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ミューザ川崎音響設計 小野朗氏による音楽サロン「心地よい音響」 [音響設計]

ミューザ川崎の市民交流室でおこなわれる「音楽サロン」という特別企画。今回のテーマがミューザ川崎の音響設計をおこなった小野朗氏がプレゼンターで、テーマも「心地よい音響」。

かなりそそられた。(笑)

楽しみにしていた。

日本のコンサートホールでは、抜群のアコースティックという評判を誇るミューザ川崎の音響設計は、小野朗さんが担当していた、ということにまず興味を持った。


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photo by Kresimir Strazanac

自分は、縁があって、このミューザ川崎の空間デザインを設計した一級建築デザイナーの小林さん(女性です!)と知り合うことができた。いまから3年前なんだな。自由が丘にある設計事務所に伺ったことがある。

壁には、自分が手掛けてきたコンサートホールの数々の写真が、額縁に入れて飾られていた。
その中でもミューザ川崎は、一番誇らしげに見えた。(笑)

音楽ホールの設計という立場上、コンサート通いは、2000回以上、海外は500回以上、オペラは400回くらいというコアなクラシックファン。毎年ヨーロッパをはじめ世界中のコンサートホール&オペラハウスを訪問し、自分の仕事のための糧としている。クラシック音楽には、大変造詣が深く、ご自分でもピアノを弾かれる。(最近クラリネットも始められた。)

まさに自分の価値観の模範となるようなものを持っていらっしゃった。

大変なクラシック好きでもあるので、ついには自分の設計事務所にてサロンスペースを造られて、定期的に室内楽のコンサートを開催している。

自分は、この室内楽コンサートに招待されて事務所を訪問させていただいたこともある。

川本嘉子さん×三舩優子さんのリサイタルだった。

そのとき撮影した小林さんや、川本さんとのツーショットの写真はいまでは大切な宝物である。(笑)

以来、いろいろ教えていただいたことも多かった。

ミューザのあの斬新で奇抜な空間デザイン。

「じつはあの空間デザイン設計をするのに、 ベルリンフィルハーモニーに何回も通って、観客席を実際に何回も測定してきたのですよ。」

だそうだ。

自分は、「なんか2階席など水平じゃなくて床が傾いているんですよね。左右非対称だし、なんかホールの常識センスがことごとく覆されました。(笑)」

本人は笑っていたが、いま考えれば、本人に面と向かって、ずいぶん失礼なことをズケズケと言ったもんだ(笑)と思うのだが。あの当時は恐れを知らなかったな。

「このホールは10年前このマーラー8番「千人の交響曲」で始まりました。

このプロジェクト、設計の前の調査の段階が5年、基本設計&完成が8年、 長いプロジェクトでそれに全部関わってきたのは私とパートナーのHだけです。

設計施工をまとめていた都市機構、川崎市は役所ですから2年、あるいは4年で異動があり何度も担当が変わりましたし、市長も変わりました。建物全体の設計をしていた事務所も担当が3回かわり、永田音響も3回変わりました。フランチャイズも設計段階は読響だったのが東響に・・・でも今思い返してみれば一番重要なときにいい担当者に恵まれた結果とも言えます。

そのすべてがそろわないと設計者だけではいいものができないというよい例になったと思います。

私が関わったホールでもコンテンツが伴わないために全く知られていない(使われていない)ホールもあります。そういう意味ではミューザはとても恵まれていると思っています。何しろ最初の段階では川崎なんかにクラシックのホールをつくっても呼び屋さんはどこも使ってくれない、だからあきらめてポピュラー系のホールにした方がいいと言うのが大方の意見でした。」

小林さんに教えていただいたことで印象的だったことは、

「みなさんは、コンサートホールというと、音響ばかり注目しますけど、音響だけが重要なのではなくて、じつはその”空間のありよう”もすごい大切なファクターなんです。」

ということだったかな。


ミューザ建立までに、そのような苦労が重ねられてきた歴史であることを知ったとき、ではそのミューザの音響設計は、誰がやったのだろうか?

このホールを、”音響設計”という立場で小林さんといっしょに造り上げたのは誰なのだろう? ということをずっと思っていた。

偶然、今回の音楽サロンで、小野朗氏の存在を知って、そうだったのかー、という感じで万来の感がある。 


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小野朗氏。

小野さんは、永田音響設計の取締役プロジェクトチーフ。

これまでにミューザ川崎、よこすか芸術劇場、神奈川芸術劇場、紀尾井ホール、福井県立音楽堂などの代表作がある。1998年に「サントリーホールの音響設計」で日本音響学会技術開発賞を受賞されている。



以前日記にしたと思うが、音響設計という仕事は、基本計画の段階から音響面のアドバイスをし、コンピューターシミュレーションを使って反射音の分布などを検証しながら設計していくのが主な業務。

なにせ建築物なので、作ってから、やっぱり音響ダメでした、作り直します、とはいかない世界。出来上がるまでに慎重に慎重を重ねる。

この音響設計の世界では、コンピュータシュミレーションの登場は画期的だった。
それまでの膨大な手計算が必要だった工数を、一気に削減してスピード化できた。
もちろんシュミレーションだけでは、わからないことは縮尺の模型を作って実験する。


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サントリーホールの模型実験


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ミューザ川崎のコンピュータシュミレーションによる初期反射音の分布図


音響学というものがあり、音響設計者は、その理論に基づいて設計する技術者のこと。
その「快感」というものを数値化することを考えたものが室内音響学になる。

耳で聴いた気持ち良さを数字にするとどうなるのか。その完璧な“ものさし”ができるとホールの音響設計に大きな指針ができることになる。

そんな世界。。。

小林さんとともに、この小野さんが、ミューザを造り上げたんだね。

小野さんといえば、こんな武勇伝もある。

ミューザが大のお気に入りな世界的指揮者といえば、ヤンソンスとラトルなのは、超有名な話。

2005年11月、完成間もないミューザ川崎シンフォニーホールで、ベルリン・フィルのコンサートが開かれた。終演後、芸術監督のサイモン・ラトルが「音響担当者に会いたい」とリクエストした。

恐る恐る楽屋に顔を出した永田音響設計の小野朗さんを迎えたのは満面の笑顔だった。「このホールの音響は実に素晴らしい。聴衆の反応も良く、楽しく指揮できた」

ひとしきり話しをした後、真剣な表情で彼が言葉を継いだ。「ベルリンのホールの音響をもっと良くしたいのでぜひとも協力してくれないか?」

舞台を取り囲む客席が段々畑のように積み上がる「ワインヤード形式」が採用されたミューザ川崎。永田音響設計では、同じ形式でサントリーホールも手がけている。 しかし、そもそもこの形式で最も有名なのは当のベルリンフィルハーモニーホールだ。

小野さんの目標でもあった。

「あこがれのホールの責任者から、逆に褒められ、最高の気分を味わえました」

う~ん、じつにいい話!!!感動~。(^^)


そんな小野さんによる音楽サロン「心地よい音響」というタイトル。確固たる実績を積み重ねてきた人だけに、その言葉も重みがある。

どんな内容なんだろう?ということで、この日をとても楽しみにしていた。

場所は、ミューザ川崎にある市民交流室。

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サロンの内容は、タイトルの「心地よい音響」というそのもののというよりは、ホール音響についての説明、そしてそこへの伏線という感じで、いま考えてみると、その筋書シナリオがよく考えられているなぁ、という想いがした。

前半は、コントラバスの魅力について。後半はホール音響。

なんでコントラバスなのか?最初不思議に思ったのだが、そこへの伏線があるんだな。

コントラバスは、チェロよりさらにひとまわり大きい低弦中の低弦楽器。
それを2台も使う贅沢さであった。それにピアノが加わる。


サロンは、小野さんのプレゼンターに、その間にコントラバス2台とピアノによるトリオの演奏を随所に挟む、という構成であった。

コントラバスの奏者は、久松ちずさん(東響)、渡邉淳子さん(東響)、そしてピアノが、福士恭子さん。

実際の進行は、堅苦しくならずに、笑いが絶えないとても朗らかな雰囲気で進められた。



コントラバスを取り上げたその目的は、「ステージ床による振動、鳴り」について言及するための伏線だった。

まずコントラバスは、とてもおおらかな性格の楽器というところから始まり、楽器の構造の説明、コントラバス奏者の感想など。

チェロもそうだが、コントラバスも、その楽器の底辺にエンドピンを取り付けて、それをステージに刺して演奏する。こうすることで、楽器の振動が、ステージに伝わり、そこで振動、鳴りが生じて、それがホール空間に伝わって大きな鳴りとなる訳だ。

なんかホールによっては、ステージに傷がつくことを嫌がり、エンドピン刺すのを禁止するホールもあるらしいが、小野さんによるとそれは問題外。

ステージは消耗品。

ホールのメンテナンス改修でステージ張替えをすれば済む話。代替えでゴムを使うこともあるらしいがそれじゃダメ。やはり直接エンドピンでステージにザクっと刺してこそ、振動も伝わる。

よくチェロ協奏曲などのコンチェルトでは、ステージ上でバックのオーケストラに対して、ソリストのチェロ奏者は、前で台座のようなものを敷いて、その上で演奏する。

それが、まさにこの原理に準ずるところなのだ。
ステージ床下は空洞でないといけない。

空洞でないと振動しないのだ。

この台座の中は、もちろん空洞になっていて、その上で演奏することで、ステージ上よりもさらにそのチェロの音色が、エンドピンを通じて振動が返ってきて、ホール空間に放たれるということなんだろうと思った。

今回も市民交流室の中って、床下にコンクリートが張られていて、その上の床張りなので、振動しない。それじゃ困るので、わざわざ、今回のために、この台座を持ち込んだ。

結構音マニアが喜びそうな要素を散りばめた感があって、たとえば楽器の底辺に取り付けるエンドピンの種類を変えると(たとえばオーディオの世界では常識の真鍮やチタンなどの構成のものに変える。)、コントラバスの音色はどのように変わるのか、などの実験が行われた。

自分も、かねてより、ホール音響にとって、この床鳴り、ステージの鳴りが大きな影響を及ぼすことに注目していて、ステージ上のオーケストラが演奏することで、そのステージ床の振動でどっと鳴って化けることで、それが秀逸な音響となる原因なのだろうと理解していた。

そういうことで、なぜ小野さんがコントラバスの話題を前半に持ってきたのかは、このステージの床振動がホール音響にとっては、とても大切な要素なんだよ、というテーマの大切な伏線になっていたのでは?といまから考えると思うのだ。

小野さんの後半の話では、ホール音響の研究は、ホールのプロポーション(寸法:高さ×横×奥行き)がじつはとても大切なファクターで、この寸法次第で、いろいろなところから反射音が返ってくるその密度が違ってくる。

つまり聴衆が、いい音響と感じるかどうかは、このプロポーションが大きな要素、いままでは長年かけて、そういうところに注目されて研究がなされてきた。

でも意外や、ステージの鳴りについての研究というのはされていなくて、これからの新しいテーマ、と仰っていた。

ステージの床下構造、床の素材など奥が深そうですね。床は柔らかすぎもダメだけど、固すぎて振動しなかったら全然ダメ。こうやって床振動で音響がドッと化けることが重要なファクターなのだ。

プロポーションが大事、床振動、床の構造が大事って、まさにオーディオルームそのものですね。(笑)

そうすると、そういう振動による鳴りが、とても重要という事は、空洞でないといけない、中を詰めちゃいけない、というのが原則。実際問題、ホールって(たとえばウィーン楽友協会)床に限らず、四方八方を空洞な構造で囲まれている。

以前、自分はオーディオなどで、壁、天井、床など、その中の構造が、あまりに空洞が多いと、それらに対しての反射音が共振してしまい、音が濁る原因になるので、よくないという理解を持っていた。空洞でなくて、中は詰めたほうがいい、というような。。。

安いマンションやアパートの部屋でのオーディオの音がよくないのは、その壁の中が空洞になっていて、反射音が共振してしまうのが、その原因と理解していたのだ。

これと反するんだな。コンサートホールの場合。コンサートホールは確かに石で造られたホール、教会を除いては、空洞を利用した振動、そしてそれが空気、ホール空間へ伝搬されるファクターをとても重要視しているように思われる。

ちょっと自分の新たな課題にします。

コントラバスについて、大変面白いことをもうひとつ仰っていました。

昔、小野さんは、指揮者の佐渡裕さんに呼ばれて、いわゆる佐渡サウンドについてアドバイスをもらったそうだ。

オーケストラのサウンドの中でキーを握るのは、じつはコントラバスとティンパニー。コントラバスに要求されるのはスピード。他の楽器に対して、コントラバスが一瞬のタイミングの速さで出ることで、全体のオーケストラ・サウンドの奥行きが出たりする。まさに、これが佐渡サウンドの真骨頂なのだそうだ。(そのように指揮者としてキューを出す。)

だからこのコントラバスの音が通りやすいホールを設計してほしい。

それイコール、エンドピンを通じてのステージの床振動について、もっと研究がなされるべき、ということにつながるんでしょう。

今回コントラバスをテーマに持ってきたのは、こういう大切なファクターへの大事な伏線になっていた、と自分は理解しました。

深い、というかよく考えられていると後になって感心。


後半は、ホール音響の歴史についてのお話。

一番最初は、ローマ時代の野外劇場。ステージ前方の座席では音は聴こえるけれど、段々で上がっていく上の席では音が聴こえない。当時の時代の人は、その対策として、最上段の席のところに屋根を付けた。この屋根からの反射音で、上の方の座席の人にも音が聴こえるようになった。

まさにいまのコンサートホールの反響板の役割のルーツがここにあったんですね。

そこからこの野外劇場の進化版がどんどん作られて、U字型の野外劇場が作られるようになる。
このU字型スタイルが、当時のオペラハウスの馬蹄型のルーツになった。

そこから教会、シューボックス、ワインヤードへのホールの進化は、すでに自分の日記でも取り上げた通り。

面白かったのは、段々のぶどう畑を想定して造られたワインヤードのホール。
やはり正式名称は、”ヴィニヤード”型のホールというのが正しい呼称のようだ。

それをワインヤードと言い出したのは、サントリーホールの時代から。サントリーだから「ワイン」ヤードと言った。(笑)

そうだったのかー。(笑)

でもたとえ、正式名称は、ヴィニヤードでも、自分はやはり慣れ親しんだワインヤードを使い続けるかな?

こんな感じのサロンだった。

こうやって書くと、とても難しそうだが、実際はいたってフレンドリーな朗らかな雰囲気でおこなわれた。

面白かったです。



2011年3月11日。あの東日本大震災のとき。
ミューザ川崎は被災した。

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”まさに被災地”

この事故、この報道写真は当時のクラシック音楽界に大変な衝撃を与えた。
やむなく2年間の休館を余儀なくされた。

修理費用として、国が1/3を補助する事態になった。

当時、この写真を見たとき、自分もかなりショックだった。
自分の身近なところで起こったことなので、尚更。

これ、まだホール内に誰もいないときだったから救われましたよね。もしコンサート中に起きていたら、このように天井が陥没し落下しているので、大変な大惨事になっていたはず。これだけは不幸中の幸いだったと言える。

そして懸命な修復作業が行われた。

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2年後に見事リニューアル・オープン。

あの音響アコースティックがきちんと復活されているのか?というのが当時の心配だったが、そんな心配も無用のことだったようだ。

自分はミューザ川崎のレジデンス・オーケストラである東京交響楽団(東響)の名曲全集の定期会員を3年間続けた。

2CAブロックの座席を2年。2CBブロックの座席を1年である。2CBブロックは、小野さん推薦の座席ブロックだそうだ。

ミューザは家に近いので、1年間万遍なくクラシックのコンサートに通いたいという理由から、この名曲全集の定期会員になった。

東響は、まさにここ3年の間、在京楽団の中で、1番回数を聴いたオケになった。(笑)

2019年からミューザもメンテンナンス改修のためにしばらくの間、休館となるようだ。

ミューザに3年間、通い続けたことで、ここの音響アコースティックも自分の肌感覚としてある程度認識できるようになった。

音が明晰でクリア。
そして直接音と間接音(響き)の到来時間の遅れのバランスが、絶妙の立体感覚、空間の広さを感じるような音響。

これはひとえに、見た感じパッと一面に開かれたような見晴らしのいい、高さを含めた容積の広さに起因しているのではないか。

そして独特の螺旋状のスパイラル構造。
これによってトルネードや滝壺のような独特の音の流れを発生させる原因なのかも?

というのが自分のここのホールの音響の印象である。

もちろんホール音響なんて、人それぞれで聴こえ方、感じ方違うでしょうけど。。。

でも言えることは、まさに、古の常識センスに捉われない斬新な発想の空間デザインが生まれたからこそ、起きた奇跡の音響なのだろう。

今後もますますコンテンツに恵まれて、ホールビジネスとして輝かしく発展されることを心からお祈りするばかりです。





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