくれる。

自分にとって、音楽はやはり欠かせない自分にとっての生き甲斐なのだと思う。

やはり音楽って素晴らしい!

こういうときに聴いた音楽だからこそ、この新譜は自分の人生にとって一生忘れられないディスクになるのだと思う。


myrios classics の新譜 [ディスク・レビュー]

タベア・ツィンマーマンやハーゲンSQを看板スターとして擁するmyrios classicsレーベル。

室内楽専門のレーベルだが、その録音品質の高さでは、たぶん自分が聴いている高音質指向型レーベルの中では断トツの完成度だと思う。彼らの新譜には裏切られたことがない。

PENTATONEやBIS、SIMAXなどの新譜は概ね当たりなのだが、でも外れも結構ある。お財布に限界がある自分にとっては、本当に信頼度の高いレーベルなのだ。

myrios
classicsは、2009年に設立された比較的新しいドイツのレーベルでオーディオマニア御用達のサウンド指向型。現在30歳代の若きシュテファン・カーエンという人が設立したレーベルで、デュッセルドルフでサウンド・エンジニアの技術を学び、並行してロベルト・シューマン大学にて音楽学も究めている、というから、オーディオというハード面、そしてクラシック音楽というソフト面の両面を兼ね備えた人なのだ。


良い音楽を高音質、高品質のフォーマットでリスナーに届けるために、わざわざレーベルを立ち上げたというこだわりがある。我々にとって本当に理想の人なのだ。


私は、タベア・ツインマーマンとハーゲンSQのこのレーベルでのアルバムは全部揃えているのだが、じつに素晴らしい。


共通するそのサウンドポリシーの印象は、トレイに載せて最初に出てくる音の印象が、録音レベルが高くて、鮮度感がある、というかすごいエネルギー感があるテイストなのだ。そして空間がうまく録音・表現されているというか、音場が広くてSPからふわっと広がる感覚が素晴らしい。でも音質はとても硬質で研ぎ澄まされた感覚で、結構それが音場感とうまくトレードオフの関係が成立していて、じつにバランス的に秀逸なのだ。タベアのヴィオラのじつの妖艶な色気のあるサウンドは、それは、それは見事であった。

そんな自分にとって外れのないこのレーベルの新譜。
ピアノの作品であった。 

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ムソルグスキー:展覧会の絵、シューマン:謝肉祭 キリル・ゲルシュタイン



キリル・ゲルシュタインというピアニストは新鋭のピアニストで、ディスコグラフィーも過去に1枚しか出していないフレッシュなピアニスト。ゲルシュタインは、ジャズを勉強するために14歳でアメリカに渡り(バークリー音楽大学)、それからクラシックに「戻った」(マンハッタン音楽学校)というユニークな経歴の持ち主でもある。

なんでも去年の2013年に日本に来日しており(武蔵野文化会館)、このムソルグスキー:展覧会の絵、シューマン:謝肉祭を披露している。今回満を持して、それらのレコーディングをおこなった、というところであろう。


これがじつに素晴らしい作品に仕上がっている。

マルチチャンネルで録音されている作品なのだが、自分のオーディオで、ピアノがこれだけ綺麗な音色で奏でられるピアノ録音はいままでなかった。同じマルチで録音されているPENTATONEやBISのピアノ録音よりも断然こちらのほうが遥かに美しい。文句なしにいままで1番の出来。


ここまで自分が絶賛するにも確信があって、鍵盤のタッチの音、弦を叩くハンマーのフェルトの音、弦の響き、響板の響きの音、これらが綺麗に分離しながらも全体のバランスとしてじつに調和がとれた形で聴こえてくるのだ。録音のテイストも、特徴は、直接音と響きの時間差がすごく短くて、直接音をかなり強化している印象。いままで聴いてきたピアノ録音はもう少し響きが遅れるというか長く余韻たっぷりに響くのだが、今回の作品はもう少しきびきびした引き締まった感じの音色で、じつに厳格で美しい。粒立ちが綺麗で、1音1音に質量感がある。

このような美しいピアノ作品は、本当に聴いたことがなかった。感動であった。


さすがmyrios classicsの新譜、裏切らない!と感心してしまった。


録音は、ベルリン、ナレパシュトラッセ、放送会館というところでのセッション録音。2013年の最新録音。冊子にその模様が撮影されているが、結構殺風景で広い会場なのだが、このようなところでこのような素晴らしい録音ができるとは!

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またこのレーベルの特徴で、録音スタッフがクレジットされていないのだ。


キリル・ゲルシュタインのピアノ自体も優れたテクニックに独特の芯のあるタッチ、しっかりした運指。そんな彼のダイナミックな演奏表現に圧倒されるばかり。


「展覧会の絵」は圧巻。まるでオーケストラ版を聴いているようなスケールの大きさと色彩の豊かさ。また後半のシューマンの「謝肉祭」も白眉の出来で、シューマンのピアノ曲は幻想的でやや鬱っぽい感じがするものだが、彼の作品はもっとダイナミックで鮮烈なタッチでいて、情緒感たっぷりの調べという一見反対に思える見せ所が同居しているのが魅力的だ。


本当にまだまだメディアに登場する機会が少ないピアニストであるが、ものすごい大きな可能性を持った大器だと思う。将来が楽しみ。


myrios classicsは、また素晴らしい看板アーティストを手に入れることができた。

SIMAXの新譜 [ディスク・レビュー]

ノルウェーのSIMAXというレーベルは、なかなかアルバムのコンセプト作りがしっかりしている上に、優秀録音が多く、新譜を楽しみにしている大のお気に入りのレーベルでもある。 

SIMAXの録音は、PENTATONEやBISのような明らかにオーディオ的快楽を強調したテイストと比較すると、もうちょっと控えめなのだけれど、でも一聴しただけですぐにわかるその鮮度感の良さ、確固たるダイナミックレンジの広さという土台があって、やはり聴いていて録音の良さというのが際立ってよくわかる。

今回SIMAXの録音を取り上げようと思い、結局4枚購入してみたのだが、意外とSACDよりもCDのほうが多く、CDは2枚ほど購入して聴いてみたが悪くはないが凡庸でいい録音とも言えず、結構ディスクによって良し悪しのバラつきがあるなぁという印象を抱く。

その中で当たりだったのが、このディスク。 

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『つねに待ち望む心を〜クリスマスをティーネと』 ヘルセット、ボートネス、ノルウェー室内管



ノルウェーの女性トランペット奏者 ティーネ・ティング・ヘルセットのセカンド・アルバム。

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彼女の経歴の詳しいデータは調べてみたのだが、あまり見つからず、詳細は不詳なのだが、EMIからも数枚だしているようで、その後母国のノルウェーのSIMAXでお世話になっているという感じだろうか。ご覧のように容姿端麗の才女でもある。

このアルバムは、2010年に発売されたもので近年新譜ではないのだが、ノルウェー室内管弦楽団と共演し、北欧とヨーロッパ各地のクリスマスの音楽を演奏する、というとても魅力的なコンセプチャルなアルバム。クリスマスソングなので、聴いていて1曲1曲が珠玉のような作品で聴いていてとても旋律が美しい、心が洗われるようだ。

自分は正直言うとトランペットというのはあまり得意ではなく、理由は、いわゆるその音色だけで他の楽器の旋律を圧倒してしまう存在感があってそれを心配していた。自分の好みというのは主旋律の楽器に対して、他の楽器群が対等の立場・レベルでハーモニーを一緒になって奏でるそういう関係にある音楽が好きだ。大編成のオケにしても室内楽にしても。トランペットは目立ちすぎると思ったのだ。だから最初に購入するとき、トランペットかぁ?という感じでかなり躊躇した。

でもいざ聴いてみると、今回ヴァイオリンとソプラノ、そしてトランペット、そして室内管弦楽団の編成なのだが、じつに4者ともバランス(録音レベル)良く編成されていて、どれかが主張し過ぎることもなく綺麗に融合されて、その調和性が見事で聴いていてじつに気持ちがいい。秀逸な作品だと思った。トランペットも哀愁漂う音色で、夕焼けの空に向かって1人吹く、そんなイメージが湧いてきそうで、じつに美しい。

クリスマスソングの切ない旋律に見事に溶け合っている、そんな印象だ。そしてソプラノの澄んだ美声が入ったり、と.....本当に総合的にじつにバランスの取れた造型で完成度の高いアルバムだと思う。

録音もダイナミックレンジが広くて、ちょっと遠くで鳴っているような感じも受ける豊かな立体音像。
対響きのバランスも過不足もなくといったところで中庸でよろしい。そして広い空間の中での絢というか解き放たれる艶感が妙にいい。

いいアルバムだと思います。

じつはこの前に彼女のSIMAXでのデビューアルバムであるトランペット協奏曲集が出されている。こちらもSACDなので紹介しておこう。このレパートリーでも近年指折りの素敵なアルバムであったが、もちろんこのアルバムも購入したが自分としては録音のテイストや曲自体、ずっとセカンド・アルバムのほうがいい、と思ったので、日記ではセカンドのほうを主題に取り上げました。

トランペット協奏曲集 ティーネ・ティング・ヘルセット(tp)ノルウェー室内管弦楽団




DECCAに移籍していたユリア・フィッシャー [ディスク・レビュー]

知らなかった....あせあせ(飛び散る汗)最近、PENTATONEがやたらとアラベラ・美歩・シュタインバッハーを看板娘として売出し中&宣伝アピールするものだから、ユリア・フィッシャーはどうしたんだろう?と思っていたのだ。

自分のイメージでは、PENTATONEの看板娘と言えばユリアだった。

なにげなく調べてみたら、なんとユリアはユニバーサル・ミュージック傘下のDECCAに移籍していた。

それも2008年に!

自分がmixiに入会したのが、2009年だから、物心ついたときからすでに移籍していたのだ。自分がPENTATONEを知って、ユリアを聴き始めたときは、もうすでに過去のアルバムを聴いていた、ということになる。正直ショックだった。

でもDECCAに移籍したとはいえ、じつはPENTATONEからも従来通りアルバムを出すという二刀流のようだ。(少し安心。) ユリア・フィッシャーはドイツのヴァイオリニストで、とりわけ有名なのは、ヴァイオリンとピアノの二刀流をこなす才女ということだろう。若くして10代の頃に8つの国際コンクールで優秀するという凄さで、そのうちピアノ部門が3つというから、本当に恐れ入る。2006年7月には23歳の若さでフランクフルト音楽・舞台芸術大学の教授に就任している。(ドイツ史上最年少記録!)

PENTATONEには2004年から録音をスタートさせていて、いろいろなアルバムを出しており、自分にとっては当レーベルの間違いない看板娘という印象であった。当レーベルの彼女のSACDはほとんど所持しているのではないか?

どのアルバムも外れがなくて、やっぱり録音がすこぶる良い!クラシックの過去の名演奏・名盤を味わうというスタンスももちろん尊重するが自分はオーディオマニアなので、やはりもうひとつのファクターとして「録音がいい」という基準は絶対譲れない線でもある。

そういった意味で、PENTATONEから出るユリアの録音は、演奏の素晴らしさはもちろん録音が素晴らしいので、Vn協奏曲、Vnソナタのジャンルでは1番再生回数の多いディスクであった。

そんなユリアがDECCAに移籍してからのアルバムを聴いてみたい、と思い、2枚購入した。 


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ブルッフ&ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 ユリア・フィッシャー、ジンマン&トーンハレ管弦楽団



自分はブルッフのコンチェルトが好きなので、迷わずこれを選んだ。ドヴォルザークもチェロのほうは有名だが、ヴァイオリンのほうは知名度がいまひとつのところもあるが楽しみにしていた。

最初に奏でられる音を聴いたとき、まず録音レベルが小さくて、解像度があまりよくない、というか鮮度感がない、というかパッとしない印象であった。DECCAの録音を聴いたのも久しぶりなのだが、正直あまりいただけない。

ユリアの録音は派手というイメージがあるので、どうも全くの180度正反対のような感じでユリアの弦の音色も冴えない。
どうも自分は、この録音は苦手だ。

そして恐る恐る2枚目。 

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『ツィゴイネルワイゼン〜ユリア・プレイズ・サラサーテ』 J.フィッシャー、チェルニャフスカ



このアルバムは、ユリアの1番最新のアルバムであろう。これは溜飲を下げた想い。きちんと空間を感じることが出来て、音色に響きの美しい余韻を感じることができる。こちらのほうが録音レベルも普通で、鮮度感もままある。1枚目の録音に比べると、かなりイイ。

2013年7月16-18日の録音で、グリュンヴァルト、アウグスト・エファーディングザールで録音されている。

2014年に生誕170年を迎えるサラサーテに焦点をあてて臨んだ新録音。もちろん「ツィゴイネルワイゼン」が目玉であるが、超絶技巧だけでなく、スペイン民謡を主題にした作品での絶妙なフレージングも心をとらえる。

久しぶりにメジャーレーベルの音を聴いてみたが、やっぱり至極真っ当というか普通の録音だよな、と感じるところがある。優秀録音という範疇の中でも、すごく優等生的なサウンドなのだ。確かにPENTATONEのような高音質指向型レーベルの音に慣れてしまうと、メジャーレーベルの音というのは、そのように感じてしまうのかもしれないけれど、ある意味派手な化粧を施したような録音に耳の感覚がマヒしているのかもしれない、とも感じた。

そういう意味でマイナーレーベルの高音質指向型レーベルの録音というのは、オーディオ的快楽を強調したテイストなのだ、と改めて強く感じた。そしてそれが彼らがメジャーレーベルに対抗するためのひとつのアイデンティティにもなっているのだろう、と改めて考えさせられたのだ。

だって、このDECCAのアルバムを聴いて、とてもユリアの弦の音色とは思えなかったのだから.....それだけ固定観念が出来てしまっているのである。

メジャーレーベルの音といえば、久しぶりにDG録音を聴いてみたい。
SACDが世に出る前のクラシック録音としては自分のリファレンスの録音だっただけに....


ドレスデンが生んだピアニスト界の巨匠・ペーター・レーゼル [ディスク・レビュー]

今年ドレスデンに行ってきた折に、FBで有難くも友人になっていただいているピアニストの高橋望さんから、素敵なピアニストを紹介された。ドレスデンが生んだピアニスト界の巨匠ペーター・レーゼル。

ドレスデン生まれで、ドレスデン音楽大学で学ぶ。現在もドレスデン在住で、母校で教えている。存在くらいは知っていたがCDを1枚くらい持っているぐらいでそれほど熱心な聴き手でもなかった。

高橋さんから教えていただいたのは、新譜として出たばかりのモーツァルトのピアノ協奏曲集。
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SACDでマルチ録音。じつは、この作品シリーズ化されていて過去に2作品出していて、この新譜が3枚目にあたる。結局3枚とも揃えたのだが、特に新譜はじつに素晴らしい。20番と21番なのだが、高橋さんからの感想では師の集大成のような仕上がりに思えるほど素晴らしくて、音の間に積極的に装飾を施し、これがすこぶる新鮮だ、とのこと。同じピアニストから観たこの感想がとても素敵で、いっぺんに引きつけられるような魅力を感じた。

録音も本当に優秀録音で、透明感のあるピアノの音色、その響きが空間を漂う余韻の美しさなど筆舌に尽くしがたい。

ピアノ作品をマルチチャンネルで録音するのは、あまりお目にかからないと思ったが、いままで聴いてきたピアノ作品では断トツに素晴らしい、と思う。

やっぱりマルチは音数が多く、情報量も多いので細やかな空気感とかピアノの四方に音が広がっていくさまが手に取るようにわかって、2ch録音では絶対成し得ないようなダイナミックレンジの広さを感じることができて本当に爽快だ。

前作の2枚もじつに優秀録音で、この3枚はぜひ揃えた方がよい、と思う。
私なんぞは、あまり素晴らしいので毎日聴いている愛聴盤になっています。

レーベルはKING RECORDSなのだが、この3作品が素晴らしいのは、あの音響の素晴らしい録音の名会場であるドレスデンの聖ルカ教会での録音である、というところにもすごく惹かれる。今回ドレスデンに行ったときに、この聖ルカ教会はぜひ行ってみたかった教会。名盤生産基地として超有名な教会で、オーディオマニアにとっては聖域の教会だろう。残念ながら礼拝や演奏会があるときしか開いていないようで、今回は無念の一言だった。

SACDの冊子には、この教会でのセッションの様子の写真が掲載されている。
これを見ると意外とヨーロッパの教会らしくない質素な内装空間だ。
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シュタッツカペレ・ドレスデンのセッション会場として有名で、高橋さんの話では、シュターツカペレがドイツレクイエムを毎秋、この教会でやっていて2階席で聴くとその豊かな響きにうっとりするんだそう。ディスクを聴いてもそのライブで美しい響きの空間はよくわかる!

この教会で礼拝や演奏会を聴くという目的だけでも、ドレスデンに行く甲斐はあると思う。ぜひ次回でも!

今回の3作品ともドレスデン国立歌劇場室内楽管弦楽団との共演。まさにドレスデンずくし。素晴らしいピアニストに出会えた、と思う。氏は、先にベートーベンのピアノソナタ全集も完成させており、その評価も高い。

そしてペーター・レーゼルと言えば、「ドイツ・ロマン派 ピアノ音楽の諸相」と称して、3ヶ年プロジェクトで、紀尾井ホールで開催されているコンサート。

ドイツ・ロマン派の作曲家たちが、ピアノという楽器にどのように魅了され、心の動きを表現してきたのかを音で探っていく、というのがテーマの骨子。

今年が最終年の3年目。

11/6の「室内楽」公演では、共演も数多く、気心知れた名門のゲヴァントハウス弦楽四重奏団を迎え、ライプツィヒゆかりのメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第6番と、シューベルトの四重奏曲断章、そしてピアノ五重奏曲の最高峰ともいえるブラームスの名作を取り上げる。そして11/8のリサイタルでは、ドイツ・ロマン派を代表するブラームス、シューマン、そしてシューベルトの作品で、本プロジェクトは完結する。

両方の公演ともぜひ行くことにした。(チケット手配済み)

まさに今回のライプツィヒ・ドレスデン音楽鑑賞旅行がなければ、出会うこともなかったピアニストとも思うと、やはり音楽も出会いだと思う。みなさんも、ぜひ紀尾井へ!

ペーター・レーゼルのモーツァルト・ピアノ協奏曲集を紹介しておこう。
なぜか、アマゾンにしかないのが不思議だ。 

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モーツァルト:ピアノ協奏曲集 1
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第19番&第27番 
 

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モーツァルト:ピアノ協奏曲集 2
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第22番&第23番



そして、これが最高に素晴らしい新譜! 

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モーツァルト:ピアノ協奏曲集 3
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第20番&第21番 


最後にこのペーター・レーゼルを紹介していただいたピアニスト高橋望さんをご紹介しておきます。秩父市と坂戸市でピアノコンサートシリーズを開催されていて、とても魅力的なピアニストの方です。
音楽ジャーナリストの池田卓夫さんのプロデュースで、同じくピアニストの伊藤憲孝さんとデュオを組んでいらっしゃり、そのコンサートを観に実際坂戸市まで足を運んだことがあります。みなさんもぜひコンサートにいらしてみてください。

高橋望さんのブログ
http://nozomu1223.blog.fc2.com/

自主制作レーベル「ベルリンフィル・レコーディングス」第1弾:シューマン交響曲全集 [ディスク・レビュー]

オレは、いまモーレツに悲しい!やれ、ウルリッヒフェッテやライナーマイヤールという録音技師の話をすること自体おこがましい。RCO Liveにさえ遠く及ばないその録音の完成度。

天下のベルリンフィルが自主制作レーベル創立をして、自分達で作品の録音を管理すると鮮烈な宣言デビューをして本当に世の中のクラシックファンを驚かせた。当然我々も猛烈に期待した訳だ。

パッケージだけでなく、高画質映像、ハイレゾ音源、そしてアナログLPまで出すという。

こういう組織的なビジネスができるのは、ベルリンフィルならでは、と思うところ。ネット配信のDCHが大成功しているので、それに続けとばかりの攻勢で当然期待も膨らむ。

ネット配信の台頭で、パッケージメディアが厳しい状況に置かれている昨今であるが、私はパッケージがなくなることはないと思っている。やはり”モノ”としての所有感が魅力的だし、実体のない音声ファイルでは、そういう渇望を満たしてくれない。そういうネット配信の世の中の流れに逆行するようなパッケージ重視の今回の自主制作レーベルの方針。

”日本人もドイツ人と同じように、製品を物として楽しみたい、所有する喜びを大切にしている。だから、持つことが楽しくなる商品を作った。日本とドイツだけがCDやDVDをお店で買うという伝統的な買い物スタイルが健在。”そう言い切るベルリンフィル。

だから期待していたのだ。

その第1弾がシューマンの交響曲全集。
ようやく届いた。

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まずその高級感あるパッケージに期待。じつに素晴らしい感がある。

CD2枚とBDディスク1枚の構成。BDにはBDオーディオ(24bit/96KHzの2chと5.0ch)とBD映像(HD)が入っている。

まずCDから聴いてみる。最初に流れてきた音を聴いたときは、かなり焦る。オケもの独特の音場感というのがまったくないのだ。SPから音の広がりというのがまったく感じることができず、SPにへばりついているような音の出方。平面的なサウンドで、極端に言えばラジカセのような音。(この表現はちょっと言い過ぎですね。)
最初自分の2chの再生システムが壊れたのか、とも思った。(苦笑)

もっと具体的に分析すれば、いわゆるホールトーン、ホールの空間がうまく録音されていない、再現できていないということを1番痛切に感じる。録音の段階ですでにNG。だから再生音に音場感、音の広がりがまったく感じないのだと推測する。

オーディオ的に非常につまらない音だ。たとえが悪いがエージングが済んでいないSPを鳴らしているような音のようにも聴こえる。

この段階でかなりがっかり。大いに期待していた私の落胆がわかるだろうか。

ショックを引きずりながら、まだまだ期待をうっすら持ちながらBDオーディオのほうを聴いてみる。
DTS-HDの5.0chで聴いてみる。確かに2chのときよりはレンジが広くなった感じがするが、まだ全然ダメ。

やっぱりマルチで聴いても、1chずつにおいて広がりがないので、マルチ特有のステージ感がぐっと広がる爽快感というのがまるでないのだ。こじんまりして鳴っている感じ。

この空間が表現できていない、立体感を感じない、というのはなんなのだろう?

自主制作レーベルでは先輩のRCO Liveのほうが、もう断然素晴らしいのである。RCO
Liveはアムステルダム・コンセルトヘボウでのライブ録音である。

今回のベルリンフィル・レコーディングスのシューマンもベルリンフィルハーモニーでのライブ録音なのだ。

条件は同じ。

RCO Liveのほうはポリヒムニア、つまりPENTATONEが音声を担当している。だから筋金入りのサウンドとも言える。

ベルリンフィル・レコーディングスの音声スタッフの素性はわからないのだが、PENTATONE,BIS,CHANNEL
CLASSICS,CHANDOS,SIMAXなどのようないわゆる高音質指向型レーベルのサウンドには遥かに遠く及ばないことは確かなのである。現時点ではかなりのレベル差があると思われる。

あまりにもひどかったので、お耳直しという訳ではないが、PENTATONEのディスクをかけたら、じつに素晴らしいサウンドだったので、自分の機器が壊れていないことは確認できた。(笑)

というか録音、マスタリング編集、そしてパッケージ化という作業に慣れていないような感じがする。

冊子にクレジットされている録音プロデューサーはクリストフ・フランケ氏、サウンドエンジニアはレーネ・ムラー氏。
もし有名どころの方なのであれば、青ざめるのだが.....

ベルリンフィル・レコーディングスの音声スタッフはDCHのスタッフがやっている可能性も強く、でもそうだとしたらDCHは映像、音声ともネット配信にしては、とても素晴らしいクオリティだ。

今回のようなこんなサウンドを作るとは思えない。

そしてとどめだったのが、BD映像作品。画質があり得ないレベル。HDとはとても言えない解像度の悪さ。細部がつぶれている、というか、全体的にノイズリダクションをかけたようなのっぺりした酷い画質だ。

私の想像では編集の段階でこんなに酷くなるはずがなく、おそらく撮像の段階での問題だと思う。

HDの解像度を持ったきちんとした撮像素子をもったカメラで撮影してないのではないか?まさかとは思うがそんな危惧まで抱く感じなのだ。デジタル放送やパッケージのBDソフトを観ている自分からすると、普通いわゆるHD画像と呼んでいるレベルには到底達していないのだ。だからこれをBlu-rayと呼んでいること自体に驚きなのだ。
自主制作の限界は、この映像制作にあると言える。

RCO Liveの場合、音声はPENTATONEなので、素晴らしいのであるが、やはり映像がまるっきりダメなのだ。
RCO Live制作のRCOによるコンセルトヘボウによるマーラー交響曲全集のBD全集が数年前に発売されたことがあった。これもじつに酷い画質であった。やはりNRをかけたようなのっぺりしたディテールがつぶれているような画質で、さらに全体的に赤味の色がついたような変な色調(人の顔面などの肌が赤っぽいのだ)でこれでHDというのはあり得ないというレベルであった。

自主制作の場合、カメラを含めた映像制作に纏わる機器群、そして映像編集装置、またそれを編集するエンジニアの存在、これらは、やはり外部委託会社にお願いするしかないのだと思う。(あくまで想像の域ですが。)

EMIのラトルのベルリンフィルのCDでDVD付きというのがあるのだが、そのDVDの映像というのも、DCHからコンバートしたもので、酷い画質であった。今回もなんかそのようなレベルに感じてしまう。

そういった点で、ゴローさんの映像作品は、映像関連は撮像機器、編集機器ともにNHKがきちんとサポートしているので、間違いないレベルで、それプラス音声にこだわりを持って、悲愴の場合はDGの名トーンマイスターであるライナー・マイヤール氏、そしてRCOハイティンクの場合はPENTATONEスタッフに、という感じの組み合わせで、映像・音声ともにハイクオリティな作品に出来上がっていたのだ。実に条件が整っていた偉大な作品であったことがわかる。

今回の自主制作の映像作品を観て、自主制作レーベルの限界というか、そこを強く感じた。

自主制作レーベル創立にあたって、ベルリンフィル・レコーディングスは、24/96をはじめとするフォーマットの優秀さをアピールしている。でもフォーマットの優劣だけで、優秀録音ができるほどオーディオの世界は甘くないのだ。録音のノウハウ、編集時のノウハウ、いわゆる、それこそ” ヒト”が絡むところで、様々なノウハウがあって初めて実現することなのだ。今回の凡録音は、ひとえにその人材不足、もしくは経験不足から起因するものと思える。

今後のベルリンフィルの作品は、この自主制作レーベルを中心にリリースするという。(^^;;)

今回のレベルを拝見、拝聴して私は、恐ろしく不安に感じる。

誰か、今回のこのシューマンの作品を買っていただき、私の評価が間違いであることを示唆してほしい、そんな気持ちである、正直なところ。この投稿を読んで、このシューマンの作品が9000円もするとなると、誰も買おうとは思わないと思うが.....

あぁぁぁ~ベルリンフィルで育ってきた自分にとって、自分のクラシックの基準がベルリンフィルの自分にとって、愛しのベルリンフィル、どうしよう~......

BISの新譜 [ディスク・レビュー]

RCOの首席オーボエ奏者のアレクセイ・オグリンチュクのBISからのソロ・アルバムの3枚目がいよいよ登場。バッハアルバム、モーツァルトアルバムと来て、今回の最新盤は、20世紀の作曲家たちによる作品をオーボエとピアノでフィーチュアリングしたもの。 
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20世紀オーボエ作品集~ヒンデミット、ブリテン、ドラティ、他 オグリンチュク、L.オグリンチュク



なんと相手方のピアノは父のレオニード・オグリンチュクとの共演。


ヒンデミット、ブリテン、ドラティ、ハース、そしてベン=ハームといったなかなか普段聴かないような現代音楽作曲家の作品。トレイに入れて奏でられる音楽は、やはりかなりアバンギャルドで、ストイックな旋律だ。


でもそれだけじゃ終わらないのが、BISの録音。

めちゃめちゃ音がイイ!


いままでCHANDOS,PENTATONEと一連の新譜を聴いてきたが、オーディオ的には、この1枚が、1番当たり。特にピアノの音色が異常なまでに美しい。ハンマーのカキンという音が聴こえてきそうな感覚で、打鍵の音色にすごい透明感があって、その響きが空間を漂う雰囲気がじつに綺麗。単にコロコロ転がる音色でなくて、1音1音に質量感がある、というか。


そしてオーボエの音色が、そのピアノに絡んでじつに美しい。前作のモーツァルトアルバムでは、ちょっとオーボエの音圧が大きくて強奏のときに耳にキツく感じるときもあったのだが、今回はまったくそんな心配はなし。


録音のテイストはソリッドな音質で、響きの量も過もなく不足もなくという感じで、適度でバランスがいい。

BISらしい空間の広さ、空間表現の素晴らしさも健在だ。

自分のオーディオシステムは、低域の量感といった類が苦手で、オケものより室内楽のほうが得意。それはマンションという大音量を出せない環境のせいもあるのだが、室内楽のような空間の隙間のニュアンスを楽しむ、といったほうが得意だし、このディスクは中高域の透明感が売りのような感じ。


現代音楽は苦手という人は、私も含めて多いかもしれないけれど、音を楽しむディスクと割り切れば、オーディオマニアのあなたなら、その良さがわかるだろう、というそんな感じのディスクだ。


現に、自分も現代音楽は1回聴いたら、後は死蔵というパターンが多かったのだが、このディスクは、その”音を楽しむ”という楽しみ方で、何回でもトレイに載せてしまう回数が増えそうだ。




そして2枚目も以前日記で取り上げたスウェーデンのクラリネット奏者マルティン・フレストの新譜。フレストはいわゆるBISのお抱え看板スターで、10年前から、もうすでに何枚もBISからリリースしている、この母国スウェーデンのレーベルに奉公してきているアーティスト。

いわゆるクロスオーバー的エンターテナーという立ち位置で、クラシックに限らずいろいろなジャンルの名曲をクラリネットでフィーチャリングした小作品集が得意なのだが、単に演奏するだけでなく、本当に歌って踊れるユニークなエンターテナーでもあることも前回紹介したとおり。

前作はモーツァルトアルバムであったが、今回の最新作はブラームスアルバム。

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クラリネット五重奏曲、6つの歌、クラリネット三重奏曲 フレスト、ヤンセン、リサノフ、ペンティネン、他



これは絶対買いだ!と思い購入。今回もジャニーヌ・ヤンセンが競演していて豪華競演陣。


収録曲は名作、クラリネット五重奏曲を主軸に、フレスト選曲・編曲による『6つの歌』、そしてクラリネット三重奏曲。


こちらは、ご心配なく音楽そのものが楽しめる。(笑)
各曲の旋律がとても美しくて、じつに素晴らしい作品に出来上がっている。

いまの季節は初夏であるが、秋の似合うブラームスの哀愁漂う旋律がとても素敵だ。そしてフレストのクラリネットの音色が、とにかく耳に優しい。


丸みの帯びたソフトな質感で、ほんわかしていて、聴いていてとても癒される。


さきほどのディスクで音に特化したことを強調したが、やはり音楽ディスクは、楽曲の素晴らしさと録音の素晴らしさのコンビネーションだよなぁ、と思うことしきり。このディスクは、それがずばり当てはまるディスクなのだ。


録音のテイストは、若干質感の柔らかい感じかなぁという感じで、ほんのり薄らと響きが漂う感じでとても癒されるソフトな感じ。とても素晴らしい優秀録音だ。

今回のBISの2枚は本当に当たりだ!


CHANDOSの新譜 [ディスク・レビュー]

CHANDOSはイギリスのクラシック高音質レーベルで、比較的新しいレーベルだが、サウンド指向型とも言える、その音づくりのポリシーは、自分の好みに合うというか、毎度、新譜を楽しみにしているレーベルのひとつだ。


つい先日、とても魅力的な新譜が出た。ネーメ・ヤルヴィ指揮のスイス・ロマンド管弦楽団のフランス音楽もの。 
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絵のような風景、『ル・シッド』バレエ組曲、チェロ幻想曲、他 ネーメ・ヤルヴィ&スイス・ロマンド管、モルク



スイス・ロマンド管は最近ハマっているというか大のお気に入りのオケで、つい最近では、PENTATONEから日本の若手の山田和樹が客演した、ビゼーのアルバムが出たのだが、じつに優秀録音で絶品だった。


この山田/スイス・ロマンド管のコンビで今秋にサントリーに来日する予定で、ソリストに樫本大進を迎える、というから大変楽しみにしているのである。


ネーメ・ヤルヴィは、あのパリ管のパーヴォの実父。つい最近、日本に来日して指揮をしたばかりで、その素晴らしい統率力で、大好評で、いま旬な人かもしれない。


なにせ、その録音ライブラリーは、あのカラヤンに次ぐというから恐れ入る。そんな彼が手兵のスイス・ロマンド管を率いて今回録音したのが、フランスのオペラ作曲家のジュール・マスネの管弦楽作品集。


マスネは「タイスの瞑想曲」で知られる歌劇「タイス」や「マノン」などで超有名なオペラ作曲家だが、じつはオペラ以外にも秀逸な管弦楽作品を多く残しているのは、意外と知られていないらしく、今回それらの作品を一気にお披露目という感じらしい。

今回のマスネの作品を実際聴いてみると、本当にフランス音楽の典型とも言えるような優雅で美しい旋律、そしてちょっと浮遊感が垣間見れるような感覚がして、本当にじつに聴いていて癒される。美しい宝石のような作品集だと思う。

チェロ幻想曲のチェロの音色がまた優雅に鳴っていてじつに美しい。


一言でいうと優雅そのもの。マスネはやはりいい!

録音は、かなり質感の柔らかい軟質な印象。残響が多いのが特徴で、原音がかなり奥に引っ込んでいるような感覚を受ける。典型的な音場型の録音だと思う。明晰で、音の縁取りの明確な録音を好む人には、少し違和感があるかもしれないが、自分は受け入れられるというか、好みの範疇に入る。レンジは広いので、上述のような残響感たっぷりのサウンドが、奥行感も十分取れて聴こえて、立体的な聴こえ方をする。

いままで聴いてきたCHANDOSの録音も似たような傾向にあるので、このレーベルの音づくりのひとつの特徴なのだと思う。

もっと違う見方をすれば、このような柔らかな質感の音触というのは、このフランス管弦楽の優雅なイメージにぴったりな訳で、そのように意識的に編集したものだとも思える。


録音は、去年の2013年に、彼らのホームであるスイス・ジュネーブのヴィクトリア・ホールで行われた。中の冊子にそのホールの景観と、観客とステージ上のオケがいる写真がモノクロで掲載されているのだが、それを観るだけでもじつに美しい装飾の煌びやかなホールで、いつかは必ず行ってみたい、と思っているホールと想いを新たにした。

PENTATONEの新譜 [ディスク・レビュー]

PENTATONEと言えば、そのジャケットデザインにオリジナリティがあって、四隅の対角の片側がベージュというのがずっと持ち味のカラーであった。でも今月の新譜から新しくそのデザインが一新されたようだ。


ご覧のように、ジャケット自体は、普通のレーベルのデザインと変わらないようになってしまい、プラケースの上にさらに紙のカバーケースが付くという仕様になった。


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まぁ、保守的な自分としては、ちょっと面食らった、という感も否めないが、これはこれで、以前と比べて高級感がぐっと増した感じで戦略的には成功なのだと思う。

さて、今回購入したのは次の2枚。


●シュタインバッハー、ルツェルン祝祭弦楽合奏団 「モーツァルト・ヴァイオリン協奏曲第3番、4番、5番」 

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PENTATONEのモーツァルトのVn協奏曲集と言えば、真っ先に思い浮かぶのがユリア・フィッシャーの録音だろう。あれはスゴイ録音だった。いかにもPENTATONEというべき過度な味付けで、残響たっぷりで、SPからふわっと浮かび上がるステージ感に圧倒され、部屋中に広がる音空間の広さが抜群の優秀録音だった。マルチを志す人なら、オーディオオフ会では、必ずあのディスクをかける、というくらいの定番の録音。

なので、どうしてもその録音との比較をしてしまう。


ぶっちゃけて言うと、ユリアの録音と比較すると、最初のサウンドの印象は、すごい地味な印象で、楽器の音色自体がどこか古楽器的な響きのニュアンスに聴こえる。音場感が比較的控え目という印象で、その分、音質のクオリティを上げた感じで、すごく渋めの落ち着いた感じの佇まい。でも大音量で聴くと、オケの音はやっぱりすごい音がイイ。やっぱりPENTATONEの録音はいいな、と思ってしまった。


テンポもゆっくり目で、落ち着いた大人の演奏という印象だ。ユリアの録音のときの過度な味付けと違って、極めて自然な録音だと思う。何回も聴きこんで、しかも大音量で聴くと、その良さがだんだんわかってくる。


音色の透明感や、オケの音の厚さなどが、とても秀逸な録音だと思う。S/Nの良さというか、その演奏している場所の空気の澄んだ感覚が感じ取れる、それが聴いていてよくわかる。


録音は、スイスのチューリッヒのオーバーシュトラース教会でのセッション録音。なるほど教会なら、それもよく理解できる、というものだ。そのときのセッションの様子の写真がライナーノーツに掲載されている。


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ソリストのアラベラ・美歩・シュタインバッハーは、ユリア・フィッシャーや、ゴローさんの大のお気に入りだったリサ・バティアシヴィリなどの才能を開花させたミュンヘン音楽大学の名教授、アナ・チュマチェンコの門下生となったエリートで、ジャケットを見てもわかるように絶世の美女で、期待の新鋭のドイツのヴァイオリニスト。
今年の年末にトッパンホールで彼女のリサイタルがあり、聴いてこようと思っている。 


このディスクを何回も聴きこんでいく内に、逆にユリアの録音が化学調味料のかかり過ぎた録音のように思えてくるから不思議で、全く180度逆に対峙するような位置づけの優秀録音だと思う。


やっぱり音色の透明感が綺麗の一言に尽きる。

録音エンジニアスタッフは、プロデューサーにヨブ・マース、バランス・エンジニア、編集担当が、ゴローさんお気に入りのエルド・グロード!

本当にイイ仕事をしてくれる。


●山田和樹指揮・スイスロマンド管弦楽団「ドイツの管弦楽作品集」 
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本当にスイスロマンド管というのは、やってくれる、というか、つい先日日記で取り上げたCHANDOSの新譜、ネーメ・ヤルヴィのマスネのフランス管弦楽作品ものが素晴らしかったのだが、今回はPENTATONEから日本の若手のホープの山田和樹とこのオケで、また素晴らしい作品を出してくれた。


じつはこのコンビは、同じPENTATONEから前回ビゼー/フォーレ/グノーのフランス管弦楽作品集を出しており、ジャケットの美しさが素晴らしくて、それに負けないくらい中身も優秀録音で、聴いていて気持ちのいい選曲で、じつにいいディスクだった。

今回は、それに続く第2弾「ドイツの管弦楽作品集」。

この2作品を聴いてみて言えるのは、山田&スイスロマンド管のコンビは、「バレエ、劇場、舞踏のための音楽」と称して、1枚のディスクの中に複数の作曲家を扱い、いわゆる有名な旋律、楽章のみを取り上げる、というコンセプチャルなアルバム作りを目指しているところ。これはある意味、とてもイイ。1つの作曲家で、長い交響曲を4楽章フルに取り上げる通常のクラシックアルバムよりも、ずっと聴きやすいし、疲れないし、普段何気なく聴くというか、ついついラックから取り出すのはこういう気軽な構成のほうが気が楽だ。

今回のドイツ管弦楽作品集もR.シュトラウス、リスト、コルンゴルド、ブゾーニ、シュレーカーなど蒼々たる作曲家の作品の有名な楽章のみを取り上げている、とても魅力的な作品。特に名指しすると、R.シュトラウスの「サロメ」と「ばらの騎士」は超有名なだけあって絶品。あとコルンゴルドの作品が、このアルバムの中で1番旋律が美しい。そしてシュレーカーの「ロココ」がいい。

交響曲と違って、管弦楽作品というのは、曲の構成が簡潔で、どこか旋律が優雅で、親しみやすさがある。

そしてフランスものと違った、ちょっと厳格なドイツ風の味付けがあって、でも優雅な調べという点では共通なところがある。聴き終わって想うのは、このオケって、旋律の泣かせ方というか、歌わせ方がじつにウマイというか聴いていて気持ちがいい、と思うことだ。

PENTATONEの録音って、表現は悪いが、ちょっとあざとい、というか、自然録音というよりオーディオ的快楽を強調したテイストだと思う。でも、この録音は、とても自然で、PENTATONEのいままでのイメージとはちょっと違う感じがする。

硬質&軟質、どちらにも偏っていない中庸な感じで、対響きのバランスもすごく自然。先日のCHANDOSの音よりもずっと明晰です。特にシュトラウスの曲なんか、ドスンドスン系の音も入っており楽しめる。

拙宅は、再生環境が恵まれていないので、できればこのディスクは広い専用リスニングルームで、大音量で聴いてみたいなぁとも思う1枚だ。録音エンジニアスタッフは、こちらも先と同じプロデューサーにヨブ・マース、バランス・エンジニア、編集担当が、エルド・グロード。

録音は、2013年7月で、もちろん彼らの本拠地ジュネーブのヴィクトリアホール。例によって、中のライナーノーツには、その煌びやかなホールの空間のありようが写真掲載されている。

いまものすごくこのホールに行ってみたい衝動に駆られている。
ちょっとネットで拾ってきた写真を掲載してみよう。


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本当に美しいホールで、音響も素晴らしい感じがする。今年は、ライプツィヒ・ドレスデンに行くが、じつは、来年の2015年、そして2016年まで、どこに行くか決まっているのである。(笑)このスイス・ジュネーブのこのホールに行くとしたら、2017年になる。でもこの立て続けの彼らの新譜攻勢で、無性にこのホールで彼らを聴いてみたい、という想いが強い。2015年は予定が確実に決まっているので、せめて2016年に前倒しして、などの誘惑に駆られている。

それだけ、このスイス・ロマンド管とヴィクトリアホールの組み合わせは自分にとって魅力的なのである。

山田和樹&スイス・ロマンド管弦楽団のフランス管弦楽作品集 [ディスク・レビュー]

ジャケ買いというのがある。PENTATONEの新譜を漁っていたら、妙に惹かれるジャケットに出会った。これが巻頭の写真のディスクである。華やかな真紅のドレスを纏った女性がオペラハウスの中にいるその華麗なショットがPENTATONEのベージュのフレームデザインに妙にマッチしていて、ソソラレルものがあった。ジャケットを手を込んだものに仕上げているアルバムは、不思議と中身もきちんとしているものが多い。

山田和樹&スイス・ロマンド管のフランス管弦楽作品集。
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→ 
http://bit.ly/1fcu1Uj


選曲がじつに素晴しいと思った。
・ビゼー:『アルルの女』第1組曲
・ビゼー:『アルルの女』第2組曲
・グノー:歌劇『ファウスト』からのバレエ音楽
・フォーレ:組曲『マスクとベルガマスク』

特に自分が聴いてみたかったのが、グノーのバレエ音楽。即刻で購入。

スイス・ロマンド管は、スイス・ジュネーブに本拠地を置くオケで、指揮者エルネスト・アンセルメによって、じつに49年間(半世紀!)も率いられ(カラヤンの35年よりスゴイ!)、膨大なレパートリーの録音を残したため、アンセルメの楽器とも言われていた。

その大半の録音は英デッカへの録音で、本拠地のヴィクトリア・ホールで録音されたものだ。

ジュネーブにあるヴィクトリア・ホールは、うなぎの寝床のような細長いホールで内装空間が非常に美しく、色彩感、グラディエーションが豊かな明晰な音響を誇る素晴しいホール。

癌からのリハビリをかねた小澤征爾さんが、欧州に遠征して、このヴィクトリアホールで、室内楽を振っている。NHKが帯同して、取材で報道された。もちろん小澤番のゴローさんも帯同して、この公演を全収録して、BD-Rに納めてある。このBD-Rは、小澤さんとゴローさんだけが持っている2枚だけしか存在しないもので、ゴロー調布邸で見せてもらった。その美しい空間のホールに魅せられて、将来ぜひ行きたいと思ったホールだ。

そんなスイス・ロマンド管。なんとあのベルリンフィルのカラヤン時代の名コンサートマスターであったミッシェル・シュバルベもベルリンフィル前はこのオケにお世話になっていて、ベルリンフィル移籍後もたびたび客演している。

最近ではPENTATONEの看板オケとしてすっかり定着し、ヤノフスキもこのオケを率いてブルックナーの作品を数多残している。

そんな歴史あるオケを、最近成長著しい新鋭の山田和樹が指揮する。2009年デビューだが、自分にとっては1昨年のSKF松本で小澤さんの代演で一躍著名度を上げた感じだ。インタビューを聞いていても頭の良いイメージで、将来有望という感が強い。山田和樹は、スイス・ロマンド管の首席客演指揮者だそうで、このオケを率いて、今年サントリーで、ソリストに樫本大進を迎えて、来日公演を行う。すごい楽しみな公演である。(もちろん行く!)

そんなこともあって、ジャケットから入ったアルバムだけど、このコンビの有望性も含め、その新譜を聴くのを楽しみにしていた。

これが聴いてみて、じつに素晴しかった。
期待を裏切らない、というか、録音の良さと選曲の素晴しさ、が両立していて、じつに素晴しい。

録音場所はヴィクトリアホール。2013年2月のほやほやの最新録音だ。

ソリッド(硬質)&ウォーム(軟質)と言われれば、どちらかというとほんのりと柔らかい響きが漂うやわらかい質感の音色で、じつに綺麗に録れている。ホールトーンの空間の感覚も広い。SACDマルチで聴いているのだが、グッと広がるステージ感が快感で、その空間をオケの旋律が朗々と鳴るのがなんと美しいことか!

トーンマイスターは、バランスエンジニアと編集を、ゴローさんお気に入りのエルド・グロードが担当している。彼もフィリップス時代からのベテラン・エンジニアだ。

特筆なのは、録音の良さというオーディオ的なファクター以上に、やっぱり楽曲の素晴しさだ。

オーディオファイルが好みそうなドカンドカン系の旋律があると思えば(拙宅のマンション環境では、この部分はツラクてこの部分だけかなりVOL下げます。(笑))、浮遊感のある、いかにもフランス音楽という感じの優雅に流れる美しい旋律、本当に全編聴いていて、捨て曲が全くない素晴しい珠玉の作品群なのだ。

これは本当に当たりのディスクだと思う!
私にとって今年の3本の指にきっと入ってくるだろう優秀録音盤だと確信している。

ジャケット良ければ、中身もよし!騙されたと思ってせひ聴いてみてください。



ベルリン・イエス・キリスト教会の名録音 [ディスク・レビュー]

mixiのつぶやきでも特集したが、ただいま(2013年10月)ベルリンフィルハーモニー創立50周年ということで、盛り上がっている。 Facebookのタイムラインで、50周年創立のお宝の歴史フォトが頻繁に流れてくるので、否が応でも目にしてこちらとしては意識させられるわけだ。

自分は、カラヤン/ベルリン・フィルが基本ルーツなので、欧州3大ホール(ベルリンフィルハーモニー/ムジークフェライン/アムステルダム・コンセルトヘボウ)(世間では、ボストン・シンフォニーホールを入れてシューボックス型の音響優越さで3大ホールと呼んでいるようだが、自分的には納得できない。)の中でもベルリンフィルハーモニーホールが1番好きだ。

そんなフィルハーモニーが、2008年5月に火災を起こした時に、レコーディングを控えていたベルリンフィルは、ベルリン・イエス・キリスト教会で録音をおこなった。そんなこともあって、この教会のことを久しぶりに思い出して、ネットで検索したら、こんなディスクを発見した。 

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ベルリン・イエス・キリスト教会の名録音(DG)


特にヨーロッパで、クラシック音楽のレコーディングで頻繁に教会が使用されるのは、教会の広い空間が録音に理想的な長い残響を生み出すからである。

DG(ドイツ・グラモフォン)が1949年から70年代半ばまでに行ったベルリンフィルとの録音の大半は、このベルリンのダーレムにあるイエス・キリスト教会が会場として使用された。カラヤンだけでなくベームをはじめ、いろいろな指揮者たちがこの教会を録音場所に使い、いわゆる名盤生産基地として名を欲しいままにしてきた本当にクラシック界の中のメッカ聖地なのである。

ヨーロッパにはそれこそ教会は無数にある訳で、自分はそのどれでもいいという訳ではなく、こういうクラシックの名録音場所として使用されてきた教会に特に惹かれるものがある。

1963年にフィルハーモニーがオープンしたとき、じつは音響がいまいちで、カラヤンは、レコーディングの時はフィルハーモニーを使わずに、イエス・キリスト教会を使い続けていた。その後、フィルハーモニーは反響板を設置したり、ステージの高さをいろいろ調整することで、ようやくカラヤンの満足のいく音響になったのは、その10年後だったと言われている。

その後、ようやくベルリンフィルはレコーディングするときは、何ヶ月前からフィルハーモニーでみっちりリハーサルを積んで、ここでレコーディングするようになって現在に至るのである。

3年前にただの海外旅行ではなくて、音楽鑑賞旅行をメインにした新しい旅行スタイルをスタートさせて、その最初の地にベルリンを選んだ。ベルリンフィルが自分の基本なので、フィルハーモニーでベルリンフィルを聴く、ということを目標に.....そのときにベルリンフィルの録音場所として有名なこのイエスキリスト教会も訪問した。

このときの訪問の様子は、私のブログに掲載されていますので、ぜひご覧になってください。

ノンノンのブログ:ベルリン・イエス・キリスト教会訪問→
http://akira-nonaka.blog.so-net.ne.jp/2012-11-13

ベルリン・イエス・キリスト教会は、プロテスタント系の教会のせいなのか、外観、内装空間ともいたってシンプルな構造。ヨーロッパの教会にありがちな派手な装飾を施した内装空間とは縁遠い世界だ。

ベルリン・イエス・キリスト教会
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内部の様子(祭壇)
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オケの収録をするときは、写真の緑の椅子をすべて後方に追いやり、スペースを作って、そこにオケを入れる。正直オケが入るには少々狭い空間であるように感じた。

16型でもう精一杯という感じだろうか。私が訪問した時は、カラヤンは祭壇のところに立って指揮をすると説明を受けたが、その後、ネットでいろいろな写真を観ると、指揮台も用意して、特に祭壇であることに拘らず、自由にロケーションを作っているみたいだ。録音のためのマイクは、もちろん床に立てるスタンド型。

でも録音の度にオーケストラの全ての楽器と録音機材を運び込み、この教会にセッティングするのはかなり大変だったことだと思う。おまけに当時は空港の離着陸進入路が上空にあった為、1回の録音セッションは「30分以内」だったとか。まさに録音テープの継ぎ接ぎで全曲を仕上げる時代であったのだ。

ベルリン・イエス・キリスト教会内部でのレコーディング風景(セッション録音)
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そこで既述のディスクを発見したことで、いわゆるこの教会での録音はどのような音のテイストなのだろう、と改めて聴き込んでみたくなったのだ。いらゆるカラヤン前半期の録音は、ほとんどこの教会でやっているので、ならば、カラヤンの膨大なライブラリーの中から、探せばいいだろう、となるが、これははっきり言って不可能。カラヤンの録音は、本当に膨大な数で、その中から録音場所のクレジットをチェックするなんて気が遠くなる。

このディスクの選曲は、1961年~1972年のこの教会でのベルリンフィルの録音を集めたもので、しかもオムニバスだ。
指揮者もカラヤンをはじめ、ベーム、ヨッフム、クーベリックなど多彩な陣営。

さっそく聴きこんでみると、やはり録音の古さが目立つ。ふだん最新録音の音を聴いているとVividな鮮度感というか、全体的な音調コントラストの明るさ、そしてダイナミックレンジの広さ、という点で、やはり録音技術の古さは否めない。

でもそういう録音条件の悪さの中でも、この教会の空間の響きは、音調表現の幅が大きく、非常にナチュラルな響きから、光沢のある質感まで広範囲に分布している、というか響きのボキャブラリーが多いのがよくわかる。

ふつう教会の響きというとすごく残響が長くて多いイメージがあるけれど、このイエスキリスト教会の録音を聴くと、決してライブじゃない。編集時に加工しているのかもしれないけれど、本当に自然の音色の余韻というか、きわめてナチュラル。たとえばオケがジャーン、という感じで演奏するときもその響きは長くも短くもない適切な長さで、その余韻から程よい空間の広さの感覚が感じ取れる。

教会というよりもコンサートホールに近い感覚。この教会っぽくない自然な音響感覚が、レコーディング場所によく使われた理由なのかな、とも思ったりする。ただ、如何せん、この時代の演奏は、あまり上手でもない。(苦笑)そんなこともあって、録音技術が古いのと演奏が上手でない、ということもあって最初聴いたときはピンとこないのだけど、でもその中にもこの教会の響きの音調表現の素晴らしさは嗅ぎ取れるのだ。

ネットで調べると、新しい録音でもっといいディスクを見つけた。 

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小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ
ブラームス交響曲第4番、ハンガリー舞曲


1989年のベルリン・イエス・キリスト教会でのセッション録音で、サイトウキネンにとっては、はじめてのスタジオ録音だったのだそうだ。これは先のディスクよりも遥かに素晴らしいと思った。やっぱり録音年代が違うとこうも録音技術が違うのか、というくらい。

先のディスクと比較すると、ダイナミックレンジがずっと広く、響きもややライブ気味。でもこれもやはり決して教会っぽくない。空間の広さが素晴らしく感じられる。こうなるとこの教会の空間の響きの音調表現の素晴らしさがよくわかりやすくて本当にヨイ。


あと、3年前のベルリン旅行の時にこの教会訪問の日記にゴローさんからこの教会録音のディスクを2枚紹介してもらった。 

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牧神の午後への前奏曲、夜想曲、『ペレアスとメリザンド』組曲 
アバド&ベルリン・フィル、パユ



これは実に秀逸。特に牧神の午後への前奏曲はあまりに素晴らしく、いままでこの曲で自分が満足できる演奏になかなか出会えなかったのだが、この演奏に出会ってまさに溜飲を下げる思いだった。この曲でいまだにこの演奏を超えるものには遭遇していない。後半はライブ録音で場所が変わってしまうのだが、この牧神の午後への前奏曲だけでも買う価値あり。

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ボレロ、道化師の朝の歌、スペイン狂詩曲、海原の小舟、『マ・メール・ロワ』全曲 
ブーレーズ&ベルリン・フィル



これもこの教会でのセッション録音で、これもじつに秀逸。ホントに演奏、録音、選曲この3つがすべて揃っている珠玉の作品。フランス音楽特有の浮遊感、そしてラベル特有の色彩感、すべてにおいて完璧なまでに表現されていて、このディスクはオーディオマニアのみならずみなさん絶対に必須のディスクだろう。ホントに、ホントに、素晴らしいディスク。騙されたと思って、ぜひ買ってみてください!絶対後悔しません!


こうやっていろいろこの教会録音のディスクを聴いてきたのだが、総じて、およそ教会らしくないコンサートホールに近い感じの空間表現、響きの多彩さ、そんな特質が、この教会がいまでも現役の録音場所として活躍し続ける秘密なのじゃないのかな、と自分の中で結論付けてみている。



グルベローヴァの声は鳴るのだろうか?:ディスク聴き比べ [ディスク・レビュー]

自分にとって長年の憧れだったディーヴァであるグルベローヴァの声をじっくりと聴きこんでみた。全曲オペラを聴くのは、少しツライので、オペラ・ アリア集などの小作品集を選んで当初6枚の予定だったのが、結局さらに2枚追加で8枚のディスクを徹底的に何回も聴きこんだ。

 
エディタ・グルベローヴァ
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この人の声が自分のオーディオで鳴るかどうか、というのがひとつの試金石で、鳴らなかったらかなりショックで大至急、女性ソプラノ再生の対策をしなければならなくなる。

結果から言うと、破綻のない素晴らしい再生ができた、と思う。女性ソプラノ再生というのは、オーディオにとってかなり負担をしいる音源で、フルオーケストラよりも厳しい。自分のオーディオで女性ソプラノ歌手の描き分けがうまく行えるかどうか、という点が結構勝負どころで、世界最高のソプラノであるグルベローヴァの声が再生できれば、と思って挑戦してみた。

自分の思うところでは、女性ソプラノ再生のコツは、自分のシステムに適した再生時のボリュームコントロールのポイントを見つけることだと思っていた。

女性ソプラノの周波数帯域は、〜10KHzがせいぜいのところで、現代の最新スピーカーなら再生帯域は大抵20〜30KHzまでカバーしているし(自分のSPは50KHz!)、レンジ的には十分余裕がある。問題は、グルベローヴァのようなコロラトゥーラ・ソプラノ歌手は、まさに超高音域を高速で上下にトリルする音階なので、それにユニットの追従速度がついていかず、ボワンボワンに聴こえてしまうのが心配だった。

またいろいろ調べてみたのだが、女性ソプラノは、ワイドレンジよりもナロー気味に設定したほうが綺麗に聴こえる、という理論もあるようで、こうなると理屈ばかりコネていても仕方がなく、まず聴いてみるしかない、と言ったところだった。ただ、自分のシステムのD-レンジにあったボリューム設定が必要なことは確かだろう、と思って、そこに留意した。

グルベローヴァのディスクは1980年代〜2000年代の古い録音が多く、再生クオリティーを心配したが、結果は優秀な録音が多く、古い録音であることを感じさせなかった。

これは本当に嬉しかった。まぁ1950年代〜1960年代の頃とは違う訳で、もうこの時代になればある程度の現代録音に近い世代なのだろうから当然なのかもしれない。

オペラ・アリア集が大半なので、ほとんどがライブ録音。観客のいるホールで歌っているのを録ったものだ。再生してみるとホールの空間の暗騒音がよくわかる。共通して言えるのは、編集時にそうしたのかわからないのだが、エコー(響き)成分が多い。声ものは綺麗に聴こえるように編集時にエコー成分の化粧をさせることが多いのだが、そんな感じがあった。その化粧が余計に空間の広さを強調する感じで、いかにもホールで歌っているという空間の広さを感じさせる臨場感がある。でも大半のディスクがそれがいい方向に働いていて、グルベローヴァのあのクリスタルな輝きの声がじつに美しく聴こえて圧巻だった。

でも化粧のしすぎで、いただけない録音もあった。要はエコー成分が多すぎて、実音が奥に引っ込む感じ、音像がぼやける感じの録音もあった。わかりやすく例えると、風呂場で歌っている感じである。(笑)

今回購入した8枚はほとんどが、オペラ・アリア集なのだが、その中の2枚は歌曲集、つまりリートだった。(シューベルトとR.シュトラウス)オペラ・アリア集がライブ録音であったのに対し、この歌曲集リートはセッション録音。セッション録音だけあって、この2枚は抜群に録音が良かった。

一瞬聴いただけで、すぐに、あっこれは録音がいい、という感じ。変な化粧もしておらず、本当に素晴らしい。自分がお勧めするなら絶対この2枚だと思った。反面、オペラ・アリア集は、コロラトゥーラ、いわゆる彼女の1番の見せ所の”こぶし”が聴けるわけだが、この2枚はいわゆるリートなので、そのこぶしは聴けず、ノーマルな歌い方。でもトータルなバランスとしてなら、録音の良さ、彼女の美声、そして素晴らしい歌曲ということで、最高の作品でお勧めだ。

それでは、それぞれのディスクについてレビューしていこう。 

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シューベルト歌曲集
http://bit.ly/19KIJBX

去年の2012年に発売されたグルベローヴァの最新アルバム。ナイチンゲール・クラシックスというレーベル。不詳にも私が知らないレーベルだが、彼女をずっとサポートしてきているレーベルのようだ。彼女が若いころからリートにも意欲的だったが、まとまった作品としてはR.シュトラウスで出してるぐらいで珍しい。今回は歌曲王のシューベルトの有名な作品どころのほとんどを、彼女の美声で聴けるのだから本当に素晴らしい。ウィーンのスタジオで録音されたセッション録音。とにかく録音が素晴らしい。トレイに入れて出てきた音を聴いて、おっこれはいい録音だねぇ、と思わず思った1枚だ。音に鮮度感があって、音のステージが空間に浮かび上がる感じなのだ。グルベローヴァのクリスタルな美声を、最新の新しい録音技術で聴いてみたい、と常々思っていた自分にとっては、まさに溜飲を下げる1枚だった。秀逸なシューベルト歌曲を彼女の美声で、しかも最新の優秀録音で聴ける。私が1枚お勧めするなら絶対このディスクだ。

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R.シュトラウス歌曲集(献呈)
http://amzn.to/169MElJ

1990年のベルリンでのセッション録音。レーベルはTELDECクラシックス。もともとは38曲入りの2枚組のCDだったのだが、それを日本のワーナーミュージックが29曲入りの1枚のCDとして販売している。それが私が今回購入したディスク。
古い録音なのだが、セッション録音だけあって、綺麗に録れている。決して先のシューベルト歌曲集に聴き劣りしないくらいの優秀録音だ。特にピアノの響きの余韻の美しさは、断然こちらのほうが遥かに美しい。シューベルト歌曲集に比べて、よりふわっとした感じの質感の柔らかさがあって、鮮度感も抜群。とにかくピアノの音色が綺麗。このように録音がいいと彼女の美声はますます映える。彼女は歌曲リートの分野では若いころからR.シュトラウスの作品に力を注いでいたようで、このCDも示すように彼女は有名でない曲も採り上げており、シュトラウスの多彩な歌曲の世界を世に知らしめた功績は大きい。

グルベローヴァと言えば、コロラトゥーラ技法ばかり取り沙汰されるけど、こういうリートの世界もとても魅力的。
オペラ・アリア集は雑なライブ録音で古い録音が多いので、ぜひ、このシューベルトとR.シュトラウスの歌曲集の2枚は素晴らしいセッション録音で彼女の違ったもう一面の魅力が満載なのでお勧め。


 
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ベッリーニの肖像〜オペラ・アリア集
http://bit.ly/169MNFC

ベルカント・オペラの中でも彼女が最も力を入れたのがベッリーニのオペラ。ナイチンゲール・クラシックスに、このベッリーニの「夢遊病の女」、「ノルマ」、「ベアトリーチェ・ディ・テンダ」、「清教徒」の4つの全曲録音を残している。その全曲録音の中から名場面と狂乱の場を抜き出して、さらに2曲を追加したいわゆるベッリーニ・ベストというディスクだ。私は今回購入したオペラ・アリア集のライブ録音の中では、このディスクが1番素晴らしいと思う。ベッリーニの作品が素晴らしいのはもちろんだけど、彼女のコロラトゥーラ技法満載で、しかもライブ録音にしては、既述のエコーなどの化粧も少なく優秀録音だからだ。1990年代から2000年初頭の録音なので決して新しい録音とは言えないけれど、まったく古さを感じさせない素晴らしい録音だと思う。彼女のオペラ・アリア集を買うならこの1枚は外せないと思う。 

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フランス、イタリア・オペラ・アリア集(鐘の歌)
http://bit.ly/19KJaw4

1980年代の彼女が30歳代の絶頂期に歌われた作品で、本当に有名な作品のオペラ・アリアを集めたディスク。1981年のライブ録音。レーベルはEMI。ドニゼッティやロッシーニなど本当によく聴いたことのある有名作品ばかりを集めた感があって、聴いていて本当に楽しいし、素晴らしい。もちろんコロラトゥーラ技法満載で、コロラトゥーラの難曲とされているアリアの有名な数々を、彼女の絶頂期の頃の技法で歌う凄味がまた一味も二味も違う。このディスクの1番の売りは彼女の絶頂期、というところ。彼女のオペラ・アリア集は、上のベッリーニと、この1枚があれば、それで十分かな、と思う。録音の味付けは、ややエコー成分の化粧が多いところが、気になるが、古い録音の割には録音自体は悪くなく、そんなに古さを感じさせない。 

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夜の女王のアリア〜コロラトゥーラの女王
http://amzn.to/19KJg72

彼女の十八番である「魔笛」の夜の女王のアリアや「ルチア」の狂乱の場などを歌った1枚で、これも上のアリア集と同じでいろいろな有名なアリア集を集めたもの。元々の楽曲のレーベルはTELDECクラシックだが、それをワーナーが1枚のディスクにしたようだ。1987〜1992年の録音。ネットでは、グルベローヴァのレファレンス・ディスクとして、この1枚を上げる記事が多かった。確かに選曲は、誰でもが知っている有名なアリアばかり。録音はライブ録音で、エコーの化粧が多い。


 
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モーツァルト コンサート・アリア集
http://bit.ly/19KJpr7

演奏会のための独立したアリアとしてモーツァルトの作品を歌ったコンサート・アリア。アーノンクール&ヨーロッパ室内管との共演。1991年の録音。この録音が、いわゆるエコー成分が多すぎて、音像がぼやける感じに聴こえた、いわゆる風呂場で歌っている録音。ちょっといじりすぎ。(笑)作品自体、素晴らしい作品が多いのに、こうやって録音がよろしくないとオーディオファンからすると、そのファクターだけで聴く気が失せてしまうから勿体ない話だ。



そして、今回は間に合わなかったが、ザルツブルクで1番のお気に入りのホールであるモーツァルテウムで、1980年のザルツブルク音楽祭でのリサイタルを収めたCD。あの素晴らしい音響のホールでの歌曲リサイタル。これは聴きたい!さっそく注文している最中です。
 
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グルベローヴァ 1980年ザルツブルク音楽祭ライヴ
http://bit.ly/169NizF


こうして彼女のライブラリーを思う存分楽しませていただいたが、彼女の素晴らしい声質、コロラトゥーラ技法、まったく自分のシステムで破綻することなく楽しむことができた。そんなに心配するほどのことでもなかった。(^^;;)

気をつけていたボリュームコントロールのおかげなのかもしれない。拙宅はマンションなので、あまり大音量も出せない、ということもあって、耳にキツク感じたり、クリップするほどの大音量は最初から出せるはずもなく、適正音量で楽しめればそれで十分なのである。

でも専用リスニングルームで広い部屋の場合で、大音量にした場合に、システムの破綻は起きる可能性は十分にあると思っている。

グロベローヴァの声は鳴るのだろうか? [ディスク・レビュー]

結局この人の生声を聴くことはとうとうなかった......エディタ・グルベローヴァ。
去年のウィーン国立歌劇場の来日公演での「アンナ・ボレーナ」を最後に日本での引退宣言をしてしまった。ボヤっとしていた私はその事実を公演終了後に気づいて地団駄を踏んだものだった。

40年以上もオペラ界でトップを走り続け、現在67歳で、2015年以降のスケジュールも意識的に空白らしく、そのまま引退もありうる。「コロラトゥーラの女王」とか、「ベルカントの女王」の異名をとり、その圧倒的な歌唱力は、まさに世界最高のソプラノ。

エディタ・グルベローヴァ
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自分はCDでしか聴いたことがないけれど、彼女の声を一言で表現するなら、”クリスタル”という感じだろうか。
超高音域につけ抜けるその透明感は、まさに驚異的な美しさがある。そして彼女の代名詞である、高音域で自由自在にクレシェンド・デクレシェンドして、速いフレーズの中に、軽快に音階を上下するコロラトゥーラと呼ばれる歌唱法。

この人の声、このフレーズを聴くと、まさしく天からの授かりものという感がある。

最新世代のソプラノ女王としてネトレプコがいるが、彼女の声も確かにスゴイ。彼女の凄いところは声だけじゃなくて容姿端麗という天は二物を与えずという常識を堂々と破っているところ(笑)。

でもソプラノなのだけれど彼女の声質には、どこか低域成分の基音が混じっている感じで、クリスタルな透明感という点では、グルベローヴァの声質にはかなわない、と感じる。

グルベローヴァの凄さを伝える言い伝えとして、こんなことがあった。
私のブログに寄せられたコメントなのだが、私が声楽、つまりオペラなどの歌手の声は指向性がある、と書いた。つまり音の伝わる方向の角度が狭くて、歌手の向いている方向の座席に座っている人たちと、その方向から外れている座席に座っている人では、その声の聴こえ方が違う。だからオペラものは、結構座席選びは重要と書いた。(指向性があるのはピアノもそうです。)

そうすると、普通はそうだけど、グルベローヴァだけは例外で、この人の声はどこの席に座っていても同じに聴こえる、全方位の無指向性だというのだ。まぁそれが可能なだけの歌唱力、声量なわけで、そのようなコメントも確かに私には納得いく感じがしたものだった。

そこで、ここからが本題で、ずっと昔から思っていたことなのだが、このグルベローヴァの声(ディスク)が自分のオーディオできちんと再生できるのか?という想いがあった。

女性ソプラノという分野は、オーディオ再生にとって結構厳しいジャンルなのだ。女性ソプラノはアンプやスピーカーにとってかなり負担をしいる音源で、フルオーケストラよりも厳しい場合が多い。自分のオーディオで女性ソプラノ歌手の描き分けがうまく行えるかどうか、というのは結構自分にとって試金石で、これが鳴らないとなると、かなりショック。(笑)げっそり

オーディオ再生であれば、新しい録音のほうがいい訳で、その点グルベローヴァは古いアーティストなので、残念ながら彼女のライブラリーは古い録音が圧倒的に多い。だったらネトレプコの新しい録音を使えばいいじゃないか、というかもしれなけど、そこはやっぱりグルベローヴァなのである。

彼女のクリスタルな輝きの声をどこまで忠実に再生できるか?特に彼女のコロラトゥーラな旋律は、まさに超高音域を高速で上下にトリルする音階で、スピーカーのユニットに相当負担をかける(コワイ!)ので、それを克服してこそ、挑戦しがいがある、というもの。

という訳で、彼女にターゲットを絞って、この世界最高のソプラノに挑戦したいのである。

もう彼女のディスクは6枚くらい買い込んだ。オペラ全曲はさすがに聴くのがツライので、オペラ・アリア集などの小作品集を選んで買い込んだ。試しに数枚さらっと聴きこんだが、なかなかイイ感じ。(笑)

今週末の3連休にじっくりと聴きこんで、ディスクレビューも含めて報告したい、と思います♪
彼女の生声は聴けなかったけど、こういうアプローチもオーディオ・ファンらしくていいでしょ?(笑)

果たしてグルベローヴァの声はきちんと鳴るだろうか.....?


クラリネット奏者マルティン・フレストのオール・モーツァルト・プログラム [ディスク・レビュー]

今夏のルツェルン・ザルツブルク大旅行の予想外の予算オーバーは本当に痛かった。おかげで旅行モードも終わって、オーディオライフに復帰したいと思っても、緊縮財政の生活で、新譜を思う存分買うこともままならない始末。(^^;;)
しばらくチェックしていないうちに、BISやPENTATONEなどの新譜もかなり出ている。

その中で、敢えて気になる1枚ということで、どうしても入手したいディスクがあった。スウェーデンのクラリネット奏者マルティン・フレストの新譜。フレストはいわゆるBISのお抱え看板スターで、10年前から、もうすでに何枚もBISからリリースしている、この母国スウェーデンのレーベルに奉公してきているアーティスト。

いわゆるクロスオーバー的エンターテナーという立ち位置で、クラシックに限らずいろいろなジャンルの名曲をクラリネットでフィーチャリングした小作品集が得意なのだが、単に演奏するだけでなく、本当に歌って踊れるユニークなエンターテナーでもあるのだ。 

特に前作の「マルティン・フレストと仲間たち~アンコール集」はじつに秀逸な作品で、バッハの曲やラフマニノフのヴォカリーズ、ショパンのノクターンなど本当に有名処の小作品を集めてクラリネットで奏でるその作風はじつにお洒落で聴いていてBGMとしては最高の1枚だった。ゴローさんも日記で取り上げていて、年間のゴロー・アカデミーにもノミネートされた1枚だったと記憶している。 

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マルティン・フレストと仲間たち~アンコール集

そんなフレストの久々の新譜。今回はオール・モーツァルトの作品。
これはぜひ聴きたい、欲しいと思った。金欠であっても、どうしてもこの1枚だけは、と思ってなけなしのお金で思い切って購入した。いまの自分にとっての渾身の1枚である。 


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マルティン・フレスト オール・モーツァルト・プログラム
(クラリネット協奏曲、ケーゲルシュタット・トリオ、アレグロ変ロ長調)


このアルバム、モーツァルトのクラリネット協奏曲、ケーゲルシュタット・ トリオ、アレグロ変ロ長調の3曲からなっていて、目を引くのは、その競演陣の豪華さ。

冒頭のクラリネット協奏曲こそ自分の指揮振りでブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニーとの共演のだが、ケーゲルシュタット・トリオはピアノ、クラリネット、ヴィオラの三重奏曲で、ピアノにレイフ・オヴェ・アンスネス、ヴィオラ奏者に俊英アントワーヌ・タムスティを迎えているし、アレグロ変ロ長調は、クラリネットと弦楽四重奏曲なのだが、ヴァイオリンにいまや大人気のジャニーヌ・ヤンセンを迎えている。

まさに10年余やってきたフレストのキャリアに華を添える記念アルバムになりそう。今回は寄り道をしない本筋のクラシックの王道を極めたアルバムなのだ。

さっそくトレイに入れて流れてきた旋律は、いまはもうすっかり秋のシーズンなのに、まるで真夏のシーズンに避暑地の森林の中の別荘で聴いているみたいな爽やかな美しい旋律が流れてきた。聴いていてうっとり。

モーツァルトなんてって揶揄したこともあったが、やはり彼の音楽性の高さは認めざるを得ない。本当に珠玉のような作品集なのだ。

やっぱりそう思わせるのは録音の良さ。とにかく美音なのだ。クラリネットの音色というのは、とにかく耳に優しい。同じ木管楽器でもフルートは少し金属音的だし、オーボエはそれよりソフトだが、強奏のときに少し耳にキツイ。クラリネットは丸みの帯びたソフトな質感で、ほんわかしていて、聴いていてとても癒される。

オケの音色もやわらかい質感でホワっとした感じで音のステージが浮かび上がってくる。全体の印象として優しいソフトな感じ。それがモーツァルトの軽やかな旋律によく合う。

BISらしいダイナミックレンジの広い録音で、立体的に聴こえてくるのも相変わらず素晴らしい。2曲目のアンスネスのピアノの響きの残像の余韻なんてすごい美しいのだけど、3曲中、やっぱり最初のクラリネット協奏曲が1番くるものがある。

プロデューサー&録音エンジニアは、前作と同じHans Kipfer氏。でも前作より音のテイストは全然今回のほうがずっとイイ! まさに芸術の秋到来の今日だけど、それにふさわしい、まさしく”美音”という言葉がぴったりの優秀録音だった。

苦労してやりくりしたのだが、十分その甲斐があって愛聴盤になりそうでホントにヨカッタ!

やっぱり新しい録音はイイ!

ベルリン・コンツェルトハウス室内管のデビュー新譜 [ディスク・レビュー]

ベルリンの有名スタジオがCDを発売!というHMVのサイト記事に思わず反応してクリックしたら、思わぬ朗報というか素晴らしい情報に巡り会えた。あのベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の室内アンサンブルである「ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラ」のデビューCDがついに出るという。

もともと親元のベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団は伝統あるオケなのだが、室内楽のほうは2009年に設立された新しいアンサンブルで、当面は演奏会中心の活動で不思議といままでCD制作までに至らなかった。

ところが2013年、つまり今年!に設立されたB-sharpというベルリン発信の新レーベルからついにデビューということに相成った。

レーベル代表は、トーンマイスターのフィリップ・ネーデル。これまでに、ソニー・クラシカル、DG等のメジャーレーベルで録音を行い、アーノンクール、バレンボイム、マイスキー、アルゲリッチ等のCDを収録してきている。彼のキャリアとして、なんでも、あのベルリンの名門スタジオであるテルデック・スタジオで長年クラシック・エンジニアを経験してきて、Living Stereo SACDシリーズのマスタリングも行った名サウンド・エンジニアとして名を馳せた人物だそうだからすごい期待できそうな高音質レーベルだ。

最近思うのは、こういったメジャーレーベルで敏腕を振るってきたトーンマイスターが、サウンド指向にこだわったマイナー高音質レーベルを独自に立ち上げるというのはじつに多いパターンだなぁ、と感じることだ。

メジャーレーベルという大きな組織では思うように自分のサウンド造りというか、エゴを押し通せないというもどかしさがあるのだろうか?

B-sharpのCDは、すべてネーデル自身のプロデュースにより制作・収録される。今後は、年間5~6タイトルのペースで、クレーメルなどの有名アーティスト、新進アンサンブル等の録音を発表してゆく予定だそうだから、本当に楽しみなレーベルがまたひとつ増えた、という感じだ。

いまのところSACDを導入する、という話はないみたいなので、まずはCDの2.0chの王道で攻める感じなのだろう。

ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラの芸術監督は、日下紗矢子(ベルリン・コンツェルトハウス管第1コンサートマスター&読響兼任)。彼女のもと、プログラム、編成、ソリストの決定は、団員自身によって行われる「メンバーによる自主運営」をモットーとしている。

フランチャイズは、旧東ベルリンにあるコンツェルトハウス・ベルリンの室内楽ホール。去年のGWにじつは、この室内楽ホールを体験してきた。

コンツェルトハウス・ベルリン 
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室内楽ホール
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ドイツ分裂時代は西ベルリンにあるベルリン・フィルハーモニーに対して、東ベルリンにあるコンツェルトハウス・ベルリンという位置づけで、東ベルリン独特の一種の陰影感のある内装美を備えたじつに美しいホールだった。音響は大ホールがかなりライブなのに対して、室内楽ホールはデッドな空間だった印象がある。同じ建物の中にあるのにこれがじつに不思議だった。

今回の新譜もこの室内楽ホールでのセッション録音。 
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http://bit.ly/18ojuEw

シューベルト:『死と乙女』(マーラー編)
ショスタコーヴィチ:室内交響曲 
ベルリン・コンツェルトハウス室内管

録音時期:2013年3月14日
録音場所:ベルリン・コンツェルトハウス室内楽ホール
プロデューサー:フィリップ・ネーデル
エンジニア:マルティン・キストナー
編集:ハンスイェルク・ザイラー


じつはこの盤、デビュー盤にして来日記念盤でもあるのだ。いままさに彼らは来週末にかけて来日真っ最中なのである。これに気付いたのが遅すぎて、ちょうど首都圏では7/7に横浜のフィリアホールで公演する予定のようで、ぜひ行きたかったのだが、この日は水戸で水戸室の定期公演を聴きに行くのでバッティングしてしまった。本当に残念だ。

特筆すべきは、シューベルトの死と乙女。もともとリート作品から弦楽四重奏という流れを汲んで、後にマーラーによって弦楽合奏に編曲された。本録音もそのマーラー編なのだ。

私はこの曲はかなり大好きで、とくにリートのほうは、死へと誘う悪魔のささやきと、それに抗する乙女の言葉から成り立っていて、シューベルト自身の死生観が表明されたものと言われている。

行き場のないメランコリックな叙情豊かな感じがして、歌そのものが作品を支配しているところが好きなのだ。

弦楽四重奏を経てマーラー編。コントラバスも加わっていて弦楽は5部となり、その響きも厚く、聴きなれた弦楽四重奏のスリムな感覚からすると、最初戸惑う(笑)。でも次第にマーラーの施したダイナミックに増幅された豊かな響きに酔いしれることができるようになるのだ。特に第2楽章が素敵。またショスタコの室内交響曲もスゴイ。演奏の一瞬一瞬に緊張感があって、とてもクセになる旋律。これも大好きな曲。

今回のこのデビュー盤を聴いて想うことは、彼らの演奏は、非常に個々のテクニックが高く、精緻なアンサンブルが見事で、完成度の高いユニットであるとこのディスクを聴いて感じることだ。ぜひ彼らの生演奏を聴いてみたかったなぁ。

彼らのこのデビュー盤、ぜひ聴いてみてください。この選曲の良さ、録音の良さ、絶対に保証します!


さてB-sharpレーベルの音造りはどのようなものか?
ずばりやはり音がいい!よかった!まず第一印象なのは、とてもソリッド(硬質)な音質。音の輪郭がくっきりしてシャープな音造りだ。そしてホール空間がはっきり認識できる奥行き情報がしっかりとディスクに含まれている音場型の録音。空間表現が素晴らしい。この室内楽ホールを生体験した時は、デッドな空間に感じたのだが、今回の録音は、どちらかというとほんのりとライブな響きに感じる。ただ、ソリッドな感覚が優先するので、低音不足というか聴感上の下支えとなる全体の潤い感に欠ける感もあるかな、という感じもする。でもバランスとして、とても”美録音”という言葉がぴったりの優秀録音だ。透明感がある、という表現がいいかな。本当によかった。安堵した。

シューベルトの死と乙女では、じつは水戸室の録音も素晴らしいのだ。私のいままでの愛聴盤だ。(↓) 
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http://amzn.to/18ojG6S

こちらは正反対でウォーム(軟質)な音質で、全体的にふわっとした感じで、対照的だ。でも音のエネルギー感があってとても素晴らしい優秀録音。こちらも捨てがたい。ぜひこちらも聴いてみてください。


思うに、SACDのマルチというフォーマットを使ってしまえば、そりゃ情報量も多いわけだし、ダイナミックレンジも広いのは当然で音がいいのは当然なのだ。レーベルとしてそういうフォーマットを採用してしまえば、安易に高音質を狙える。

でも2chソースで、このような空間の広い美録音に仕上げるのは、トーンマイスターにとっては、これはこれでひとつの腕の見せ所、ノウハウが多いところなんじゃないかな、と思う。2chソースで優秀録音というのもとても魅力を感じる。

このB-sharpという新レーベルの音造り、間違いなく本物!代表のフィリップ・ネーデルのこだわりがしっかりと伝わってくる。日下紗矢子率いるベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラの今後の活躍とともに、この新レーベルが発信する新譜も見逃せない。


myrios classics というレーベル [ディスク・レビュー]

2009年に設立されたmyrios classics。
最近知ったサウンド指向型のドイツの高音質レーベルである。現在35歳という若きシュテファン・カーエンという人が設立したレーベルで、良い音楽を高音質、高品質のフォーマットでリスナーに届けるためにレーベルを立ち上げた、というこだわりのある人で筋金入りのオーディオマニア御用達のレーベルである。

この創立者、デュッセルドルフでサウンド・エンジニアの技術を学び、並行してロベルト・シューマン大学にて音楽学も究めている、というらしいから、オーディオというハード面、そしてクラシック音楽というソフト面の両面を兼ね備えた人なのだ。我々にとって理想の人だ。

最近、このレーベルのタベア・ツィンマーマン&キリル・ゲルシュタインによるヴィオラ&ピアノ ソナタ集を偶然に購入して聴いてみたところ、スピーカーから出てきた音がオッと思う感じであまりに素晴らしい録音だったので、このレーベルについていろいろ調べたり、その他のライブラリーも購入してみた。調べるといろいろわかってきた。

まずこのレーベル、まだ若いだけあってライブラリーは非常に少ない。それも室内楽専門だ。高音質マイナーレーベルの場合、そのレーベルの屋台骨を支える看板アーティストがいるものだ。たとえばPENTATONEなら、交響曲ならヤノスフキとか、もう亡くなられたがクライツベルグ、そしてVnならユリア・フィッシャーだとか、CHANNEL CLASSICSならレイチェル・ポッジャーだとかである。

このmyrios classicsの場合、女性ヴィオラ奏者のタベア・ツィンマーマンとハーゲンSQ(弦楽四重奏団)が2枚看板なのである。

それぞれが4枚ずつリリースしていて、合計8枚のライブラリーくらいしかないのである。このレーベルの最初のリリースとして、タベア・ツィンマーマンが選ばれた。それ以来彼女はこのレーベルを支えている。

ハーゲンSQのほうは名門メジャーレーベルのDGに所属していたのだが、2011年にこのレーベルに移籍していて、彼らもこのレーベルを支えている大事なアーティストだ。

タベア・ツィンマーマンはドイツ生まれのヴィオラ奏者。ヴィオラ奏者はふつうVn奏者を経て転向する、という経緯が多いのだが、彼女は幼少時代から筋金入りのヴィオラ奏者なのである。ベルリン・フィルやライプツィヒ・ゲヴァントハウス管などのオーケストラと共演するほか、クレーメルやホリガーらと演奏している。

まさに現代を代表するヴィオラ奏者といえる存在なのだ。ゴローさんもかなり一押しのヴィオラ奏者だった。私は8枚くらいなら、ということで全部買い揃えてしまった。あせあせ(飛び散る汗)まだ届いていないものもあるが、届いたものから聴き始めている。

驚いたことに、この8枚とも共通のトーンポリシーというか、全く同じ音造りというか似たような録音のテイストなのだ。なんと驚いたことにトーンマイスターが冊子にクレジットされていない。予想なのだが、創始者のシュテファン・カーエンが自らトーンマイスターをやっているんじゃないかな、と思う。小さなレーベルだし、8枚くらいしかライブラリーがないなら、それも可能かと思う。

特徴は、空間が広く感じること。音場型というか奥行き方向が感じられる。その中で音が鳴っている感じで立体的に聴こえる。音がふわっと現れてその高いポテンシャルでずっと鳴り続けるような。こういう音造りって結構私の好みだ。そしてヴィオラなどの音がすごく音圧が大きくて鮮度感がある。タベアのヴィオラの音色が妖艶で、その空間の中で響きが長く余韻が残る感じなのでとても美しい。ピアノも透明感があって美しい。

私は大したオーディオ再生をやっていないし(笑)、駄耳だが、それでもこのレーベルの録音はオッという感じでイイと思った。

室内楽独特の各楽器のこまやかなフレージングやニュアンスも手にとるように感じられるのが印象的で、まるで生演奏を聴いているみたいだ。
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レーガー:無伴奏ヴィオラ組曲第1番~第3番、バッハ:チェロ組曲第1番、第2番(ヴィオラ版)
タベア・ツィンマーマン (SOLO) 

これはヴィオラ1本の無伴奏なのだが、これがじつに素晴らしい。妖艶な音色。


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ヴィオラとピアノのためのソナタ集第1集~ブラームス第2番、ヴュータン、レベッカ・クラーク 
ツィマーマン&ゲルシュタイン

私がこのレーベルの録音の良さを知ったきっかけになったSACD。 

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ヴィオラとピアノのためのソナタ集第2集~ブラームス第1番、シューベルト、フランク 
ツィマーマン&ゲルシュタイン


ハーゲンSQの4人は、現在モーツァルテウム音楽院の教授だそうだ。このカルテットもゴローさん一押しだった。そう思うと、もうその頃からゴローさんはこのレーベルをチェックしていたんだなぁと思う。 

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弦楽四重奏曲第3・5・16番(ベートーヴェン) 
ハーゲン四重奏団(2012)


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ブラームス:クラリネット五重奏曲、グリーグ:弦楽四重奏曲 
ヴィトマン、ハーゲン四重奏団



室内楽の素敵なところは、音数の少ないことに起因する、そのほぐれ感、ばらけ感、隙間のある音空間を感じることで、音が立体的でふくよかに感じ取れる感覚になれるところ。そんな素敵な感覚が満喫できる録音ですので、ぜひ聴いてみてください。

これらのSACDは、彼らの公式HPから直接購入したほうが、安いし、納期も早くていいですよ。(↓)

http://www.prestoclassical.co.uk/llf/Myrios/1


オーボエ奏者によるバッハ、モーツァルト作品集 [ディスク・レビュー]

スウェーデンの高音質レーベル、BISの今月の新譜に、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席オーボエ奏者アレクセイ・オグリンチュク氏によるモーツァルトの作品をオーボエでフィーチャリングした作品集がある。

この作品はとても楽しみにしていた。ぜひ日記に書きたいと思っていた。というのも、彼の前作が、同じくBISでの録音でバッハの曲をオーボエで主旋律を綴る作品で、これがじつに美しい珠玉のような作品だったからだ。ゴローさんの推薦盤でもあり、私の愛聴盤だった。

オーボエ奏者にとって、このバッハ、モーツァルトのオーボエ作品集を録音するのは、ひとつの登竜門というか、晴れ舞台、一流の証なのだ。普段は超一流オケの首席オーボエ奏者という立場で演奏し、その一方でソリストとして、このバッハ、モーツァルトを出すというのはオーボエ奏者として、まさにエリートの道まっしぐらの感がある。要はオーボエ奏者として選ばれし者だけが得られる特権だ。

私にとって、このバッハ、モーツァルトのオーボエ作品集で最初に虜になったのは、ベルリン・フィルの首席オーボエ奏者のアルブレヒト・マイヤー氏の作品。DGの録音。友人から紹介を受けたのがきっかけだった。これは衝撃で、特にバッハの作品は毎日のように聴いていたし、iPodの中にも入れて通勤時間にも聴いていた忘れられない作品。どちらかというとバッハのほうが、派手というか華麗な旋律が多く、虜になる。

それに比べるとモーツァルトはちょっと地味なのだが、でもモーツァルト独特の軽い旋律で素敵な作品であることに間違いない。バッハのオーボエ作品集のほうは、特にオーボエ奏者の定番のようでホリガー、ウトキン、ボイド、マイヤーなど 名だたる名手が同じような選曲のアルバムを作っている。

そういうこともあって、大抵まず最初にバッハを出してからモーツァルトを出すという順番が圧倒的に多い。今回のオグリンチュク氏のモーツァルト作品集もそんな経緯があって、前作のバッハに引き続くモーツァルトの作品という訳なのだ。

モスクワ生まれのオグリンチュク氏。コンセルトヘボウ管に入団する前は、ゲルギエフ時代のロッテルダム・フィルの首席オーボエ奏者で、ゲルギエフの信望厚いオーボエ奏者だった。


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アレクセイ・オグリンチュク氏(RCO) 
そんな彼も移籍してすっかりコンセルトヘボウ管の顔になりつつある。今年の秋に、コンセルトヘボウ管の来日公演をミューザ川崎で聴く。そのときに会えるのが楽しみな1人なのだ。 
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アレクセイ・オグリンチュク氏(RCO)のモーツァルト・オーボエ作品集


あの名曲のオーボエ協奏曲、オーボエ四重奏曲、ヴァイオリンソナタのオーボエ編曲版からなる。リトアニア室内管との競演。

美音の映える伸びやかなフレーズで、しかも刻々と変化する絶妙のニュアンス、急速なパッセージでも細かい音符ひとつ疎かにせず機微あふれる吹きこなし、そんな感があってじつに素晴らしい。

BISの録音の特徴は、ダイナミックレンジが広いのか、全体として録音レベルが低い感じなのだが、解像度の高さや鮮度感は抜群で透明感がある。前作のバッハ作品はちょっと残響多めで、弦の中にオーボエの音色が埋まる感じの腰高サウンドだったのだが、今回のモーツァルト作品はまったく録音のテイストが違う。

まずオーボエの音色が凄い録音レベルが高くて前へ前へ出る感じだ。そして音の包囲感が前作と比べてほとんど感じない。オーボエの音色があまりに大きいので、強奏のときに、耳に突き刺さる感じで、ちょっと歪む感じになる。オーディオ再生的に結構厳しいディスクだと思う。

私は思わずいつもより音量を下げました。あせあせ(飛び散る汗)適正音量というのがある。

トーンマイスターのクレジットを見てみると、前作のバッハ作品のときと比べて、プロデューサー&録音エンジニア共に全く新規に入れ替わっている。やっぱりトーンマイスターが違うと、こんなに録音のテイストが違うんだな、と当たり前なのだが思った。

でも、このオグリンチュク氏のBIS盤を聴いてしまうと、昔聴いていたマイヤー氏のDG盤はとても聴けない感じ。

マルチのハンディもあるかもしれないけど、今回のほうがサウンドの完成度は抜群に高い。

聴いていてとても心地よいディスクだ。

常日頃、木管楽器というのはオケの顔、というか華というか、そんな華やかなイメージを受ける。たとえば、よく視聴するベルリン・フィルの演奏風景で、カメラワークでフルートのパユやオーボエのマイヤー(あるいはジョナサン・ケリー)をショ
ットで抜くシーンを観るとすごくイケているし、カッコいいと思ってしまう。もちろん音色的にも木管はオケの下支え的でありながら要所要所で前にも出るとても重要な役割でもある。

特にオーボエの音色が大好きだ。フルートの金属的な音色よりもオーボエの暖かみのあるしっとり感がなんとも聴いていて気持ちがいい。

そんなオーボエの音色でこのバッハやモーツァルトの素敵な旋律を吹かれると、これは本当に最高に至福な音楽なのだ。もちろん、このディスクはオーディオオフ会で求められるような、音の凄味を味わう、そういった類の録音ではない。あくまで弦/ピアノ/オーボエによる軽奏音楽で、BGM的に、音楽を楽しめるそんな1枚だと思う。

ぜひ聴いてみてください。


PENTATONE・ヤノフスキのタンホイザー [ディスク・レビュー]

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オランダの高音質レーベルPENTATONEからヤノフスキ/ベルリン放送響のワーグナー・チクルスの通算6作目の「タンホイザー」がついに発売された。自分が現地で実演に接した公演である。

非常に楽しみにしていた。ところが実演に接してみて、日本でかなりハイレベルな予習をしてしまったために、現地での実演はやや聴き劣りする感覚で、がっかりしてしまった。そして現地では、その酷評日記を書いてしまった。

今回そのライブ録音が発売になって、凄い複雑な心境。自分のライブラリーとして残る訳だから、優秀録音で素晴らしい演奏であってほしい、と思う反面、自分が生演奏で感じた感覚がなまじウソではないことも証明したい、でもいま思うには、やはり前者。未来永劫資産として残るわけだから、やはり素晴らしい作品であってほしいと願っていた。


事の発端は、2年前に帰任以来15年ぶりに海外旅行を再開しようと思い、それも海外音楽鑑賞旅行という自分にとって新しいスタイルでチャレンジし、その第1段としてベルリン・フィルハーモニーでベルリン・フィルを聴くということを目標にした。そのときに公演の隙間を埋める意味で、フィルハーモニーでヤノフスキ/ベルリン放送響のニュルンベルグのマイスタージンガーの演奏会形式を聴くことにした。

ところがチケットが、ベルリン・フィルの2倍以上する高額でどうして?と思ったら、この公演は、ヤノフスキのワーグナー・チクルスの一環で、PENTATONEが収録している、ということがわかった。なるほど高いわけだ。

それで、この公演がじつは素晴らしいプロジェクトであることが判った、という次第なのである。2011年に「さまよえるオランダ人」でスタートして、ワーグナー生誕200周年を迎える来年2013年に「リング4部作」で完結する、という足掛け3年かけた壮大なプロジェクト。

なぜワーグナー・オペラの演奏会形式なのか?

ヤノフスキはこう言っている......

「今ワーグナーのオペラは演出過多で、舞台に気をとられて、目で聴くことを余儀なくされ、音楽に集中できない。思考プロセスが目に左右されるのではなく、耳で集中して聴いてもらいたい。歌と音楽をよく聴けば、頭の中で自ずと場面が浮かぶだろう。演奏会形式で鑑賞することでワーグナー音楽自体が持つ素晴らしさを認識してほしい。」

偶然とは言え、こんな素晴らしいプロジェクトの生公演を経験できたのだから、凄いことだ。ゴローさんも日記に取り上げてくれて一緒に盛り上げてくれた。

そしてマイスタージンガーの生公演を経験して、そのライブ録音が、PENTATONEから出るときだった。一昨年(2011年)の11月下旬だったと思う。じつはPENTAONEのSACDというのは、PENTATONEの海外のHPサイトから直接購入した方が、速く入手できるのである。日本のHMVとかを経由するとなぜか発売延期が重なって入手が凄い遅れてしまう。案の定、このマイスタージンガーも日本では発売が遅れていた。

そのときゴローさんからメールが入って、「マイスタージンガー入手しましたか?」
「まだです。」と返信したら、「じつは2枚購入したので、1枚譲るから、そちらの注文をキャンセルして!」と言われた。

「間違って」はゴローさんらしい下手なウソで、日本で発売が遅れているのを見越して、気を使って手配してくれたのだと今でも信じている。

みんなの話を聴くとゴローさんって、いろんな人に同じようなことをやってたみたい。(笑)

私は自分の注文をキャンセルして、ゴローさんの口座に代金を振り込んで、後日、自分の仕事を定時で切り上げて、渋谷のNHKまでブツを取りに行った。

ディスクを渡してハイさよなら、じゃなんだから喫茶店で少し話しよう、ということになった。

「先にリリースされた「さまよえるオランダ人」はエルド・グロートが録音エンジニアのチーフだったが今回の「マイタイージンガー」は、同じくフィリップス時代からのベテラン、 ジャン=マリー・ゲーセンがチーフ。その結果 同じホールで同じ指揮者・オーケストラなのに 録音のテイストはやや異なるんだよね。 「オランダ人」は、ダイレクト感が強く、低域方向の隈どりがはっきりした録音であるのに対して 「マイスタージンガー」は、もっと残響が豊かで、木管楽器の色彩感が豊かな印象だね。」

「この「マイスタージンガー 第1幕の前奏曲」には、思い出があって大学の入学式で 毎回演奏される曲目だった。 大学に入ったらクラブ活動で学生オーケストラに入るものと心に決めていたから、期待通りの達者な演奏に、「ヤッター!」と受験合格の喜びをあらたにしたものだ。 その後自分も下級生のためにこの曲を何度も演奏した。バイオリンに関しては、第1バイオリンでも第2バイオリンどちらでも面白い。 バイオリン以外でも 管楽器・打楽器すべてのメンバーが 演奏していて面白いというし、聴いても面白いから、実に上手く書けたオーケストラ曲の傑作といえるんだよ。しかし スピーカーが欲しいのとオーケストラに入りたいという二つの願望から進学する大学を選ぶバカは 他にはいないんじゃないか。(笑)」

と仰っていた。この内容はそのまま後日日記にされていた。
実際自分が生演奏に触れた公演をこうやってSACDで聴くのは何とも言えない、そのときの場面が蘇る感じで感動だった。

そして2年目の去年、同じくベルリンで偶然にも再度このヤノフスキ/ベルリン放送響のワーグナー・チクルスを体験することが出来たのである。「タンホイザー」だった。なんという幸運だろう。
この公演、当初ベルリン・フィルの公演カレンダーに掲載されていなくて急遽スケジューリングされた。なので、じつはすでにコンツェルトハウス・ベルリンの公演をその日、時間帯に予定を入れていたのである。コンツェルトハウスもぜひ経験したかったので、悩んだ。

そんな折、エム5さんが家業を廃業したということで、ちょっと祝いにエム5邸オフ会に行こう、そのときに美味しいトンカツを食べに行きませんか?とゴローさんからお誘いを受けた。その行きの電車の中で、「絶対タンホイザーだって!コンツェルトハウスはなくなったりしないから来年やいつでも体験できるけど、ヤノフスキのワーグナー・チクルスは、これを逃したら、もう二度と経験できないんだよ!公演の質・レベルの高さからタンホイザーを選ぶことが後で後悔しない選択というものだよ。」

とアドバイスしてくれた。それで私もふんぎりがついた。

いま思うにこの選択は大正解で、ヤノフスキのこの一大プロジェクトを2度も生公演を聴けるなんて、凄いことだ!しかもライブ収録でSACDとして後世に残るし、後で自分で聴ける。

そして本番では最前列で聴きました。(↓)
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そのときの私の一生の後悔は、このタンホイザーの生公演を聴いて、酷評日記を書いてしまったことだ。

でも当時の自分の感性では、ヤノフスキだから、きっと凄いタンホイザーが聴けるに違いない、という凄い期待が募りに募っている状態だった。ところがそういう期待の下、万全を期して実際聴いたところ、同じく東京文化会館の東京春祭で聴いたタンホイザーがあまりに素晴らしかったので、それと比較すると聴き劣りする感覚だった。特に歌手達の歌い方、声質に不満があった。ベルリンでの最大イベントだったし凄い楽しみにしていたので、ホテルに帰ってからの私の落ち込みはそれは可哀想な感じであった。日記を書かない訳にもいかないし、書いている内にどんどんハイになってしまって酷評日記となってしまった。

酷評日記は読む側からすると気持ちのいいものじゃないだろう?
この公演を私に推薦してくれたゴローさんはこの日記を読んで、どんな風に思われただろうか?

亡くなられた今となっては挽回するチャンスもなく、これが唯一の後悔なのである。

そしていよいよそのライブ収録のSACDが発売になった。(↓)

ヤノフスキ指揮ベルリン放送響 楽劇「タンホイザー」演奏会形式上演
PENTATONEレーベル 
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録音・編集を経てのパッケージメディア制作は奥が深く、トーンマイスターが誰なのか?どういう録音エンジニア・スタッフなのか?で、同じコンサートホール、同じ指揮者・オーケストラなのに、出来あがる音は全然テイストが違うものになる。

PENTATONEが収録しているこのワーグナー・チクルスも「さまよえるオランダ人」「ニュルンベルグのマイスタージンガー」「パルジファル」「ローエングリン」「トリスタンとイゾルテ」そして今回の「タンホイザー」と通算6作目まできた。

不思議とこの6作ともぞれぞれ違った音のテイストだ。
今回のタンホイザーは、トーンマイスターは、フィリップス時代からのベテラン、ジャン・マリー・ゲーセンがチーフ。マイスタージンガーのときと同じだ。

まずトレイに乗せて最初に出てきた前奏曲の印象から感じたのは、やはりPENTATONEらしい残響豊富なロマンティック路線である、ということ。響きと音像はトレードオフの関係で、響きが豊富だと音像が後ろに引っ込んでぼやけてしまう感覚になるのだが、この作品はかなり明瞭でくっきりしている感じで鮮やかな印象を受ける。

マイスタージンガーのときは、残響豊かであるのと同時に、質感が柔らかくて表現が悪いけどこもっている感じに聴こえるのだが、タンホイザーは、同じ残響豊かでも音質はソリッドな感じで、すごいくっきりしている。タンホイザーのほうが録音がいいような感じだ。

もうひとつ、いままでと違う印象を受けたのは、リアの使い方。オーケストラのサラウンド収録というのは、主旋律は大抵フロント3本から出てきて、リアはあくまでフロントの補完的な感じでホールの響きを聴かせるような役割が多い。そのほうが本当のホールの座席で聴いてる感じがして自然だからだ。間違っても映画のように各スピーカーからバラバラに効果音を出すような感じであざとく包囲感を出すようなことはしない。

でも今回のタンホイザーはフロント3本とリアが結構別々の音を出してサラウンド感を出すような処理をしていて意外だった。でも全編がそうなのではなくて、前奏曲、入場行進曲、巡礼の合唱などの有名なアリアのみである。
普段の場面は基本のフロント3本が主軸です。

あと、印象的だったのが、やはり各歌い手の声がかなりの高い音量レベルで収録されていて、ディスクで聴いていると決してオケの音に負けない感じで声が主張していることだった。

これはすごい嬉しかった。生演奏で聴いていると、やはりオケの音量に対して人間の声量は聴き劣りがするバランス感覚。それが今回ディスクで聴くと、編集の段階で、人間の声とオケの音量とのバランスを考慮してくれたのか、声がとても大きく明瞭に聴けるのでこれは生演奏で聴いているより遥かにいいな、と思った。

クラシックの録音は原則オフマイク録音のようだが、今回歌い手それぞれにマイクがついていたかどうかよく覚えていないのである。(笑)(確かなかったような......天井吊りマイクだったような?))

生演奏で聴いているのと、オーディオで聴いているのとで1番違いを感じるのは、空間の広さ、つまりダイナミックレンジの違い。

これはやっぱり生演奏にはとてもかなわない。あのホールの中で聴いている空間いっぱいに音が広がっていく感覚は、絶対オーディオでは適わない。

これが1番悔しい。少しでも生演奏に近づけるように頑張るんだけど、オーディオの永遠のテーマでしょう。

でも今回は、そんなに劣等感を抱くことはなかった。確かに空間の広さを再現するのはかなわないけど、人間の声とオケの音量バランスとか、オーディオならではの聴きやすさがあると思うし、これはこれで、オーディオ的な楽しみ方ができる録音に仕上がっている、と思う。

さて、生演奏のときに印象が悪かった各歌い手の声質。まず主役のテノールのタンホイザーであるロバート・ディーン・スミス。実演では声量がいまいちの感があったが、オーディオで聴くとなぜか素晴らしい。(笑)編集の段階で操作しているのかもしれないが、声が十分に主張している。この人の声質はもともと好きだった。
マイスタージンガーのときのヴァルター役も素晴らしかった。
いかにも2枚目という感じのテノールである。

そして実演では聖女エリザーベトのイメージとは違って、息遣いも荒くダイナミックな歌い方に違和感のあったソプラノのエリザーベトであるニーナ・ステンメ。
これもオーディオで聴くと、不思議とあまりその粗さというのが目立たない。(笑)最前列で聴いていると、その息遣いがはっきりわかったのだが、オーディオで聴くとマスクされている感じで全くそんな感覚はなくてふつうの美声で素晴らしい、と思った。

バリトンのヴォルフラムであるクリスティアン・ゲルハーヘル。この人はやっぱりオーディオで聴いてもダメだったなぁ。(大笑) 歌い方に安定感がなくて、バリトンとしてはあきらかに低音の音量感、声量不足。あの有名アリア「夕星の歌」がまるっきりダメ。甘い旋律なのに酔えない。(笑)
実演では、彼の巻き舌が気になったのだが、オーディオではあまり目立たない。

総じて、最前列で生を聴いていると、歌い手の息遣いがはっきりと分かる感じで、粗が目立ったりしたのだが、オーディオとして編集されると、その粗さがほとんど目立たず、パッケージとして聴く分には素晴らしいのである。

たぶんこのSACDを聴いた人は、ノンノンさんは、これのどこがダメだというの?という感じかもしれない。

オーディオは生演奏にかなわない点が多いけど、このタンホイザーに関しては、オーディオとして聴いたほうがずっと商品としての完成度が高い感じがした。オーディオとして聴いているほうが、ずっとまとまり感があるし、素晴らしい公演だと思えるのだ。つまり演奏しっぱなしの生演奏に対して、編集側で上手に聴きやすいように、ひとつのパッケージ商品としてまとめる作品としての完成度の高さがあるのだ。

オーディオのほうが生演奏よりも勝つこともあるのだ!純粋にタンホイザー の録音としては、素晴らしい作品だと思う。


ワーグナー音楽をSACDでしかも5.0chサラウンドで聴けるというのは、本当に斬新で贅沢なことだ。オペラ音楽のCDはいまだに古い録音が名盤として幅を利かせているところが散見されるが、こういう新しい録音がどんどん増えていって欲しいと思う。

新しい録音のほうが、古い録音に入っている情報を遥かに超えるダイナミック・レンジの広さ、情報量、そして高い解像度、表現力があって、古い録音の時代には捉えれなかった音のさまというものがある。

オーディオマニアの私からするとそれが昔からクラシック界に存在する演奏論の議論を遥かに凌いでしまうファクターなのだ。

ゴローさんの晩年の日記ですごい衝撃を受けた日記がある。
「新しい録音を聴こうよ!」という日記だ。

ご存知のようにクラシックという世界は、巨匠や名演奏家、そして名演奏など大半が音源が古いものだ。一方で録音、編集技術やオーディオ機器などの再生機器などのテクノロジーは日々どんどん発達する。ところが最近のクラシック界は巨匠と呼ばれたりカリスマのある演奏家が少なくなってきている。なので、こういうテクノロジーの発達とクラシックの音源というのは、まったく正反対のところにあってクラシックファン、そしてオーディオファンの両方に関わる人にとって凄いジレンマがあるのが実情。(古い録音のリマスタリングも盛んだが、大半がダメダメのようだ。)

そういう背景の中でも、ゴローさんは新しい録音のほうに重きを置かれ、新しい指揮者、演奏家を発掘して、新譜を毎回紹介してくれた。この「新しい録音を聴こうよ!」の日記の内容は、たぶん反感を抱いたマニアの方も多いのではないか?と思う。

クラシックの世界では昔の名盤、名演奏を大切に聴く、という方も多いし、そういう古い録音、当時の演奏解釈ならではの価値というのもあると思うからである。

まさにワインのように何年の録音で、この名演奏といった価値観を共有する。そんな世界もある。
(クラシックの世界に長く接していると、そういう考え方の方が多いのを実感します。)

古いものを切って捨てて、新しい録音、新しい再生装置で聴くことこそチャンレンジなことだ!と断言してしまう、これはゴローさんのような立場の人だから言えるんであって、平民の私が日記で言おうものなら、袋叩きに合って日記が炎上するのではないだろうか。内心そう思っていても、とてもおおっぴらに宣言なんてできやしない。

そういった点でかなり大胆な日記だと思った。 

私はオペラの市販ソフトは、1回観たらその後は、CDで聴くことが多い。映像ソフトって1回観たらそれまでで、何回も繰り返して観る気にはなかなかならないものだ。

でも音楽は違う。何回も繰り返して聴いても、ながら族ができるので、映像ほど疲れない。なのでオペラはCDで音楽として聴くことがとても好きだ。まず音楽ありきのところがあって、音楽が冴えないオペラは好きになれないのである。

そういった点でこういうオペラの音楽CDは大歓迎だし、自分がオペラの予習する段階ではとても大事なマテリアルでもある。そういうCDが最新録音技術で収録されているのは、なんともいえなく有難いのである。新国立劇場でのオペラ形式での「タンホイザー」はもちろん観に行くのでいま予習として重宝している真っ最中である。

陶酔感があってザ・ドラマティックなワーグナー音楽を、このPENTATONEの最新優秀録音でライブラリーできることは本当に素晴らしいことだと思う。

このヤノフスキのワーグナー・シリーズ、自分の人生の中でも絶対忘れられないディスクになりそうだ。

このディスク、先日のエム5さんちの凄いマルチで聴いてみたかった!(笑)

日記でまだ未公開のタンホイザーの公演のカーテンコール
手前にいるのが主役のタンホイザー役のロバート・ディーン・スミス、
そして水色のドレスが、エリザーベト役のニーナ・ステンメ。
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